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72歳の男性。労作時呼吸困難を主訴に来院した。安静時SpO2 94%(room air)であり、6分間歩行試験で歩行開始4分後にSpO2 88%(room air)へ低下し下肢の疲労を訴えたため歩行試験を中止した。安静時および歩行中止直後(労作後)に動脈血ガス分析を行った。

予想される結果はどれか。

 安静時PaO2 96Torr、労作後PaO2 76Torr
 安静時PaO2 88Torr、労作後PaO2 66Torr
 安静時PaO2 76Torr、労作後PaO2 55Torr
 安静時PaO2 58Torr、労作後PaO2 42Torr
 安静時PaO2 116Torr、労作後PaO2 60Torr


(解説)

私が研修医だったころにパルスオキシメーターが出現しましたが、(日本人が発明したそうです)当時は装置はパソコンぐらいの大きさで値段も数十万したものです。今では指先にはめるだけの大きさになり、数千円で買えるようになりました。

テレビのニュースで酸素飽和度と酸素濃度の区別がつかないニュースキャスターがいますが、これは論外として、「酸素飽和度が90%に低下すると大騒ぎするけど、『まだ90 %もある』と考えてはいけないのか?」という素朴な疑問があります


 room air (PaO2 100)では、動脈血では酸素飽和度(SpO2)は98%ですが、これが静脈血(PaO2 40)になるとSpO2は75%になります(これは受験生は必修)

しかし、これは何を意味するかというと「末梢に酸素を98個を運んで行ったヘモグロビンが、75個は持って帰ってくる」ということです。23個しか末梢が利用していないのです。(これは「予備力」であり、運動時などに備えているわけです)

つまり、SpO2が90に落ちたということは利用できる酸素が23⇒15に減ったということで、かなりのダウンになるのです。(もちろん酸素乖離曲線は条件により右方移動しますのでこの限りではありませんが)

また、「普段から静脈血にはまだ十分酸素がある」という事実は、心肺蘇生時に人工呼吸より心臓マッサージを優先することの根拠にもなっています。

えーと、ところで問題は
酸素解離曲線におけるSpO2とPaO2との対応関係が問われています。SpO2が90%のときにPaO2が60Torr程度になることを覚えておきましょう。すなわち、SpO2 94%ではPaO2は60Torrを超えており、SpO2 88%ではPaO2は60Torrを下回っていると予想されます。これを満たす選択肢は(c)