派手なあの人には翳がなかった。


笑うあの人には翳が足りなかった。


翳のある彼女はそれだけで満ち足りていた。


わたしは彼女の一滴の水を理解した。


水は、海だったかもしれない。


または汗だったかもしれない。


ひょっとしたら涙だったかもしれない。


彼女自身だったかもしれない。


わたしの歓びだったかもしれない。


それとも私たちの嗚咽だったのかもしれない。


誰かが


歴史が


いつか明らかにしてくれますよう


その前に


たぶん


滅びてしまう私たち


何処からか


始発電車の


汽笛が聞こえる


探しても無駄だと


そんな音が聞こえる。


ごめんなさい


そう叫んでいる私たちの


声が聞こえますでしょうか。


やがて虹が空を彩り


なにもかも消えてしまう。


一輪の可憐な花だけ残して。