「どうか当方へ恋愛感情を抱きませんように🙏🍀」


そう願いながら接している。


浮かない顔をする女性が、私の隣りに着席する。


彼女は高卒、母校は廃校になっている。

職歴は貧しい。

履歴書も職務経歴書ももはや書けない。

病んでいる。

ここ一週間くらい、元気がない。

私は、彼女に、何もできないと思う。

身なりはキチンとしている。

事務の仕事をしたい、と彼女は言う。

ヘルパーを頼み、訪問看護を依頼する彼女。

彼女の抽斗はお世辞にも豊かとはいえない。

彼女は友だちと私は割り切っている。

彼女の長所は、優しくて真面目な性格。

彼女の短所は、優し過ぎるところ、疲れやすいところ。

私の好きなネコが、彼女の目の前でくつろいでいる。

いつも彼女は驚いたような顔をしている。

時間は確実に過ぎていく。

「不安です」何度も彼女は口にする。

「母親をね」目を細め遠くを見て言う「殴りたいのよ」



先日、彼女はご自分の部屋の窓ガラスを割った。逃げるようにして保健所に連絡したという。入院には至らなかったが、うなだれている。で、私の隣りにいつも着席する。「キチンとした人が、他にいないじゃない」そう訴えて私に好意を抱いている。私はイタリアの話などをする。「悩み事、あるの?」私が訊くと黙って頷く。「殺したいと思ったりする、だから……」また彼女は黙る。今度は私が黙って頷く。「死にたいと思うことがある」目頭を彼女は抑える。ハンカチを出そうとして、私はそんなときに限ってティッシュさえ持っていない。背中を丸める彼女の肩を私はさする。彼女はひどく混乱している。



彼女の自律には時間が必要だと思う。ヘルパーさんや訪問看護さんが入っていることが、たぶん、自己肯定感を却って下げている。彼女の命を私は考える。私は敢えて自立とは言わない。その前の自律のゴールに彼女は向わなければならないと思うから。



「スカイツリーからの、夜景がね、綺麗なんだって」微笑んで私は言う。「いつか、行きたいね」笑顔いっぱいで私は言う。彼女は「うん」と頷く。そして帰っていく。



明日、私は彼女に言わなければならない。


「いつも、そばにいるよ。いつまでも、変わらないで、そばにいるから」