ハンス・ロットの『田園風前奏曲(Pastorales Vorspiel)』を紹介する。ブルックナーにオルガンを習い、マーラーの友人でもあり、ワグネリアンでもあったロットの人生は不遇の連続の25年といえる。そんな彼が22歳で書き上げたこの『田園風前奏曲』は、当時のロットの音楽家としての集大成とも言える響きといえる。冒頭のホルンは田園風景を容易く想起させるブルックナー調。その後、音楽はなんとも捉え処のないままに徐々に肥大化し、突如として轟音鳴り響き、さながらワーグナーを彷彿とさせるオーケストレーションが展開されるものの、音楽はひたすらに肥大化の一途を辿る。音楽の終着点が定まらないままに迷走する様な、彼の交響曲の終楽章のような展開をここでも見せる。しかしながら、この曲もまた何度も聴けば聴くほどに「クセ」になる麻薬のような魅力がある。それはまさにロットの作品に共通して言える「未知の可能性」を秘めているからこそ抱く、興味と好奇心からといえ、作品の随所に垣間見える「一瞬の美しさの連続」に心を奪われてしまうのだ。
ロットの人生を物語る上で、彼の交響曲は必須アイテムである。その交響曲を持って国家奨学金に応募(ブラームスに酷評されてしまったが)をしたロットだが、実はこの『田園風前奏曲』もその奨学金に応募をしている。同じ年に完成したこの2曲を聴き比べることで、彼の当時の迸る若さと情熱を感じることができるといえるだろう。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
デニス・ラッセル・デイヴィス/ウィーン放送交響楽団[1998年8月録音]
【CPO:999 854-2(輸)】