ヴェルディのレクイエムは数多の録音が存在し粒揃いの名演ばかり。そんな中、かなり高い水準ではあるものの日の目を見ない録音がある。グスタフ・クーンが指揮する録音だ。イタリアの山間で開催されているチロル音楽祭のライブ収録であるが、その演奏の質の高さには驚かされる。
オーケストラの響きもそうだが、ソリストと合唱団のバランスが実に絶妙だ。とりわけ、バスのシャオリャン・リーの歌声は、一聴の価値はある。中国出身で、クーンの秘蔵っ子で、10年以上前に何度か来日を果たしていると記憶している(初来日時は横須賀で第九の独唱をクーンの指揮で歌っていたような・・・)。そんな彼の歌声は、安定感と表現力はオペラの舞台で鍛錬された自信に満ち溢れている。
この録音は、佐野成宏の歌声が聴けるのも嬉しい。クーンは、オペラで鍛え上げたドラマツルギーで劇的なヴェルディの世界を演出。実にメリハリの利いた演奏である。
カラヤンやアバドの名演ももちろん感動的だが、この録音で得られる感動も、なかなかのものだ。個人的なお薦め盤だ。
グスタフ・クーン/Michela Sburlati(S)/Nadja Michael(Ms)/佐野成宏(T)/シャオリャン・リー(B)/インタール合唱団/チロル祝祭管弦楽団/ほか[2000年7月録音]
【ARTE NOVA:74321 80776 2(輸)】