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彼に始めてあったのはとある大学の図書館だった。
私は、その前の週、とあるマルチ商法の詐欺グループの仲間割れの末、その上部組織だった某国の諜報機関に上納金をおさめなくなったというので、機関員からの依頼によって見せしめのために(見せしめを口実にすることが非常に多いのが暗殺の依頼の傾向だ)離反した組織のトップを殺した。某国機関は一応日本政府が自分たちをマークしているから自分たちで手を出すことはできなかったらしい。ただ、多分、組織の規模を大きく見せ、「ここにいるだけが自分たちの組織ではない」と思わせることも目標だったのだろう。はっきりいってその諜報機関は普段からの顧客ではないし、もう規模としても日本国内で幅を利かせる実力はない。どうも母国の権力争いに負けてほかの機関が日本を担当しているらしい。いずれにせよ組織としても一回限りであることが明らかだったし、その詐欺グループが荒稼ぎしていて自殺者が出ていたりし、許せないだろうということで依頼を受けたのだ。
私は、その前の年に単独隠密での仕事もするようになっていて、依頼に条件としてあったため、一人でそのアジトに行き、一人で3人一気に撃ってきた。そのときは単純に仕事としてやったのだが、そのあと、はじめて彼らのことを考えた。まだ20代の男女と40代の男性だった。そして、アジトを見渡して、詐欺というのはどれほど悪いのだろう、と思った。でも、そこにはもうその答えを返してくれる、生きて話せる人はいなかった。
それで、私は詐欺とは何か、どういう問題なのかを知りたいと思って新聞記事や法律の本を読みに行ったのだ。その仕事ではアジトのある地方都市に出かけていて、実行期間に1ヶ月ほどとってあり、その間滞在してから帰ることになっていた。だから普段の拠点にいるときのように連日同じ場所に行き過ぎて誰かに覚えられることが危険だということもなかった。
その地方の基幹となっている国立大学の図書館は、市民に開放しているので、実年齢で16歳だったが19歳の戸籍を使っていた私も入ることができた。大学付属であるから利用者の大半は大学生だった。年頃はかなり近いのだが、私は彼らが楽しそうに図書館でひそひそと話しているので、居心地が悪いような、困ったような心境だった。