日本が世界に誇るフルート奏者、工藤重典の録音の中でも、技術と表現力が抜きん出ているものがフォンテックからリリースされている『20世紀のフルート音楽』と題されて音盤だ。その中でもジョリヴェの『リノスの歌』は白眉といえる出来栄えだ。


ジョリヴェはフランス近現代を代表する作曲家で、メシアンと共に二十世紀のフランス音楽界を支えたひとりといえる。彼の作風は、おもに呪術的な性質を併せ持った原始主義的な傾向を孕んでいる。「統一のある多様性」「大胆なダイナミズム」「自由な表現」が特徴といえる。この『リノスの歌』は古代ギリシャの物語を題材にした作品で、死者を弔う祭祀の音楽を表現している。「葬礼のための厳粛な哀歌」「狂奔な舞曲」「人々の慟哭」という3つの異なった要素が錯綜しながら曲は展開し、工藤重典の表現力の面目躍如となる演奏に圧倒される録音だ。

フランスで培った色彩感がまた、この曲の情景描写をよりいっそう際立たせており、まさに、秀逸であり至極の逸品だ。

【推奨盤】
乾日出雄の勝手なクラシック音楽備忘録
工藤重典(Fl)[1983年7月録音]
【fontec:FOCD9179/80】