宮城が続けた。

「日本のどんな地形だって、地殻変動と温暖化による海進を免れることはできなかったと考えられていますが、世界中のあらゆる地点の岩石が研究され尽したわけではない。それに、植物は恐竜が絶滅した隕石衝突による生存の危機を乗り切っています。我われの知りえない未知の能力が備わっているのかもしれない」

「ブナ林の真中に熱帯の温室があり、そこに太古の植物が繁茂している。ある意味、楽園、一種のパラダイスですよ」

「宮城さん、その仮説はまんざらでもないかもしれませんよ。ぼくは古生物が専門ですが、今でも恐竜の生き残りがどこかのパラダイスで生き残っていることを願っています。いや、夢見ているといってもいい」

「話を変えて申し訳ないが」

と話に割って入ったのは、民俗学者兼通訳の佐伯だった。彼はこれから訪ねて行くサンカ族の通訳として、一人だけ文科系の専門家として同行していた。

「パラダイス説がどんなものか詳しくは知りませんが、ここはまさにパラダイスではないでしょうか。さっき食べたシシ鍋も放射能におかされていないから安心して堪能できたわけですし、我われも防護服なしで調査できるのです。ここだけなぜ放射能におかされていないのですか」

そうなのか、と広翔が辻本に目配せすると、

「ああ。ガイガーカウンターはずっと1ミリシーベルト未満だった。つまり基準値未満ってことだ」

「ほんとかよ。すげえな」

「授業で習ったろ。でなきゃ、おれたちはみんなガン病棟行きだぞ。下手すりゃ隔離棟送りだ」

「お話は尽きないと思いますが、消灯の時間です。明日は今日よりも長行軍となります。しっかりと休息を取っていただきませんと」

囲いの外から横田少尉が歩み出て、カンテラの淡い光にその長身を浮かびあがらせた。武官の彼には、学者たちの興味本位の雑談が少々鼻に付いたのかもしれない。語尾に慇懃無礼な響きがこもっていた。

「おまえらもだ。斥候は速攻就寝だ」

ダジャレかよ、と広翔が小声で言うと、ああ笑えねえな、と辻本が応じた。その二人を竜崎がたしなめた。

「聞こえるぞ。上官に対する失言、腕立て伏せ二百回」

「ちょうどいいや。足腰ばかり鍛えたんじゃ、バランスが取れねえや」

「上官への抵抗、もう二百回追加」

「そいつは勘弁願いたい」

 三人は声に出さずに笑い、軽く敬礼すると、それぞれのねぐらによじ登った。