こんな真夜中、私は小説を読んでいる。


なるべく丹念に、たぶん完璧を目指しながら。


耳で朗読を聴きつつ、目で活字を追う


こんなやり方だから、贅沢なのかもしれない。


或いは、ただ寂しかっただけなのかもしれない。


今、ここには


サトコもいないしサトミもいないし


マリコもジュンもいない。


三重のカーテンでしっかり閉ざし


熱と光を遮断している。


想像し


死に近づく。


私は、私自身になる。


死から遠ざかりたくない願望が


透明なこの部屋から芽生え


性の快楽が


実は生から正反対の位置にあることを知る。


短篇集の冒頭に


ドストエフスキーの『悪霊』からの抜粋がある…


「リーザ、きのうはいったい何があったんだろう?」

「あったことがあったのよ」

「それはひどい。それは残酷だ!」



で、『神の子どもたちはみな踊る』という小説は


《神様、と善也(よしや)は口に出して言った》


と最後に結ばれる。


この一句は


私を破壊するに充分だった。





信仰…


私にはよく分からない。


想像を超えているし


社会は信仰と信仰の衝突によって


分断されることもある。


深く考えても


収穫は少なそうで


デリケートな諸問題を孕むから


私は撤退する。


そして


私は、死ぬ。


死なないと、私は生きていけないから。


うまく言えないんだけど


死なないと、生きていけない。