リヒャルト・シュトラウスが生涯で唯一残したヴァイオリン・ソナタは、個人的には古今の数多あるヴァイオリン・ソナタの中でも最も好きなヴァイオリン・ソナタといってもいいだろう。

「ヴァイオリン・ソナタ」と題されてはいるものの、この曲ではヴァイオリンだけが主役ではなく、ピアノもまた主役なのだ。それぞれの見せ場に溢れ、劇的にしてロマンティックなこの世界は、互いが互いを引き立て合うかのような相乗効果に満ちているといえる。ソナタ形式で書かれた第1楽章も然り、ロンド形式の第3楽章も然り、ヴァイオリンとピアノ、両者の腕を遺憾なく披露する事のできる名作といえるだろう。

残されている録音の数々もヴァイオリンとピアノ共にヴィルトゥオーゾが名を連ねるものが多い中で、チョン・キョンファとツィメルマンの演奏がお薦めである。とにかく両者が「いい意味で」火花を散らしながらも協調に協調を重ねて迎える第3楽章はシンフォニックなまでに法悦感に溢れている。彼らの凄みに溢れた演奏は絶品だ。


【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床

チョン・キョンファ(Vn)/クリスティアン・ツィメルマン(Pf)[1988年7月録音]

【DG:457 907-2(輸)】