
明日からの続編うpにあわせてまとめてみたよ。
読んでくれたら嬉しいな(*゚∀゚*)
1.かようび
連休明けの火曜日。
教室に来てみるとなんだかいつもと様子が違う。
その違和感の正体は、話しかけてきた二人組の女子によって明かされる。
「雷鳥号さんおはよう」
「雷鳥号さんが休んでた月曜日に席替えしたんやよ。『ヒノヒノ』の隣り」
新学年になって二ヶ月になるが、
雷鳥号ユキはまだクラスメイトの顔と名前が完全には一致していなかった。
苗字を言われても顔が思い浮かばないし、
ましてや仲間内で勝手につけたあだ名で言われても誰のことだがわからない。
「ひのひの?」
「そう、ヒノヒノ」
「あのにぎやかなのがヒノヒノやよー」
語尾が訛り気味の子の視線を追うとそこに『ヒノヒノ』がいた。
茶色がかった髪を二つにくくり、
パンツが見えそうなくらいスカートを詰めた女子。
腕を引っ張られて目の前に差し出されると微かに柑橘系の香りがした。
彼女に群がっている生徒たちの視線が痛くて顔を上げられないユキに最初に声をかけたのは――
「私がヒノヒノだよ、雷鳥号さん」
感じのいい子だ。
ユキは素直にそう思った。
「おおはよう雷鳥号です。
可愛いあだ名だよね、ひのひのって」
「挨拶のときいつも言ってるじゃん。
日野ヒノ。苗字も名前もヒノだから『ヒノヒノ』。
小学校の頃からずっとこのあだ名なんだ」
それあだ名じゃなくてただフルネーム呼び捨てにされてるだけじゃね?
雷鳥号ユキは言葉には出さずただ笑ってみせた。
「日野さんって言いにくいでしょ? 『ヒノヒノ』でいいよ」
そっちの方が言いにくくね?
雷鳥号ユキはまたも言葉には出さずただ頷いてみせた。
「あ、言いにくいじゃなかった。よそよそしいだった」
あわてて訂正が入ったがユキはやはり頷くだけだった。
2.すいようび
水曜日。
教室に来てみるとユキの席に見慣れた男が座っていた。
赤いシャツが透けて見えるあの後姿は一つ前の席の男子、山岩。
サッカー部かバスケ部だかの落ち着きの無い男。
自分の席が誰かに座られているとき、雷鳥号ユキはいつも困ってしまう。
なんとなく悪い気がするから「席をどいてくれ」と言えない。
「おはよう雷鳥号さん」
困っているユキに最初に声をかけたのは今日もヒノヒノだった。
髪を下ろしていたがこれも可愛いなとユキは思った。
「雷鳥号ちょりーっす!」
「あっはっはー、ちょっとガンちゃん。
雷鳥号さんはそういうキャラじゃないってばー」
山岩の背中をポンポンたたきながらヒノヒノが大笑いしている。
「ほら雷鳥号さんが座れなくて困ってるでしょー、行った行った」
おおげさにシッシッとジェスチャーをすると、山岩は首をかきながら他のグループのところへ行ってしまった。
その光景がまるで魔法のように見えた。
ユキが同じことをしてもなにも起こらない。
「雷鳥号さん!
じつはね。雷鳥号さんのあだ名を色々考えてきたんだ。
せっかく美人なのになんかいかつい苗字だからさ。
『ライちゃん』ってのが最有力候補なんだけどどうかな?」
「うん、ライちゃんでいいよ。
私はヒノちゃんって呼ぶね」
ただただ嬉しかった。
あだ名を付けられた事。
美人と言われた事。
そして、とっさにヒノヒノのことを「ヒノちゃん」と呼べた自分の事。
ユキも考えてきていたのだ。
日野ヒノのあだ名を。
3.もくようび
雷鳥号ユキ。
彼女は普通の女子高生とは少し違っていた。
ユキは国内でちょっとは名の知れた大企業の社長令嬢、お嬢様である。
童話に登場するようなお城に住んでいるわけではないが家は立派だ。
黒塗りのワゴンはないがガレージには車が三台とまっている。
列挙してみると、なんとも中途半端な家柄である。
家と同じようにユキ自身も中途半端なお嬢様である。
幼い頃から特に厳しく作法をしつけられたわけでもなく。
ピアノが弾けるわけでも、趣味がゴルフだなんてこともなく。
繊細で光沢のある自慢の黒髪は専属のメイドさんに手入れをしてもらっているわけでもない。
ちょっと控えめで取り立てて特技を持たない、
父から与えられたテレビゲームを趣味にもつお嬢様なのである。
「ライちゃんって弟いるの?」
木曜日の授業中。
隣の日野ヒノからの質問に雷鳥号ユキは小声で答えた。
「よくわかったね」
「そりゃ分かるよー。
大企業だからやっぱり跡取り息子はいるんだろうなーって」
「でもなんで弟って? お兄さんがいる可能性もあるじゃん」
「先に兄貴が生まれてたらユキが生まれているわけがない」
「……。いや、長男が生まれた後も子供作る人は作ると思うよ」
「!! むーっ、それも一理ある」
「あはは」
「こういう推理モノの漫画とか描いたら絶対に売れると思う。
私絵描くの好きだし漫画家になろっかなー」
「うんうん、ヒノちゃんなら絶対なれるよ」
サンダーバードカンパニー、通称「雷鳥社」といえばちょっとは名の知れたゲーム会社。
片田舎に本社を構え、従業員数もそこそこ多い。
大手には敵わないがいわゆる「良作」と呼ばれるソフトを数多く販売している。
ユキは将来のことなどなんにも考えていなかった。
社長の父が決めた御家に嫁ぐのか、自分で決めた相手と恋に落ちるのかすら。
考える時間がもったいないくらい今を楽しく生きていた。
おしゃべりが見つかって廊下に立たされた後も、二人の会話は盛り上がる一方だった。
4.きんようび
金曜日。
昨日のテレビで姓名占いの特集をやっていた。
その本を持ってきた子がいてクラスの皆はずっと自分たちの名前のことで盛り上がっていた。
一人、日野ヒノを除いて。
ユキは占いをあまり信じる方ではなかった。
朝のニュース番組ではさそり座が一位だったのに、週刊誌の巻末では真逆の結果が出ていた日があった。
今日の私はどうなっちゃうのかしらとビクビクしながら一日を過ごしていたら何のことは無い。
いろんなことが起きるいつもどおりの一日だったのだ。
だからユキは占いを信じない。
姓名占いで良くない結果が出ても気にしていなかった。
一方、ヒノヒノは落ち込んでいた。
すごく良い結果が出たのにも関わらず元気がなかった。
雷鳥号ユキと日野ヒノ。
ずっとカタカナで表記してきたが、彼女達にも漢字で表す名前がある。
雷鳥号柚貴。
そして日野比乃。
「キライなんだ、比乃って名前。
比べるって漢字が付いてるところが特にね」
そう言い残してヒノヒノは帰ってしまった。
「帰ってきていない」と日野家の母親から電話が掛かってきた時にはもう日が暮れていた。
ユキは上着だけ羽織って家を飛び出していた。
手には勉強用の電子辞書を握ったまま。
顔見知りの社員の坂本さんの車で心当たりを当たっていく。
学校に行ってみた。
次は土曜日に約束していた映画館の前に。
駅前にも。
電子辞書を握り締めながら思う。
今持っている物が携帯のできる小さな電話だったら、と。
川をまたぐ小さな橋に差し掛かったその時、ユキは慌てて車を降りる。
車では入っていけない細い堤防沿いを走って進む。
「ヒノちゃん!」
その大きな掛け声に、前を行く人影が立ち止まり振り返った。
遠くで鐘が十二回、鳴った。
5.どようび
遠くで鐘が鳴っている。
土曜日。
人も町も寝静まった夜の闇を一台の車が切り裂いて進む。
二人の女学生を乗せて坂を上る。
行き先はこの町で一番大きな家。
「ライちゃんはいいね。
家がお金持ちだし、困ったときには助けてくれる大人がいっぱいいて」
ヒノヒノはユキの目を見ない。
窓の外を見ているのか、窓を見ているのか。
それとも窓に反射して映った景色を見ているのかユキには分からなかった。
「ないって読むの」
「ん?」
「乃って漢字は、"ない"って読むの。続けて読むと――」
ユキはうつむき、部屋から持ってきた電子辞書を眺めながら言った。
日野比乃が自分の名前を嫌いだと言ったから。
「比乃って名前、私は好きだよ。
だってこんなに個性的で可愛らしくて素敵な名前、他にないもん」
「私には親がウケ狙いで付けた名前にしか見えない」
「きっとヒノちゃんのお父さんとお母さんは、ヒノちゃんに笑っててほしかったんだと思うよ」
「笑うっつっても苦笑いになってるんだけど」
「私は笑顔になれたよ。
ヒノちゃんの名前とか顔とか声とか、元気な姿を見てるといっぱい元気をもらえるんだ」
「…そう」
ほんのすこしだけ。
大きなため息をついた後、ようやくヒノヒノが笑った。
その夜は二人で同じ部屋で寝た。
同年代の女の子と一緒に眠るのはひさしぶりのことだった。
そして人と町が目を覚まし、これから本当の土曜日が始まる。
週末の授業は午前中で終わり。
ユキとヒノヒノは一度家に帰って、それから映画館の前で待ち合わせする予定。
何度も何度もあくびをしながらヒノヒノは中々自宅に帰りたがらなかった。
その手を掴み、ユキ達は教室を後にする。
「午前中で終わるくらいならいっそ休みにすればいいのに。
朝の支度もめんどくさいし」
「私は好きだな。
土曜日は比乃ちゃんが一番楽しそうな顔してるから!」
6.にちようび
第一話で一番最初に雷鳥号ユキに話しかけたのは誰だ。
日野ヒノではない。
それは彼女のこと。
名無しの二人組として登場した池田有子である。
同じく。
ヒノヒノよりも早く、雷鳥号ユキに二番目に話しかけたのは誰だ。
語尾が訛っているのがチャームポイントの湯河原夜々。
クラスの女子達はランク付けされた小集団を作って群れている。
雷鳥号ユキのクラスでは『ヒノヒノ』が最も勢力の強い男女混合の集団を形成している。
その中で池田と湯河原はどこにも属さず常に二人だけでつるんでいる。
それは学校の外でも変わらない。
日曜日の駅前のカフェでも。
「あれ。あそこにいるのヒノヒノじゃね?」
「本当や。雷鳥号さんもいるー」
「あの二人席替えしてから仲良くなったよね」
「私が腕引っ張って話す機会を与えてあげたおかげやんねー、きっと」
アイスコーヒーをテーブルに置く。
グラスの氷がカランと音を立てた。
「私はヒノヒノも雷鳥号さんもあんまり好きじゃないな」
「でも火曜日に真っ先に話しかけてたじゃん。有ちゃんが話しかけたから私も話しかけたんやよー」
「いや、だって困ってたみたいだったし」
「有ちゃんは誰にでも優しいよねー。
ヒノヒノも優しいけど、あいつはうるさくてワガママだから私は有ちゃん派やよー」
「ヤヨうるさい」
「えへー」
以上です。
彼女達がユキやヒノヒノとつるむお話はまた別の機会に。
そして。
水曜日の第二話でちょっとだけ出てきたガンちゃんこと山岩攻樹。
彼がピッチャーとして、
尺の都合で登場することのなかったキャッチャーのシュビちゃんこと坂本守道と共に甲子園を目指すのは、
また別のお話でございます。
おしまい♪