彼女の名は、エリカ。


いつもエレガントな雰囲気を保つ彼女は、ガラケーを愛用する。


どうして彼女がITの会社に入社したのか、分からない。


Excelさえ出来ない。


iPhoneの使い方もまるっきり分からない。


こんなエリカちゃんが、私の会社に入ってきた。


始めて彼女を見たとき、学校の先生かなぁ、と思った。

 

メガネを掛けてる。


入社試験によく通った、私は感心した。


エリカちゃんの仕事は、本を読むこと。


ひたすらIT関連の本を読む。


それで私と同じ給料だから、私は釈然としない。


いかにも繊細そうな仕種。


彼女の前職は、ここでは秘密にしておきたい。


仕事を終えると、彼女は浅草橋に出る。


布の生地を買うためだった。


趣味が手芸だから、いつも浅草橋へ行く。


手先は器用らしかった。


彼女はバツイチで、子どもはいない。


独身貴族みたいに彼女は振る舞う。


声に魅力があり、低いトーンで彼女は話す。


気配りも、上手。


そんなエリカちゃんに、私は惹かれた。


彼女には女友達が一人だけいた。


それは手芸の繋がり。


昼休みになると、私はエリカちゃんを誘い、ぶらりと外を歩きまわる。


次第にお互い親しくなった。


あるとき彼女は「鈍感」と私に言った。それでかなり私は傷ついた。


だけど彼女は翌日、プレゼントをくれた。


手づくりのキーホルダーだった。


後日、彼女は異動の対象となった。


ITの会社なのに、PCもiPhoneも操作できないため。


異動とはいえ、実質的には左遷だった。


会社としては、とりあえず異動(左遷)し、いずれ解雇する段取だった。


私たちは、別れ別れになった。


一年前に、そんなことがあった。


今では私は洋菓子専門店で働いている。