フランスの作曲家、モーリス・ラヴェル(1875~1937)が1928年に残した稀代の名作『ボレロ』を紹介する。


今日では、オーケストラのコンサートのレパートリーとして定着しているが、本来はバレエ音楽として作曲されたものであり、あらすじは実に簡潔明瞭だ。「セビリアの酒場で、一人のダンサーが舞台で体を解すために足慣らしをしている。気分が乗ってきたダンサーは、次第にその振りも大きくなり、客席にいた酒場の客たちもが次第にダンサーに注目し始める。そして、最後にはダンサーと客が共に踊りに興じる。」というあらすじである。

単純なリズムと旋律の反復により、使用する楽器の音色と「全曲にまたがる息の長いクレッシェンド」による変容だけで曲を演出する、ラヴェルの真骨頂ともいえ、オーケストラには各パートの技量が、指揮者にはその色彩感覚とバランス感覚が要求される難曲とも言えるだろう。

1930年に作曲者自らが指揮した演奏が録音され、今日でも耳にする事が出来る。ラヴェルが意図するテンポ設定といえ、ややゆっくりとした冒頭部は印象的である。ただ、オーケストラのレヴェルが想像以上に低いのが残念でならない。歴史的意義の深い録音として、ここに紹介したい。

サイモン・ラトルがバーミンガム市交響楽団と残した録音は、滋味ではあるものの、なかなか聴き応えがある内容といえる。サウンドはフランス的ではないにしろ、バーミンガム市響のメンバーの当時の充実した音楽活動を裏付けるべく、表情豊かな演奏といえるだろう。ラトルのタクトも淡々と奇を衒うことなく堅実にリズムを刻んでおり、その一糸乱れぬ緊張感はある種の快感とも言えるだろう。個人的にはこれは、名盤である。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
サイモン・ラトル/バーミンガム市交響楽団[1990年12月録音]
【EMI:CDC 7 54303 2(輸)】

【参考盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
モーリス・ラヴェル/コンセール・ラムルー[1930年1月録音]
【Pearl:GEMM CD 9927(輸)】