進撃の巨人、面白いっすよね。
最初のころのミステリーっぽい感じも楽しかったのですが、最新刊付近の世界史っぽくなってきたところが中々に自分の好みにあっていたので、ちょっと真面目に考えてみようかなと思いました。
※進撃の巨人23巻までの内容のネタバレ含みます。
ウォールマリアを奪還し、エレンの地下室へ辿りついた壁内人類たち。巨人たちを退け、世界の真相も知り、調査兵団が設立当初に考えられていたであろう目標を達成したところで22巻が終わりました。さてこの後で壁内人類はどう生きるか、一つの壁を乗り越えた後で、次にどんなビジョンを示すべきか、それを考えていきたいと思います。
何故こんなことを思ったかというと、ウォールマリア奪還作戦が終わって、初めて念願の海を目にしたエレンのセリフが印象的だったからです。
海の向こうを指さしたエレンの、「向こうにいる敵……全部殺せばオレ達、自由になれるのか?」という問いは、パラディ島(エレン達が住んでいる島)の人類全員が直面する問いです。この発言をそのまま受け止めるとすれば、パラディ島とマーレの全面戦争にどう勝利するか、でしょうか。確かに技術力、人口、国土、どれに関しても圧倒的な差があるマーレ勢力を、現実的にパラディ島人類の力で倒せるかと言われれば今の段階では厳しいでしょう。
しかしより根本的な問題として浮上してくるのが、そんな民族浄化の戦いに参加をして何か意味があるのか、です。敵を全滅させない限り彼らに自由がないとすれば、それは全く悲惨です。何百年かけたとしても終わる見込みのない泥沼の戦争を始めて、それに完全勝利しない限り自由が訪れないとしたら、もう人類に自由が訪れる日は来ないではないか。そんな非現実的な遠い未来にしかないものを、そもそも「自由」と呼ぶべきなのか?
エレン自身は恐らく自覚していると思いますが、この問いは幾らか哲学的で、かつその後のパラディ島人類の行動を具体的に決定する現実的な問題です。
無事に島内部にいる「巨人を駆逐」した壁内人類。壁外の手つかずの国土をどう開拓するか、マーレに後れを取っていた技術開発をどれだけ進めていくか。内政が好きな人間には非常にワクワクするところです。しかし、そうは言ってもいつか島の内部で発展は飽和します。その時にどうするか、予め決めなくてはいけません。眼前に示された理不尽を脇においたまま強引に経済発展だけを目指せば、その内に人口問題や貧富の格差にぶち当たり、その不満を解決するために大陸への無謀な戦争へと駆り立てられる未来まで見えます。よくある話です。
もっと突っ込んだ話をすると、この手の問題って現実の国でも当然に発生するものですよね。日本で言えば明治維新後、敗戦後、高度経済成長後、国が元々立てていた理念を達成したり失敗したり、あるいは時代が動いていって理念そのものが古くなった時に、新しくどんなスローガンを打ち出すべきか。ふと立ち止まり、何十年先を見据えてかじ取りをすることは本来大切なことです。
この記事では23巻までの内容を基に、パラディ島政府の実権を握っている調査兵団たちはどう行動するべきなのかを考えていきたいと思います。
もう雑誌の方ではパラディ島人類の話に移っているかもしれませんが、単行本が出る前に一度自分の考えを纏めてみます。単行本が出た時に、作中のエレン達と答え合わせをするのが楽しみです。こうやって販売までの予想する楽しみがあるのも、リアルタイムで読んでいる人間の特権ですよね。
1.パラディ島人類全体の、生命と財産の安全確保。特に無垢の巨人(以下、単に『巨人』とだけ書きます)によって奪われていた、居住や移動の自由の保証。巨人による恐怖からの解放。
調査兵団の理念です。
この実現のためには、島の外からの巨人の流入と島の中での巨人の発生を防ぐことが求められます。具体的にやるべきことは、『島の海岸線に防衛ラインを築きマーレからの巨人の流入(いわゆる楽園送り)を阻止すること』と『巨人化の薬の研究、保存、製造などを厳重に管理すること』でしょう。
23巻を見るに「マーレからパラディ島へ向かった船が全て帰って来ていない」とのことなので、前者は達成している様子です。駆逐艦を落せるような近代的な戦艦を作っているとは考えにくいので、多分上陸したところを待ち伏せしているのでしょうか。
後者はどうなっているかは微妙に気になるところです。多分「楽園送り」をしようとしているマーレの船を拿捕しているはずなので、上手くいけば巨人化する薬をそこそこの量の薬を奪っているはずなんですよね。これがもし島内部の反体制勢力とかが手にしたらヤバいですね。壁内部で巨人化とかいう極悪なテロが可能になります。
まぁ最悪なのは、自国民を脅しつけるために無垢の巨人を使うことですかね。「巨人からの自由」という組織の理念に反しますから、それをやることだけはなしにしてほしい。ないと思いますが。王政時代だったらやりそうだけど。
2.パラディ島人類が、運命共同体であることの再確認
外に巨人という明確な敵があった時でも、憲兵と調査兵団でいがみ合っていたり王政貴族が民衆を無碍にしていたりと、壁内の結束はいまいちでした。しかし、良くも悪くもマーレ勢力はパラディ島人類の絶滅を目指しているので、対マーレとの戦争において、パラディ島人類は運命共同体です。
ウォールマリア奪還当時でこそ調査兵団は圧倒的な支持を得ていましたが、それが何処まで続くかは分かりません。特に技術発展や開発が進むにつれて、貧富の差が拡大し、その間での分断が危惧されます。そのためにどのような施策をとるべきでしょうか?
2.1 マーレからの攻撃に備え、立ち向かうことを約束。
まぁ、これを否定する人はいないでしょう。恐らく十分に実行されていると思います。
2.2 「エルディア人ナショナリズム」は掲げられるのか?
ここは難しいところです。
国威発揚のためにエルディア人の優位性を訴え、マーレへの憎悪を掻き立てるのはアリかもしれません。「大陸を支配した過去の栄光を取り戻す」というストーリーは、パラディ島人類を動かすのに十分ですし、マーレ領内のエルディア人に反乱を呼びかけるのも有効かもしれません。
しかしこれは確かに国策・プロパガンダとしては妥当かもしれませんが、一人の人間の思想として正しいかどうかは分かりません。少なくとも、エレン個人の発した言葉への返事として妥当ではないでしょう。だってこれって、要するにマーレと同じことをもう一度やれっていうことですから。勿論技術が進歩する以上歴史は繰り返さないのですが、自由を求めていたエレンたちに『自分たちのような自由を奪われた人間を海の向こうに作れ』と言うのは、余りにもグロテスクに思えます。
3.外交政策の方針決定
3.1.1 マーレ滅亡を目指す?
エレンの発言を原理的に目指すならこれを目指すことになることになります。また実行に移さずとも、国威発揚やプロパガンダのためにこれを掲げることも十分ありえます。
しかし、これを何処まで真剣に実行に移すかは微妙かもしれません。広大なマーレ領をどう支配出来るだけ、エルディア人の人口がいるかは甚だ疑問です。
3.1.2 専守防衛に努める?
実際問題として、兵力に大きな差があるマーレと戦うに当たって、パラディ島人類の技術水準が追いつくまでは長いこと防戦一方でしょう。少なくとも、近代的な陸海空軍を用意出来るだけの技術が確立されるまでは攻勢に移ることは覚束ないことでしょう。
しかし長期的に見ると孤島でずっと孤立していても状況は厳しくなるはず。狭い国土では開発もすぐ頭打ちです。特に技術で大陸から置いていかれるのは避けたいところです。
3.2 近代国家としての地位の確立?
自分が思うに、パラディ島人類にとって一番妥当な道は「反マーレ」を掲げる一つの近代国家となり、大陸の反マーレ勢力と連携しながら、主権国家として『ボチボチ』やっていくことだと思います。ただ単純にマーレの滅亡を訴えるだけでなく、戦争を含めた外交的手段をフルに活用して小国ながらもしたたかに生き延びる道を目指すことを目指すのがよいのではないでしょうか?
そのためにパラディ島人類にとって最も重要なものは大陸の情報です。フクロウのような、内地エルディア人のレジスタンスからの情報が一番得やすいでしょうか。特に技術発展の情報や、マーレに対抗する勢力の情報は必要です。そのようにして得た大陸の情報網を基に外交のルートを確立して、大陸に対して影響力を持ちたいところ。
その道筋はそれこそ世界史の授業に出てくるようなもので、漫画にしたためるまでもない内容です。漫画「進撃の巨人」の醍醐味であるカタルシスやヒロイズムの世界はもうそこにはありませんが、現実的な世界で生きるとは、概ねそんなようなことではないかと思っています。
さてボチボチ書いてきましたが、一番書きたかったことは最後の数行です。
ヒロイックな世界観が終わったあとの、リアルでしみったれた世界。これを以下に生きるのか、どう受け入れていくのか、彼らのこれからが楽しみです。