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そして、私は始めて大掛かりな仕事に出た。11歳のときだ。これが事実上、仕事に出るための最終訓練であり最終試験であることは崇から言われていた。ただ、私には自分が「できる」ということはわかっていたので緊張はしていなかった。かえって崇のほうが緊張していたくらいだ。
とある地方空港からの一本道。夜間のプライヴェート便が到着し、そこから来るとあるやくざの大物のご一行を皆殺しにする。その大物は、広域暴力団の次期若頭候補の一人。依頼者は、その暴力団の組長。表向きは、若頭候補が自分の推す候補者の対抗馬だから。その実は自分の推す候補者に暗殺の責任を負わせて両者退場、自分がまだまだ権力を握り続けることが目的だ。それに対して組織は、一応正義派を気取るものだったから、普通は暴力団の仕事など請けないのだが、今回は二人の候補者がともに薬物取引や過酷な高利貸しを営んでいる者で、そのころにはまだ大々的に取り上げられてはいなかったが、大変な社会問題の原因だったため、両者を叩き落し、かつ組長にも力を誇示するのによいだろうということで例外的な受任をしたのだった。組長サイドには、若頭候補がたっぷり稼いだ闇金や企業舎弟の収益をもらってしまい、もみ消したい政治家や官僚、実業家が味方についている。それでも若頭候補が配った金額など稼いだ額からすれば微々たる物だから、残りは警察が取り返して被害者に返還するという。本当か?
この程度は、私でもわかった。いや、といっても、大丈夫、標的の名前や組織の構成図はわかっていなかったから、まあ普通の子どもと同じ程度の理解力だと思う。
闇の中、3台の車が走ってくる。お忍びだけあって普段よりは短い車列だ。ライトは先頭車両だけがつけている。もちろん防弾使用、偏光フィルム張り。私の仕事は、民家から遠い道を見渡す崖上に崇ともうひとりとともに陣取り、ライフルで射撃することだ。
私はライトが目印になって簡単な先頭車に打ち込むことになった。
目印になっていた赤外線の境界を最初の車が通り過ぎた瞬間、私たちは一気にライフルを連射した。
フロントガラスとボンネットに3台とも一気に着弾、排きょう受けに16発分の排きょうがたまる。普通の防弾ガラスならそれで完全に割れるはずがひびしか入っていない。それでも視界はなくなっただろうに、さすがに土壇場に慣れているヤクザの集団、そのまま死地を突っ切ろうとした。そこで爆破もやむなしとなって私たちはランチャーに切り替えて一台ずつ打ち込んだ。3台とも爆発、炎上。周囲は一気に明るくなる。山中の鳥が飛び出す。崇は爆発の陰に隠れて逃げるものがいないか、ライフルにもう一度切り替えて監視。道路の側面に配置した白兵戦部隊も監視している。すると最後尾の車が、中につんでいた火器の火薬に引火してひときわ大きく再爆発した。一度にたくさんの銃弾が飛び交う。周囲に民家はないが、それでも木立に、私たちがいる崖に、道路のすぐ下の側溝に即席の防弾壁を築いた部隊に弾丸が突き刺さる。どうやらつんでいた火器は私たちに来ていた情報より多かったようだ。そして、それらの弾丸が、皮肉なのかどうか、対象とその警護に止めを刺した。
誘爆がおさまったころ、警察と消防が駆けつけてきた。最寄の空港に常駐する警察のはずだが、15分ほどもかかっている。そのころ私ともう一人はランチャーを打ち終わった瞬間撤収に入り、火器を持って山を駆け下りた(だから、本当は誘爆のことは背中で音を聞いていて、あとで白兵戦部隊にいた連中に聞いたことだ)。幸い、というか、予定が狂って、白兵戦部隊は使わずにすんだので、彼らは速やかに100mほど山の中に後退し、警察の動きを見ていた。
警察の車が見え出した頃、崇も私たちが走った道から崖を上る方向へ撤収。山をひとつ越えたところで私と先行したもう一人が運転する車で市街地へ向け逃走した。市街地に着いたらすぐに高速に乗り、町の、そして県の外へ出る。
私たちが高速道路上の県境を越え、県外に出たのは2時15分。想定時間より5分早かった。