横浜情景（11）ヨコハマ公園物語

アウェイ横浜戦勝利翌日の4月25日、春の陽気に誘われて散歩に出ました。家を出てすぐロールスロイスのオープンカーに乗った新婚カップルが前記《横浜情景（9）》でも書きましたが、自宅近くに結婚式場があり、無料でロールスロイスのオープンカーでみなとみらい一周しながら記念撮影し、会場登場することがウリだそうな晴れてて良かったですね
横浜市中区の花はチューリップです。野球の横浜スタジアムのある横浜公園には16万本のチューリップが植えられていて、4月中旬から5月連休にかけて見頃になります。
日本大通り（にほんおおどおり、日本大学はありません）から公園に入ると正門右手に銅像が。
横浜開港時の都市計画に多大な功績を残された方で、この横浜公園も日本大通もこの方の設計です。
近くに石碑があり、『明治9年を以て創設せる我国最古の公園』と書かれています。

と思われる方も多いでしょう。江戸時代までの日本には、藩主・権力者・豪商・富裕層が自分たちの目を楽しませる庭園はあっても、庶民が立ち入れるのは社寺境内しかありませんでした。1873（明治６）年公園制度の太政官布告でその年全国に25できた公園はそれらの社寺境内が名を変えただけというのが実情で、日本には公園（PublicPark)という概念がなかったのです。

日本初の洋式公園は1870（明治3）年開園した山手公園ですが、日本人は立ち入れませんでした。幕末に外国人の要求で設置が決められ、外国人が明治政府から土地を借りてつくった「彼ら」の公園だったのです。きっかけは【生麦事件】外国人を「出島」である横濱村に隔離したかった幕府でしたが、西洋人は馬で遠出する習慣があり、東海道は川崎宿（現在の多摩川）まで外国人遊歩区域内でした。大名の行列が通る時、幕府は外出禁止の通報で無用の衝突を回避してきたのですが、不手際で、通報した前日に遠足に出かけたイギリス商人一行4人が薩摩藩の島津久光の行列に踏み込み、同藩士に殺傷されました。

幕府はイギリスに賠償金11万ポンドを支払い、大名用新道建設も検討しましたが、アメリカ公使の代案で山手を外国人居留地とし、乗馬の道を作ることになったのです。

話はそれますが生麦事件後薩英戦争が勃発、横浜のイギリス公使館で講和談判がおこなわれ、薩摩藩は2万5000ポンドを幕府から借用して支払うことで、和議が成立しました。この戦闘後、薩英はお互いの評価を改め、親密感が生まれました。イギリスは幕府に替わって薩摩などの雄藩が連合政権を作ることを期待し、薩摩や長州を密かに支援するようになります。大河ドラマに出てくるかもしれませんね。

さて、横浜公園も外国人の要求で設置が決められましたが、明治政府自ら建設した「彼らと我ら」の公園です。居留地と日本人町の境界に設けられ「彼我公園」と呼ばれました。

日本人も利用できる洋式公園は1876（明治9）年に横浜公園から始まりました。
正門左手に人だかりが。
いい記念写真になりますね
新婚さんが立っていた場所から撮るとこんな感じです。
チューリップを背景に娘２人撮影している母親に「一緒の写真お撮りしましょうか？」と声をかけると、お返しに２ショット撮らされる羽目に「アナタ、花と同系色だから上着脱いで」「斜め向いて。私たちの年齢になると斜めから撮られる方がノーブルに見えるのよ」しまいには娘２人から「うん、きれいに撮れているわよ」どうやらモデル志望の母娘だったようです
この朝顔型の噴水塔は３代目。昭和初期に作られましたが、噴水の技術は当時なく、水が5、6ｍも噴き上がるため水を止める日が多かったらしい。1979年に1mの高さに水が上がるように循環式に改造しました。
公園から噴水塔を望むと、日本大通の先に象の鼻パークまで見えます。
横浜スタジアムに野球観戦に来られても、こちら側は知らない人が多いと思います。まさに横浜市民憩いの場奥に日本庭園もあり、蹲（つくばい）と水琴窟（すいきんくつ）まであります。

なお、1978年にできた横浜スタジアムがなぜすり鉢状になっているか、ご存知でしょうか？公園内につくる施設は都市公園法の建ぺい率制限があるため本来なら3万人収容スタンド建設は不可能でした。そこで日本野球史への貢献（ここに日本初のクリケット場があった）等の特別な事情をかんがみ、地面に接する部分の面積で測ることで建設省の了解が得られたのです。
このあと野毛大道芸を見に行ったのですが、後日別の稿で紹介します。

横浜公園から関内大通りに向かって２本目の小道が「関内桜通り」。 この時期八重桜のトンネルが見事です。
この路は京都で言えば先斗町（ぽんとちょう）のような飲み屋街で、夜はピンク色の提灯が連なり、妖艶な路になります。右上に見えるはテレビ神奈川本社ビル。
1953年開店、東京・横浜を通じて最も古いイタリアンレストラン『オリヂナル・ジョーズ』です。65年春にはベルギーのアン王女も来店されたとのこと、サイゼリア御用達の私にはちょっと敷居が高く、未だ入ったことはありません
関内桜通りをコンテナ街道（みなとみらい線の上の幹線道路）から。あと１週間もすると花ビラが舞い、道路を地吹雪のように走ります。

参考；田中祥夫著『ヨコハマ公園物語』（00年9月刊行、中公新書）