3.良い子と悪い子



 今日は体育がなくて平和だ。
うざ子と二人三脚の練習をしなくて済む。
しかしなんだかちょっと物足りない気がする。


 机に顔を伏せてもぞもぞしていると、聞きなれた二つの声が耳に入ってくる。
ハキハキガミガミした声と、おどおどぼそぼそした声。
またいつものだ。
「うざ子! 亀梨のこと泣かすなよ」
俺は勢い良く椅子から立ち上がり、目力(めぢから)でそう言ってやった。



 亀梨 良子。あだ名はE子
とろくて要領が悪いけど愛くるしい憎めない女子。
本名やあだ名のとおり「良い奴」だから、マナブとは別の意味でクラスの人気者だ。
そして二日間引っ張ったけど、これが最近付き合いだした俺の彼女である。




「うざ子にはもう関わるなって言ったろ。あいつ性格最悪だからな」


 校庭のベンチに並んで座りながら彼女をフォローする。
亀梨とは家の方角が校門の時点で真逆だから、一緒に登下校なんて素敵なイベントが起こらない。
俺が送っていけばいいんだがそこまでするのはまだ照れくさい。
だから人目につきにくいこの場所で少し喋ってから帰るのが最近の放課後の日課なんだ。



 少し冷たい風が吹く。
そろそろ本格的に夏が終わりそうだ。
風が止むのを待つようにして亀梨が俺に話しかけてくる。
「なんでみんな野原さんのこと、うざ子って呼ぶの?」


「そりゃうざい奴だからだろ」
「宇佐子って名前、私は好きだよ。
うさぎさんみたいで可愛いもん」


 ほわほわした声でウサギをさん付け。
こういうキャラクターがクラスで受け入れられる要素なんだとしたら、俺は人気者になれなくても良い。
皮肉たっぷりにして返してやる。


「うさぎは可愛いけどあいつはうさぎじゃねーだろ。
人間だよ。人間科せいかくわ類のうざ子って動物」
「それひどーい!
野原さん可愛いもん。
うさぎの被り物とかしてきたら似合いそう。語尾に"ぴょん"を付けて」


 笑いながらそう言って、両手首を招き猫みたいに折り曲げる俺の彼女。
「うさぎが"ぴょん"なんて鳴くかよ」
そのツッコミで亀梨、まさかの大笑い。
つられて俺もゲラゲラ大笑い。



 なんで亀梨 良子と付き合うことになったんだっけ?
愛嬌があって親しみやすい性格だけど、顔の方は決して可愛いとは言えない。むしろブス。
可愛い女子に悪口であえて言う意味でのブスじゃなくて本当の意味でブスだと俺は思う。
女は恋をすれば可愛くなるって言うけど今のところそんなに可愛くなった感じがしないし。



 彼女とベンチで別れた後、
夕日に照らされた野原 宇佐子の横顔を眺めながらそんなことを考えていた。


 思わず見とれてしまっていた、のかもしれない。
やはりうざ子はうざいけど可愛い。