みーちゃんは大学一年女子、入学したばかりの四月にブロンドに染め上げた。
可愛い。
文学を専攻する。
あどけないみーちゃんは、怖いもの知らず、近所の人気者。
健康だけが取り柄。
ちっとも本を読んでない。
朝は決まって寝坊する。
家事一切は、ママに丸投げ。
仕事はコンビニのレジ打ち、そして眠ること。
学業不振は生まれつき。
みーちゃんは病む気配がない。
「では、次は、ロラン・バルト」と私が言っても口をポカンと開けている。
「みーちゃん、1960年代の勉強、しよう。フランスの現代史だよ」私は何度も何度も言ったけど、ぼんやりしてる。
で、卓球のラケットを振る仕草をしてる。
「北野武監督…」ムダと承知で私は言う。
ブロンドみーちゃん、眠ってる。
「将来、何になりたい、みーちゃん?」
「うー。え? 将来? わかんない」
「みーちゃん、泣いてたね。いつも泣いてた。子供の頃」
「……?」
「ママに怒られ、泣いてたんだよ」
「だっけ?」
「うん。泣いてた。泣き叫んでた」
目を潤ませて、みーちゃん、顔を赤らめる。
どんな会社に勤めるのかなぁ、私は心配。
でも、大丈夫。みーちゃんなら、しなやかに生きていける。
眠るのが、仕事だから。
卓球、がんばれ。