戦場は桐生が選んだシベリア湿原だった。実戦の可能性がないとはいえないけれど、めずらしい場所を選ぶものだと広翔は思った。しかし、よく考えてみれば、数ヶ月前に始まった凍国と雅国の戦争は訓練生にも濃い影を落としていたのだった。
まず攻撃してきたのは桐生の硫黄砲だった。広翔はこれを難なくやり過ごし、急上昇した。桐生もこれを予期していたようにすぐさま急上昇をはじめた。どっちが先にあたまを押さえるかの勝負になった。酸欠と寒さに耐える我慢比べだ。もちろん実際に酸欠になるわけではなく、操縦シミュレータが搭乗者の身体情報から耐久力を計算し、戦闘能力を計測するのである。
先に上昇をやめたのは桐生の方だった。広翔は勝ったと思ったが、基礎体力は大きく減少していった。広翔の視界から消えた桐生はエネルギー消費の高い水素砲に換えて撃ってきた。広翔は不意を突かれて一発被弾したが、致命傷にならずにすんだ。タゲリはすぐさま傷口を修復してトランスフォームし、反転して攻撃に転じた。
眼下に広大な緑の湿原が広がっていた。苔や地衣類や灌木が息づく、どうやら季節は夏のようだった。戦いには似つかわしくない、まったく美しい景色だった。タゲリのタカの眼は地上で闊歩するトナカイの群れもとらえていたが、広翔にそれに気づく余裕はなかった。目の前の敵だけを追っていた。
桐生は劣勢を挽回すべく斜め下方に進路を変えた。しかし、それはパイロットとして誤った判断だった。広翔は我が目を疑ったが、またとない好機にニヤリとした。
ところが、彼はその直後、思いもかけない衝撃を受けた。どこからか水素砲と思われる攻撃を受けたのである。それにより尾翼が破壊され、タゲリは墜落する危機に陥りかけたが、またしてもトランスフォームによって窮地を脱した。
「今の攻撃はなんなんだ」
広翔は想定外の事態に動揺を隠せなかった。遠方を見渡せるタカの眼を最大限に使って周囲を偵察しはじめたその直後、またしても水素砲を撃ち込まれた。が、これは寸でのところで回避した。この時になっても広翔は水素砲の出どころを把握できていなかった。
「どこに隠れてるんだ」
見えない敵の存在は彼を動揺させた。