ドイツの作曲家、ハンス・アイスラー(1898~1962)の作品を紹介する。若くして、シェーンベルクの弟子としてウェーベルン、ベルクと共に新ウィーン楽派の系譜を辿ることとなるが、二人とは様々な問題から決別、独自の路線を歩むこととなる。共産主義運動にも興味を持ち、音楽を用いた思想家いえる活動をした人間でもある。また、劇作家ベルトルト・ブレヒトとの協働作業は、後の彼の作品には欠かすことのできない存在と言える。ナチス台頭によりアメリカへ亡命した彼は、ハリウッドでチャップリンと協力関係だったが、終戦後は東ドイツへ移住した、歴史に翻弄された作曲家といえる。そんな彼の代表作でもある『ドイツ交響曲』を紹介する。
「反ファシスト・カンタータ」と呼ばれるこの作品は、演奏時間は60分を要し、全11楽章、4人の独唱と2人の語りも加わる正に「大作」である。重苦しい雰囲気に終始包まれたこの作品は、ファシズムへの批判に溢れた内容となっている。特に曲の後半へ進むにつれ、ファシズムへの反乱は高潮していき、第8曲「農民のカンタータ」、第9曲「労働者のカンタータ」ではクライマックスを迎え、その不満は大いに爆発するのだ。そして、終曲では悲痛な心の嘆きを静かに歌い上げ終わるというもので、当時の社会の怒りを音楽的に表現した「音楽を用いた思想家」の代表的な活動の成果といえるだろう。
終曲の歌詞はこの作品の持つ意味を表現しており、そのまま紹介したい。
「絶望して血まみれの子供たちを見てください。凍ったタンクから逃げ出して来る子供たちを見てください。狼狽する狼でさえ隠れ家を持っています。子供たちをあたためてあげてください。彼らの手足は悴んでしまっています。子供たちを見てください」
この言葉こそが、アイスラーがこの曲を通じて語りたかった当時の現実だったのかもしれない。
ここで紹介するツァグローゼクの演奏は、生々しくその悲痛な叫びを表現しており、ソリストではマティアス・ゲルネの表現力に脱帽せずにはいられない表現力といえるだろう。内容は実に暗いが、名演だ。


【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
ローター・ツァグローゼク/ヘンドリケ・ヴァンゲマン(S)/アンネッテ・マンケルト(A)/マティアス・ゲルネ(Br)/ペータ・リカ(B)/ゲルト・ギュートショウ(語り)/フォルカー・シュヴァルツ(語り)/エルンスト・ゼンフ合唱団/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団[1995年5月録音]
【DECCA:448 389-2(輸)】