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12話「ありがとうございました」


 季節は変わり。
早朝から『イマノコーヒー』の店先には徹夜組の団体さん達が待ち構えていた。
青い手袋を装備した忠雪は、シャベルを構えて凍りついたその方々を道路脇に退けていく。



「あ、早速青い手袋だ」
そこには赤いマフラーを巻いた田中佳子が立っていた。


「昨日はプレゼントありがとう。
相変わらず誕生日は青色のものばっか贈ってくるね」
藍色のニット帽を脱いでヒラヒラさせる忠雪に、ヘアピンを指差して佳子が続く。
「そっちだって赤ばっかりじゃん」



 積み固めた雪山に背中を預け、白い吐息を眺めながらつぶやく。
「価値のある未来を掴むために必要なのは、過去の自分だ。
積み重ねた過去は自分自身の自信になるんだ」


「それダジャレ?」
「オヤジギャグってやつだ」


 両手を力強く振り下ろし、立ち上がってからまたつぶやく。
「過去の自分を作るのは、今の自分だ。
後悔しない今日という日を積み重ねて価値のある未来を掴むために」



 年が明けても『イマノコーヒー』は人の入りが少ない。
昼過ぎは特に暇だということも変わらない。
そしてこの暇な時間帯にだけ訪れる、特別なお客様の存在もまた変わらない。



「いらっしゃいませ」


 カランカランという鈴の音が、今日も店内に響く。



 ふぃん(Fin)