(5)

その日の明け方ごろ、交代要員がやってきた。その中に崇がいた。

「崇!」

私がすごく嬉しそうにしているのを見て、若菜は崇に興味を持ったようだ。

「若菜、この人は崇、私のお兄さん兼師匠だよ。司の師匠でもあるんだ」

「はじめまして、光と司がお世話になっています」

若菜はにっこりと微笑んだ。極上のよそ行きの笑顔だった。

「はじめまして。私のほうがお世話になっております」

私は、多分崇が来たのは相手の襲撃を返り討ちにするために実力のあるものが配置されたのだと思った。

でも、そうじゃなかった。

若菜をまずは眠らせてから、崇は、私と司に若菜の父親、つまりは依頼者が若菜を殺すよう、方針転換してきたことを告げた。

「昨日の襲撃者は、若菜の旦那だ。それを知らされた依頼者は、この機会に旦那が殺したと見せかけて若菜を殺すようにと言ってきた。これは水面下の動きなのだが、旦那の政党と依頼者の政党が連立与党を作る構想がでている。そこで、両者の懸案を排除してかつ恩を売り、弱みを握る気らしい」

私と司は黙って聞いていた。こういうときに激高して話が進まなくなるようなことを抑制する程度のしつけは受けている。

「だが、今までの護衛がいきなり暗殺という方針転換は今後の組織への信頼性にも影響するものだ。だから、依頼者にはまだ決断はしないよう、話は止めてある。護衛要員である他のメンバーにも伝えていない。この話はしばらく他言無用だ…依頼者が翻意すればそれに越したことはない」

それはそうである。一般論でいえば、今後も依頼者自身でなく第三者を護衛する仕事はありうる。なのに、依頼者の方針転換で護衛者が暗殺者に早変りするのでは護衛される側の信頼など受けることができない。今回のことに限っていっても、もし情勢が変わり若菜を殺して手打ちにしたその手打ちがご破算になったとき、二人は組織を逆恨みせずにいられるだろうか。これほど身勝手な人間たちなら答えは否、だろう。

どうして私と司だけに崇を通じてこの話が伝えられたのかと聞くと、崇は「僕が暗殺要員だから、二人にはあらかじめ言っておくべきだと思った」と答えた。

「しばらくはこのまま護衛をする。昨日の襲撃の失敗でしばらく大掛かりな襲撃はないだろうし、依頼者と相手の話し合いも持たれる予定だ。相手は、どうやら本気ではじかれると思っていなかったらしいから、すぐには手出しもできないだろう」

私と司は元通り護衛についた。崇は詰め所詰めになった。

一週間後、連立与党が成立した。そして若菜の旦那は若菜の父親の企業が属する分野を所管する省庁の副大臣になった。両者はどうやら利害関係が一致したようだ。

そして、結論が出た。やはり、殺害だった。