三枝成彰が書いたレクイエムは美しい。
この作品の初演を聴きに行っていた自分であり、この録音を聴いてその光景を鮮明に思い出してきた。皇后陛下がご臨席になり、いつもの東京交響楽団の東京芸術劇場のシリーズとはちょっと会場の雰囲気が違っていたように記憶している。その演奏会は前半にジェイムス・マクミランの作品が演奏され、それはそれで鮮烈だった。マクミランの日本初演と、三枝の世界初演。はじめて聴く二つの作品に出会えた全く異質の喜びを覚えている。
三枝のレクイエムはというと、フォーレやデュリュフレのレクイエムを意識したかのような構成になっており、普通のレクイエムにある「怒りの日」は三枝のこのレクイエムにはない。まさに安息のための音楽といえる洗練された三枝ワールドが広がっているのだ。
「平和の賛歌」と題された「神の子羊」以降に表れる各曲では、彼の代表作のオペラ《忠臣蔵》の第3幕を想起させるサウンドが展開され、劇的要素も充分に兼ね備えている。日本語における歌詞も実に自然な抑揚を持ち、「お涙頂戴」的な節回しが印象的であり、こればかりは聴く側の嗜好次第では、体中が痒くなってくるかもしれない。個人的には嫌いではないけれど・・・。
【推奨盤】
大友直人/佐藤美枝子(S)/吉田浩之(T)/東響コーラス/東京交響楽団[1999年3月録音]
【MAY CORPORATION:KDC-5040】]:1999年3月録音〕