神様を信じてるわけじゃない。
これは人の業が生み出した悲劇。
その罪は人が負わなくてはならない。
父が過去を省みないというのなら、俺は一つの決意を固めなくてはならない。
眠り続ける少女が、笑って朝を迎えられる日を作るために。


15.疑★凝


 トムの姉、アイです。
色々あってナギは死にました。
現在はアイ・グローブマンと名前を変えて、トムの姉として生活しています。
支配の力が弱まり、女の姿をしていることでひどく不自由を感じる場面が多々あります。
だけどはじめて人並みの暮らしが送れているという点では実に貴重な体験だと思うので、今はアイを楽しんでます。

 その私に、生徒会会長から呼び出しがかかった。
フランシスカ・シード。
たいそう邪魔であっただろう生徒会副会長ナギの葬式以降、どこか表情が沈んでいる。

「わざわざ呼び止めてごめんね。
トム君には聞きづらいことで、どうしてもアイさんに聞いておきたいことがあって」
「はい、私でよければなんでも」と返した。
表情は今も沈んだままだ。
でもそれ以上に、ナギであったこの私に敬語を使いかしこまった話し方をするフランシスカが滑稽でしょうがなかった。

「アイさんはナギの葬式が行われた日、東京にはいなかったんだよね」
「はい。支社がある大阪の方の学校に通っていましたので」
根回しや工作はバッチリだ。
本当に一ヶ月前までアイという人間が暮らしていたようにしてある。
すぐには怪しまれないはずだ。

「私達、ナギの葬式に行ったの。トム君も一緒に。
お父様のタイフーンさん、お葬式に来られなかったそうね。
息子の最後に、どうして駆けつけることができなかったんだろう…」

 トムが話したようだ。
残念ながらナギは死んでいない。
あれはナギの存在を消すために必要な儀式。
しかしそんなことは問題じゃない。
そうだ。
お父様は葬式どころか、ナギが刺された時にも電話すら寄越さなかった。
お父様は仕事が絡む時にしか電話を使わない。
長男の見舞いより会社の利益なのだ。

「お父様は昔からそうなんです。家族を省みない人で、私も母も苦労しました」
「子供の葬式に出席しない社長に付いて行く人の気持ちがわからないわ」
それっきり、二人とも黙ってしまった。

 案内された生徒会室では熱心な話し合いがされていた。
カイル、正義感あふれる図書委員。
「入学式でのハリケーンの暴走を見ただろう。
生徒父兄に被害が出てからでは遅いんだぞ」
ハンナ、ナギと関係を持っていた風紀委員。
「では今から乗用車の生活に戻る人はいるか?
グローブマン社の技術力は家庭レベルで浸透しているのだぞ」
アイク、機械工学科の生徒。ハリケーンの操縦に長けている。
「そもそもあれだけの科学力があれば、もっとお金と時間を費やせば事故は減らせるはずだ。
急成長を望むあまり、安全性を蔑ろにしていては会社は立ち行かなくなるぞ」
ジョセフィン、書記。
「減少傾向とはいえ他社に比べてあまりに酷すぎる。
パフォーマンスが高くても、いざ人が死ぬ事故が起こっちゃうとね」

 相変わらずの面子が、相変わらず学生らしからぬ堅い話を繰り広げている。
だがこれこそがまさに縮図なのだろう。
生徒会という枠組みの中でも、グローブマン社のあり方を快く思わない人間がいる。
会社と提携した私立高校。
実情はそういうことなんだ。


 グローブマン社社長の次男、トムが決起した。
その想いが生徒会会長を通じて徐々に伝播し始めている。
これが果たしてどのような結末に向かうのか。
少なくとも高みの見物をさせてもらえそうにはなさそうだ。

 その夜、あいつが家にやってきた。