チャイコフスキーが、1890年に歌劇『スペードの女王』の作曲の為に滞在していたフィレンツェにおいて書かれた弦楽六重奏曲を、弦楽合奏版に編曲した『フィレンツェの思い出』を紹介する。
フィレンツェの名は標題に付いているものの、イタリアの「臭い」はあまり感じられず、逆にチャイコフスキーらしい郷愁溢れる弦楽器の響きを楽しむことができるだろう。かの有名な弦楽セレナーデとは趣はだいぶ違うものの、原曲のセクステットにはないコントラバスを加えたことで、より深みを増した滋味深い作品となっている。
コルステンが指揮するヨーロッパ室内管の演奏は、過度な脚色には乏しいものの、適度な起伏をもたらした絶妙な演奏といえる。コルステンの特徴なのか否か、全体を通して淡々と進行する音楽。それが、併録されている弦楽セレナーデではかなりマイナスに作用しているように感じる。あまりにも掴み所がなく実につまらない演奏で、「よくもまあドイツ・グラモフォンがこんな演奏をCD化したものだ」と憤慨してしまう位の演奏なのだ。しかしこの「フィレンツェ~」では、色は鮮やかではないにしろ、なんとも要所は締めた演奏を繰り広げており、なんとか面子は保てた感がある。とにかく、収録されている2曲は一度は聞いてみる価値はある。良いのか悪いのかは別として…。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
ジェラール・コルステン/ヨーロッパ室内管弦楽団[1992年3月録音]
【DG:437 541-2(輸)】