現在の若手指揮者の中で、最も熱く充実した活動を見せているグスターボ・ドゥダメル。彼の活動の代名詞といえる楽団の録音を紹介する。ベネズエラのシモン・ボリバル・ユース・オーケストラだ。このオーケストラは瑞々しい澄んだ気持ちで音楽を愛する若者達で構成されているのが大きな特徴といえる。南米ベネズエラで楽器も決して良好な状態とは言い難く、恵まれた環境とは程遠い状況にありながら、その環境をも超越するパッションがそこにはある。
ここで紹介する録音は凄絶だ。宇野功芳風に表現するなら「驚天動地のサウンド」とでもいいたくなる、その印象は今までにない程に衝撃的だ。迸しるパワーとリズム、熱狂と興奮の坩堝と化した空間は技術も環境をも遥かに越え、計り知れない音楽の波動となって聞き手に迫ってくるのだ。その中でも特に印象的なのはヒナステラの《エスタンシア》の「マランボ」…特筆に値する。今までに聞いていたこの曲が、浅薄な演奏ばかりだったかのような気持ちになるくらいに、本場のリズムが炸裂するそのハイテンションぶりには圧巻である。併録されているバーンスタインの「マンボ」もまた異様なハイテンションにひたすら圧倒され続ける。
南米のリズムとパッションの真髄を見せ付けられる「目から鱗」の一枚である。


【推奨盤】
乾日出雄の勝手なクラシック音楽備忘録
グスターボ・ドゥダメル/シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ[2008年2月録音]

【DG:477 7457(輸)】