その瞬間、私も潔も腰の位置から手首だけで短刀を投げた。私は1本、潔は2本。潔の投げた1本は私の投げた1本と空中でぶつかり軌道を変えた。その1本は重心を右に移してかわし、残り1本はもう1本ナイフの入った左手の手首のやや上で弾き飛ばす。
私が避けることで攻撃に転じることが一瞬遅れることを予測していた潔は投げると同時にダッシュで私に向かってきていた。私は弾き飛ばす角度を潔が突っ込んでくる方向に合わせていたが、弾き飛ばした程度のパワーしかこもっていない潔の薄刃のナイフでは潔に何の影響も与えられず、そのまま潔の着ていたベストに一瞬刺さって落ちた。
同じ師匠の流れを汲み、お互いに自分が非力で小柄でばねのないほうだとわかっているから、地に足のついた地味な削りあいになることを覚悟した。潔が十分に近づいてから右フックを放つ。潔は戦後すぐの闇市で用心棒をして、当時流行っていたボクシングで大分鳴らしたという。その通り、死角からのいいフックだった。
私は足を運ぶまもなく反射的にのけぞって避けたがわずかに額がかすって頭を振られる。私はその頭が振られたのに乗じて一歩踏み込み、巻き込みで右足を蹴り上げ潔の背中を狙う。潔はそのまま私を追って低い位置から右ひじを打ち込み、私の足は中心をそれて左の肩甲骨に当たる。潔のひじは私が右腕を挙げたガードをかいくぐって右胸に入るが、私を動かすほどではない。体が近づいたところで私は潔の首の後ろのえりを持って先に蹴り上げていた右足を振り下ろし、小外刈りの要領で潔を引き倒す。もちろん吊り上げたりせず頭より背中を床にたたきつける。潔は一瞬息が詰まったようで、動きが止まる。私は、そのまますかさず潔の胸の中心に右ひざをたたきつけ、両手を潔の首の前で交差させて締め落としにかかった。気管ではなく頚動脈を押さえて失神させるつもりだった。