(3)
私は、打ち合わせの席で、すべて兄の弁護士にぶちまけた。私が兄の妹であること、私は自分の意志で組織に入ったこと、私は兄だけが大好きで、兄は幸福になって、いい家で、大切にされていると思っていたこと。止まらなかった。コントロールが効かなかった。
「兄も、組織にいたんですね。どうしてです、兄はどうしてこんなことになったんです」
私は最後には泣きながら叫んでいた。こんなに泣いたのは、組織に入ったとき以来かもしれないくらいに泣いた。
その弁護士も、私をじっと見ていた。
私が落ち着いた頃、弁護士が口を開いた。意外な話だった。
「私は、彼と同時期に組織の幹部候補としてテストを受けた者です。当時僕はすでに大学生で、司法試験に合格していました。彼はそのとき12歳だった。普通の学校に行っていて、中学受験の直後だったと思いますよ。とても落ち着いていた。私などかえって彼より緊張していたくらいだった。実際、籍はほかの家に入っていたけれど、名門の家の子どもとして育てられていた。ただ、その家は、組織の上辺で組織を動かしている家なんです」
私はそれまで組織の上部のことなど関心はなかったし、ここで話す訳にはいかない内容だが、とにかく確かに兄は、その家の跡取りになるべく育てられ、そのことに不満はなかったという。
しかし、最近兄は、就職して、私を引き取るか、仕送りをしたいと組織に申し出たらしい。組織は、私も組織にいることを兄に伝えていなかったのだ。組織は兄がそのまま職につき、組織の仕事をするようになることを望んでいた。だが、組織が返事を先延ばしにしている間に兄は国家公務員試験に受かり、就職活動をはじめ、外に出ることが多くなった機会に私のことを調べたらしい。
しかし、私は両親の元にいなかった。近所には、兄と同じように養女に出されたと触れ込まれていた。おかしいと思った兄は、私の所在を調べた。
結果、私が組織に引き取られ、そのまま行方不明になったことを突き止めた。
ここで、私の初仕事のときの話を思い出してほしい。私以前におとりとして犠牲になった少女がいたと話したが、彼女は誘拐され身元不明の遺体となって見つかった。兄は、それが私であると思ったらしい。その推測は、その頃に組織が使った少女ならば私か彼女か、50%の確率なのだから、不思議ではない。まして、私は、その事件の頃にはまったく身元を組織内でも隠されていた。
つまりは、兄は、両親が私を組織に売り、私は組織の作戦の失敗により、変質者に強姦された挙句殺されたと思ったのだ。そして両親は、私が死んだのに、その事実を警察にも届けず、私の遺体は葬式もしていない。そのまま返されてもいないのに放っておいているのだと。
兄は、私の復讐をしたのだ。
「しかし…私もあなたが生きていると思わなかった…。確かにあなたが生きていると知れれば、なにかの駆け引きで彼はあなたを使われてしまう可能性はあったでしょうから、あなたについての組織の判断は間違っていません。しかし…彼の暴走という結果になってしまったのは…」
さすがの弁護士もあまりのめぐり合わせに言葉が見つからなかったらしい。
「お願いします。兄に会わせてください」
私は、迷う弁護士に、決断を強いた。