活字中毒だった頃を思い出す。私には活字しかなく、満ち足りていた。女性の作家に、性的な魅力を感じていた。


部屋は、本で満杯。大きな本棚が幾つもあり、文学全集がそれぞれ整然と綺羅星のように並んでいた。確かに狂気の沙汰だった。明けても暮れても、文学。


或る季節、私は自分の声を聞いたことがなかった。実父はとうに他界していて、母は再婚して家を出ていた。「執筆活動に入るんですか?」と後輩が訊くから「そうです」と応えたきり、私はまるっきり無口になった、


厄介な三角関係の恋愛を片付けて、本だけに没頭した。


今になって思い返せば、私は既に病んでいたのだと思う。


時間というものを、私は理解しなかった。神話のようなことばかりにこだわった。私は、狂気を書いていたのだと思う。狂気の出口を書いてはいたものの、それさえ狂気そのものだった。


内面生活をして、嫌なことが多かった。恐ろしかった。



この続きは、また別の日に譲ります。

おやすみなさい。