(7)
私がごきげんな崇と九次の後からうんざりした顔で母屋に戻ると、食堂は暖かいにおいがした。ダイニングセットに食事の用意がしてあった。深い鍋に入ったクリームシチュー、自家製に見えるロールパン、温野菜のサラダ、オレンジジュース。皿はきれいな白い磁器で深緑に赤い蔓薔薇の柄でそろえられている。
「雪、おまたせ、食べよう食べよう」
「うん、光ちゃん、崇さん、手洗ってきて、洗面所に除菌のできる石鹸あるから使って」
「場所わかる?」
「いや、聞いてないでお父さんも行ってきて」
私は廊下に戻って洗面所の電気をつけて手を洗った。
「あれ、よくわかったね」
「はじめに中に入ったときに見たから」
「光、こういうときにそういうのを使っちゃだめだよ」
「え?何か使った?」
「うーん、光君、ちょっと崇に染まっているなあ」
「え、僕こんな風です?」
「うんうん」
よくわからないけれど崇に似ているならいいや、と思って大人たちを放っておく。
食堂に戻って雪に何をしようか聞いた。
「うん、じゃあこれ、ドレッシングをきっちり振ってかけて」
「うん」
「ごま油すき?」
「すき。ごま油とおしょうゆ?」
「うん、あとお酢とねぎ。辛いの平気だったら七味唐辛子かけてもおいしいんだよ」
「七味だと辛いよ」
「そう、じゃあこれだけ」
これはねえ、うちの亡くなった母が料理できない人で、これが一番得意だったのよ、などといいながら、雪はドレッシングをかけて軽くラップをしてからもう一度レンジで暖める。
鍋に入っていたシチューは鍋の余熱で十分に温かかった。私は猫舌だから少しさめるまで待たなくてはいけないと思った。
崇がなんだかニヤニヤしている。
「何?」
「いや、光、雪と仲いいなあと思って」
言われて気づいた。そういえば雪と話をちゃんとしたのははじめてだ。話の内容は料理のことでしかないが、一応会話ではある。私はかなり仲がよくならないとちゃんと話をするようにならない。なのに、雪とはかなり話をしている。しかも、構えた話ではなく、料理のこと、つまりは日常的なことだ。
「はっは、雪がなれなれしいからつられたか?」
「もう、お父さんは。私、そういう訓練しているからね、人が話しやすいようにする会話術というか。それもあるかも。光ちゃんが私に慣れてくれているのならうれしいけどね」
「慣れたんだと思う」
雪はにっこり笑って私の頭をなでた。いやじゃなかった。そのとき私は雪がとても美人なのに気づいた。
「はい、じゃあ、いただきますね」