彼は振り向くとにっこり笑った。
「ここに来るとき以外魚って食べないからね、できるだけ魚にしているんだ。魚好き?」
「嫌いじゃないです」
「そう。鳥の照り焼きとか好きなんだ?和食党?」
「嫌いなものはないです」
「いいなー、僕イカとかタコとか嫌いでね、ここでいっつも怒られるよ」
私はさっきからずっと意味のないことばかり話していることについて、無駄だと思って少しいらいらしながらも、その会話から離れられないでいた。
「そういえば、今日何を調べていたの?僕、公務員試験の勉強をしていたら、女の子が消費者法の統計なんて読んでたから司法試験の子だと思って声かけたんだ」
「いえ、あの、マルチ商法の詐欺のことを調べていて…」
「そうなの?うちの大学でも結構流行ってたけど、誰か友達とか被害にあった?」
「いえ、ただニュースで見て…」
「そっか、えらいな、僕、ニュース見てもそれだけ覚えて忘れちゃうことが多いからな。公務員試験に出そうなことしか覚えていないかもしれない」
そこまではなしたとき、私の鳥の照り焼き定食が来た。
見た瞬間、食べられないとわかった。私の普段の2食分ある。ご飯もさっき見たよりは少ないが、明らかに半合分はある。
「さめちゃうまえに先に食べなよ」
私が驚いているのを遠慮していると思ったのか、彼は私に食べるように促した。
「いえ、あの、ちょっと多くて…」
「え?」
「すごくたくさんですね」
「そう?女の子にはそうかもね。大丈夫、残してもいいよ」
「あ、はい…」
食べ物を残すなんてはじめてだ。