ーシルヴァレン視点ー
「シロ、大丈夫だからね?お母さんがついてるから」
お母さんは私の手を握りながら、優しく微笑んでいた。
でも、目の端には涙が溜まっている…。
後ろを振り返ると、村の方から煙が上がっているのが見えた。
きっとあそこでは、ルシフェルさんが戦っているはずだ。
しばらく歩いていると、いつもリュウと遊んでいる場所に来た。
そこには、見知らぬ男の人が立っていた。
その人は、とても怖い顔をした人で、こっちを睨んでいる。
「待ちわびたぞ、光の力を持つ者よ」
「あなた誰よ!そこ、どいてくれない?」
メイアさんはその人に怖気づくことはなかった。
さすがリュウのお母さんだ。
「おっと、すまない。名乗り遅れたな。我が名は《バハムート》!!光の力を持つ者よ!貴様にはここで死んでもらう!!」
バハムート?聞いたことないなぁ。
それに、光の力を持つ者って誰のことだろう?
「メイア母さん、ここは先に行ってくれないかな?あの人、俺に用があるみたい」
え?
リュウ、何を言ってるの?
「急いで!!あいつがその気になれば、みんな殺されるかも知れない!!」
リュウの顔は、必死だった。
額には冷や汗がビッシリと張り付いている。
怯えながらも、私たちのために戦おうとしている。
メイアさんとアインスさんは、反対していた。
リュウを怒鳴るけど、リュウは悲しそうな顔でそれを拒む。
「いいから早く!!みんなを連れて洞窟へ!!!!」
メイアさんは、村の人たちを進ませたけど、自分は残ると言っていた。
アインスさんも戦うと言っている。
私は…どうしたらいいのかな……。
どうしたいのかな…。
リュウと一緒に戦いたいとは思うけど、口にできない。
体が思うように動いてくれない。
このまま逃げ出したいと思っている私がいる。
「お願い…、必ず戻るからさ」
リュウが説得を続けると、メイアさんたちは諦めてしまった。
「…リュウ、帰ってくるのよ?待ってるから」
メイアさんとアインスさんはそう言って、森の奥へと進んでいった。
「リュウお坊ちゃん、あなたが何を背負っているのかはわかりませんが、必ず勝ってくださいね。ご武運を…」
お母さんも私の手を引いて、歩き出した。
でも、大丈夫だよね?
リュウならきっと帰ってくるよね?
「リュウ、絶対だよ?絶対に帰ってきてね!」
リュウはただ、悲しそうな笑みを返すだけだった。
ーーーーーー
「私…あの子を、置いてきてしまった………」
メイアさんは、ずっと嘆いていた。
「メイア……、ルシフェルが言ってたじゃない。『リュウはこれから、いくつもの試練を乗り越えなければならない。そうやって強くなっていく。それがあいつの使命でもある』って…。正直、リュウが龍神の力を持っているってルシフェルから聞いたときは、信じられなかった。でも、あの子の胸の痣が、その証拠なのよね…」
アインスさんは、メイアさんを気遣っていた。
アインスさんの目からも、涙が溢れている。
「大丈夫よ…。あなたとルシフェルの子だもの。きっと生きてるわ」
「でも…、それでも、私はあの子を……」
リュウは、本当に帰ってきてくれるだろうか……。
もしかしたら、もう………。
「ダイジョブ!ダンナ、ツヨイ!ゼッタイ、カツ!」
みんなが沈痛な表情をしていると、ゴブさんが大きな声で言った。
他の魔物さんたちや、村の人も頷いている。
そうだよね……。
リュウならきっと勝てるよ!
「いい?メイア、よく聞いて」
アインスさんは真面目な顔で、メイアさんに言った。
「あそこで私たちがいても、勝ち目は無かった。それどころか、かえって危険な目に合うわ。あの子の足を引っ張るわけにはいかない」
「ルシフェルだって言ってたじゃない。あの子の力は、計り知れないほど大きくなってるって…。私たち以上に強い子よ。確かにまだ幼いけど……。それでも、私たちよりは、立派な子よ」
アインスさんは後ろを振り返っていった。
先ほどリュウと別れた場所では、凄まじい光が見え、凄い音も聞こえる。
「そうね…、あれほどの魔法が使える子だもの。私たちがいたところで、かえって邪魔になるだけね……」
メイアさんは悲しそうな表情をして、言った。
洞窟に着くと、みんな寝床の支度をした。
テントを立てる人や、水を汲んでいる人。
みんな疲れきった顔をしていた。
「サティファは、これからどうするの?」
メイアさんとアインスさんとお母さんが話しているのが聞こえた。
メイアさんは、少しだけ元気になったみたいだ。
「今と変わらず、ルーク家に仕えようと思います」
「そんな、仕えるだなんて…。私たちはもう家族なんだから」
「メイアの言う通りよ。これからも、一緒に頑張っていきましょ?」
「メイア様…、アインス様…、ありがとうございます!」
「その、様とか敬語はやめにしましょ?」
「そうね、家族にそんな言葉遣いは可笑しいものね」
「うん、そうだね。それじゃ、メイア、アインス、これからもよろしくね?」
3人は笑いあって、これから一緒に頑張ると誓い合っていた。
お母さんが楽しそうに笑うのを見ると、なんだか嬉しいなぁ。
リュウ、早く帰ってこないかなぁ~。
「!!!!?!?」
何て思っていると、洞窟全体が揺れた気がした。
ゴォン!ともズゥン!とも言える音を立てている。
「なに!?」
「みんな伏せて!!」
メイアさんは飛び上がり、アインスさんは警戒しながらも指示を飛ばす。
揺れが収まり、私たちは慌てて外に飛び出した。
リュウがいるはずの場所からは、凄い煙が上がっている。
「え?……嘘、でしょ?」
メイアさんは驚愕していた。
メイアさんだけじゃない、私もアインスさんもお母さんも、みんな唖然としている。
「リュウ!?どうしようアインス!!リュウが、リュウが!!」
「落ち着いてメイア!大丈夫!大丈夫だから!!」
「メイア!今は落ち着いて!明日の朝、リュウお坊ちゃ…リュウが戻ってきていなかったら、みんなで迎えに行きましょう!!」
「でも…、でも!!」
メイアさんはかなり取り乱した様子で、リュウのところへ行こうとしている。
リュウ…大丈夫‥だよね?
でも、朝になってもリュウは帰ってこなかったーー。
ーーーーー
「ねぇ!これ見て!!」
翌朝。
まだ日が昇りきっていない時間に、メイアさんの声が聞こえた。
「ん~…、メイア?どうしたの?」
「ふわぁ‥ぁ」
アインスさんとお母さんは、まだ寝足りないようにあくびをしていた。
「朝起きて洞窟の入り口の方に行ったら、あったのよ!リュウからの置き手紙が!あと、小さな箱が2つ!」
え!?
リュウからの手紙!?
「リュウは?いないの?」
「うん……。急いで外に出たけど、誰もいなかった…」
そっか……。
でも、リュウは生きてたんだ!
あのバハムートとかいう人を倒しちゃうなんて、やっぱり凄いや…。
「そう…。それで、なんて書いてあるの?」
「今読むわ」
メイアさんは手紙を読み始めた。
~拝啓 僕の大切な家族へ~
みんな無事に洞窟へ避難しているようでよかったよ。
僕はなんとかバハムートを倒すことができ、その力も手に入った。
でも、大事な人を失った……。
昨日、村の方へ行ったんだ。
あたりはめちゃくちゃで、村は壊滅状態だったよ。
でも、僕たちの家は無事だったよ。
父さんはいなかった。
こんなこと言うのもなんだけど、死体もなかった。
あったのは、大きなドラゴンの死体だけだった。
村中探し回ったけど、どこにもいなかったよ。
僕は、まだ父さんは生きてると思ってる。
父さんのことだから、ひょっこり帰ってくるかもね。
ちなみに、とり残された人もいなかったよ。
みんな洞窟に避難してるみたいだ。
さて、そろそろ本題に入ろうか。
俺はこれから、旅に出ようと思う。
その前に母さんたちのところへ顔を出すことができなくてごめん……。
みんなの顔を見たら、決心が鈍るし、母さんたちを説得する方法がわからないしね。
本当にごめん。
突然だけど、俺は光の龍神の力を受け継いでいるんだ。
俺はその使命を果たさなきゃいけない。
闇の龍神を倒すという使命を。
俺はこれから、たくさんの仲間を集める旅に出る。
そして、組織を作ろうと思ってる。
一人じゃ倒せないことはわかってるしね。
それには、かなりの時間がかかると思う。
でも、落ち着いて時間に余裕ができたら、また母さんたちと会いたい。
今はまだ無理だけど、いつかね。
母さんたちには、これからたくさん心配させると思う。
迷惑もかけるかもしれない。
でも、大丈夫だよ。
俺はきっと、闇の龍神を倒す。
それと、もう少ししたらメイシェルとエレナの誕生日だから、プレゼントを用意してたんだ。
俺は渡せないから、代わりに渡してほしい。
それと最後に、伝えたいことがあるんだ。
俺はみんなで一緒に過ごした日々が忘れられない。
あの時間は本当に楽しく、幸せだった。
母さんが俺を産んでくれたことに、感謝してもしきれないよ。
みんなと出会えて本当に良かった。
また出会う日を楽しみにしているよ。
その時は、旅のことを話したいと思う。
ーリュウ・ルークよりー
「………あの子ったら、ほんと…いきなりなんだから‥」
メイアさんは涙を流しながら、手紙を抱きしめていた。
リュウ、いなくなっちゃうんだ……。
そんなの…嫌だよ……。
「本当に立派になったわね。メイシェルとエレナにプレゼントって、この箱のことかしら?」
アインスさんは小さな箱を手に取った。
蓋には、『エレナへ』と書かれていた。
「うわぁ、よくできてるわね~…」
中には、綺麗なお花の髪飾りが入っていた。
黄色のの石を組み合わせて作った髪飾りだ。
「これもリュウの手作りみたいね…。こっちの箱は、メイシェルのみたいね」
アインさんはもう一つの箱を、メイアさんに渡した。
「………ほんと、凄いわね…」
メイアさんは、『メイシェルへ』と書かれた箱を開けた。
そこには、綺麗な羽の髪飾りが入っていた。
銀色に輝く羽は、小さな石を組み合わせて作ったみたいだ。
「リュウお坊ちゃ、リュウは、行っちゃったみたいね…」
お母さんは、悲しい顔をしていた。
「もう!仕方ないわね!ちゃんと帰ってくるのよ!」
メイアさんは笑顔で、元気な声でそう言った。
どこか誇らしげだ。
「メイア…。そうね!あの子ならきっと一段と立派になって帰ってくるわよ!」
「うん!それじゃ、メイア、アインス、みんなが起きたら、村へ戻りましょう!復興作業を始めなきゃ!」
アインスさんもお母さんも、みんな元気になった。
私も、リュウと会えないのは寂しいけど、どこかできっと会えると信じよう。
それまでに私も、今度はリュウと肩を並べられるように……。
ーーーーーー
ーリュウ視点ー
「さぁ~てと!それじゃ、行きますか!」
俺は今日の朝早く、洞窟に手紙を置いてきた。
昨日、半ば無理やりパンドラに書かされたものだ。
パンドラ曰く、『黙って行ちゃったら、みんな心配するわよ!最悪、死んだと思い込むかも!』だそうだ。
まぁ、そうするのが正しいと思ったから、俺も手紙を書いた訳だしな。
「リュウ、装備が出来上がるまでの1ヶ月間、しっかり頑張りましょ!」
俺たちは、ガッチェスがバハムートの素材で作る装備が出来上がるまでの1ヶ月間、街のギルドで金稼ぎをする。
要するに、旅の資金集めだ。
「でもぉ、移動手段はどうするのですかぁ?」
あ………。
やべぇ、考えてなかった……。
「と、とりあえずは、街までは歩きってことで…。街に着いたら、馬を買おうかなぁ~…と」
「はぁ…、あんたって本当に考えなしよね~…」
「大丈夫ですよぉ~、いつものことですからぁ」
うぅ……。
なんか遠回しにディスられてる感じ……。
「んで?今私たちは無一文なのよね?これからどうするつもり?」
森を歩いていると、ふと思ったようにパンドラが言った。
「あぁ、とりあえずは、この周辺の魔物を狩って、その素材を街で売ろうと思う。あと、コレもな」
俺は傍に置いてあった袋を指さした。
その中には、村で回収したドラゴンの素材が入っている。
ドラゴンの素材は希少で、高価で取引されるらしい。
ガッチェスが言ってた。
「と、魔物だ」
歩きながら話していると、魔物の群れが現れた。
数は4体。
蛇のような姿をしている 魔物、《キラーコブラ》だ。
「はぁ…、『サンダーアロー』」
俺は魔法で、即撃破した。
やっと魔物に出会えたと思ったら、4体かよ……。
しかも小さい。
これじゃあまりいい金にはならないなぁ…。
「なぁ~、こいつって食えるかなぁ~?」
「はぁ!?あんたこれ食べるつもりなの!?」
「いや、ほかに食うもんもないだろぉ?」
「私は嫌ですよぉ~…。街まではそんなにかからないと思いますから、早く行きましょうよぉ~」
なんだよ…。
そんなに嫌がることもねぇじゃんか。
……これ、本当に食えないのか?
「ねぇ~、あとどれくらいかかるのよ~…。もう3時間は歩いたわよ~?私もう疲れた~」
「家から持ってきた地図によると、《グランヴェール王国》の街までは、あと2時間くらいだな~」
「パンドラちゃんは、だらしがないですねぇ~。体力のない女の子はモテませんよぉ~?」
「うるさいわね!余計なお世話よ!5時間も歩けるのがおかしいのよ!」
「うえぇ…。パンドラちゃんがいじめてきますよぉ~、ご主人様ぁ~」
「あぁー、はいはい」
なんでこいつらはこんなに元気なんだ?
俺はもう疲れたんだが……。
なんて話していると、森を抜け、街道に出た。
辺りは一面草原で、街道には、行商人らしき人や冒険者のような人が歩いている。
道から外れた遠くの方には、魔物と戦っている冒険者もいる。
oh、ファンタジー……。
「そうだ!街へ行く商人の馬車に乗せてもらいましょ!ついでに情報収集もできるわ!」
「それは名案なのですぅ!」
「そんな簡単に乗せてくれるのか?」
と思ったが、案外すんなりと乗せてくれた。
優しい人が多い地域なのだろうか……。
「お嬢ちゃんたち、どこから来たんだい?」
「すぐそこの、《クヌ村》というところからです」
「へぇ~、そりゃまたどうして?」
「街へ行って、ギルドで冒険者登録しようと思いまして」
「ほえぇ~、まだこんなに幼いのにね~。そりゃ立派なこって」
商人のおじさんは気のいい人で、とてもフレンドリーな人だ。
「僕たち、国の情報が欲しいんですが、おじさんは何か知りませんか?どんな些細なことでも、何でもいいんです」」
「グランヴェール王国の情報か?そうだなぁ~…。そういや最近、大きな地震があったとか。俺もいたけど、そりゃデカかったぜ?」
あぁー、それ多分俺だ……。
『ヴァニッシュ』を撃った時だろうなぁ……。
「それ以外だと~、そうだなぁ……」
商人のおじさんは、いろんなことを話してくれた。
要約するとこうだ。
・グランヴェールの街では最近、貴族の《グリル・ファーレンガルド》の娘、《エリノア・ファーレンガルド》が、王都の国王様に《戦姫》に任命されたらしい。まだ幼い少女なのに、戦いのセンスは抜群なのだとか。
・街には王都から派遣された《蒼天の騎士団》がいて、街の治安を守っている。蒼天の騎士団の団長が、かなり有名人で腕利きの人らしく、人望もある人なんだとか。
「まぁ、後のことは行ってみればわからぁよ。…っと、ほら見えてきたぜ。あれが《グランヴェール王国》の《首都ヴェール》だ」
そう言われ前を見ると、大きな城壁が見えた。
その城壁から少しだけ頭を突き出しているのは、《グランヴェール城》だろうか…。
「ここまででいいのかい?」
「えぇ、ありがとうございました!おかげで随分と早く到着できましたよ!」
「いいってことよ!それよりも、《貧民区》のガキどもには気ぃつけろよ?ぶつかってきたかと思えば、財布をスラれてることが多いからな」
「忠告ありがとうございます。お世話になりました」
「おう!それじゃあな~、良い旅を~」
行ってしまった……。
「さぁてと、着いたなー!」
「そうね!」
「えぇ、着きましたぁ~」
ここからだ。
ここから俺たちの冒険は始まるんだ。
「んじゃ、頑張っていきますか~」
「よ~し!気合い入れるわよ!」
「はいなのですぅ!」
俺たちは城門をくぐり、グランヴェール王国の首都ヴェールへと足を踏み入れた。
俺たちの冒険が始まったーー。
ー第2章竜王編終了ー
~第3章冒険編へ続く~
「シロ、大丈夫だからね?お母さんがついてるから」
お母さんは私の手を握りながら、優しく微笑んでいた。
でも、目の端には涙が溜まっている…。
後ろを振り返ると、村の方から煙が上がっているのが見えた。
きっとあそこでは、ルシフェルさんが戦っているはずだ。
しばらく歩いていると、いつもリュウと遊んでいる場所に来た。
そこには、見知らぬ男の人が立っていた。
その人は、とても怖い顔をした人で、こっちを睨んでいる。
「待ちわびたぞ、光の力を持つ者よ」
「あなた誰よ!そこ、どいてくれない?」
メイアさんはその人に怖気づくことはなかった。
さすがリュウのお母さんだ。
「おっと、すまない。名乗り遅れたな。我が名は《バハムート》!!光の力を持つ者よ!貴様にはここで死んでもらう!!」
バハムート?聞いたことないなぁ。
それに、光の力を持つ者って誰のことだろう?
「メイア母さん、ここは先に行ってくれないかな?あの人、俺に用があるみたい」
え?
リュウ、何を言ってるの?
「急いで!!あいつがその気になれば、みんな殺されるかも知れない!!」
リュウの顔は、必死だった。
額には冷や汗がビッシリと張り付いている。
怯えながらも、私たちのために戦おうとしている。
メイアさんとアインスさんは、反対していた。
リュウを怒鳴るけど、リュウは悲しそうな顔でそれを拒む。
「いいから早く!!みんなを連れて洞窟へ!!!!」
メイアさんは、村の人たちを進ませたけど、自分は残ると言っていた。
アインスさんも戦うと言っている。
私は…どうしたらいいのかな……。
どうしたいのかな…。
リュウと一緒に戦いたいとは思うけど、口にできない。
体が思うように動いてくれない。
このまま逃げ出したいと思っている私がいる。
「お願い…、必ず戻るからさ」
リュウが説得を続けると、メイアさんたちは諦めてしまった。
「…リュウ、帰ってくるのよ?待ってるから」
メイアさんとアインスさんはそう言って、森の奥へと進んでいった。
「リュウお坊ちゃん、あなたが何を背負っているのかはわかりませんが、必ず勝ってくださいね。ご武運を…」
お母さんも私の手を引いて、歩き出した。
でも、大丈夫だよね?
リュウならきっと帰ってくるよね?
「リュウ、絶対だよ?絶対に帰ってきてね!」
リュウはただ、悲しそうな笑みを返すだけだった。
ーーーーーー
「私…あの子を、置いてきてしまった………」
メイアさんは、ずっと嘆いていた。
「メイア……、ルシフェルが言ってたじゃない。『リュウはこれから、いくつもの試練を乗り越えなければならない。そうやって強くなっていく。それがあいつの使命でもある』って…。正直、リュウが龍神の力を持っているってルシフェルから聞いたときは、信じられなかった。でも、あの子の胸の痣が、その証拠なのよね…」
アインスさんは、メイアさんを気遣っていた。
アインスさんの目からも、涙が溢れている。
「大丈夫よ…。あなたとルシフェルの子だもの。きっと生きてるわ」
「でも…、それでも、私はあの子を……」
リュウは、本当に帰ってきてくれるだろうか……。
もしかしたら、もう………。
「ダイジョブ!ダンナ、ツヨイ!ゼッタイ、カツ!」
みんなが沈痛な表情をしていると、ゴブさんが大きな声で言った。
他の魔物さんたちや、村の人も頷いている。
そうだよね……。
リュウならきっと勝てるよ!
「いい?メイア、よく聞いて」
アインスさんは真面目な顔で、メイアさんに言った。
「あそこで私たちがいても、勝ち目は無かった。それどころか、かえって危険な目に合うわ。あの子の足を引っ張るわけにはいかない」
「ルシフェルだって言ってたじゃない。あの子の力は、計り知れないほど大きくなってるって…。私たち以上に強い子よ。確かにまだ幼いけど……。それでも、私たちよりは、立派な子よ」
アインスさんは後ろを振り返っていった。
先ほどリュウと別れた場所では、凄まじい光が見え、凄い音も聞こえる。
「そうね…、あれほどの魔法が使える子だもの。私たちがいたところで、かえって邪魔になるだけね……」
メイアさんは悲しそうな表情をして、言った。
洞窟に着くと、みんな寝床の支度をした。
テントを立てる人や、水を汲んでいる人。
みんな疲れきった顔をしていた。
「サティファは、これからどうするの?」
メイアさんとアインスさんとお母さんが話しているのが聞こえた。
メイアさんは、少しだけ元気になったみたいだ。
「今と変わらず、ルーク家に仕えようと思います」
「そんな、仕えるだなんて…。私たちはもう家族なんだから」
「メイアの言う通りよ。これからも、一緒に頑張っていきましょ?」
「メイア様…、アインス様…、ありがとうございます!」
「その、様とか敬語はやめにしましょ?」
「そうね、家族にそんな言葉遣いは可笑しいものね」
「うん、そうだね。それじゃ、メイア、アインス、これからもよろしくね?」
3人は笑いあって、これから一緒に頑張ると誓い合っていた。
お母さんが楽しそうに笑うのを見ると、なんだか嬉しいなぁ。
リュウ、早く帰ってこないかなぁ~。
「!!!!?!?」
何て思っていると、洞窟全体が揺れた気がした。
ゴォン!ともズゥン!とも言える音を立てている。
「なに!?」
「みんな伏せて!!」
メイアさんは飛び上がり、アインスさんは警戒しながらも指示を飛ばす。
揺れが収まり、私たちは慌てて外に飛び出した。
リュウがいるはずの場所からは、凄い煙が上がっている。
「え?……嘘、でしょ?」
メイアさんは驚愕していた。
メイアさんだけじゃない、私もアインスさんもお母さんも、みんな唖然としている。
「リュウ!?どうしようアインス!!リュウが、リュウが!!」
「落ち着いてメイア!大丈夫!大丈夫だから!!」
「メイア!今は落ち着いて!明日の朝、リュウお坊ちゃ…リュウが戻ってきていなかったら、みんなで迎えに行きましょう!!」
「でも…、でも!!」
メイアさんはかなり取り乱した様子で、リュウのところへ行こうとしている。
リュウ…大丈夫‥だよね?
でも、朝になってもリュウは帰ってこなかったーー。
ーーーーー
「ねぇ!これ見て!!」
翌朝。
まだ日が昇りきっていない時間に、メイアさんの声が聞こえた。
「ん~…、メイア?どうしたの?」
「ふわぁ‥ぁ」
アインスさんとお母さんは、まだ寝足りないようにあくびをしていた。
「朝起きて洞窟の入り口の方に行ったら、あったのよ!リュウからの置き手紙が!あと、小さな箱が2つ!」
え!?
リュウからの手紙!?
「リュウは?いないの?」
「うん……。急いで外に出たけど、誰もいなかった…」
そっか……。
でも、リュウは生きてたんだ!
あのバハムートとかいう人を倒しちゃうなんて、やっぱり凄いや…。
「そう…。それで、なんて書いてあるの?」
「今読むわ」
メイアさんは手紙を読み始めた。
~拝啓 僕の大切な家族へ~
みんな無事に洞窟へ避難しているようでよかったよ。
僕はなんとかバハムートを倒すことができ、その力も手に入った。
でも、大事な人を失った……。
昨日、村の方へ行ったんだ。
あたりはめちゃくちゃで、村は壊滅状態だったよ。
でも、僕たちの家は無事だったよ。
父さんはいなかった。
こんなこと言うのもなんだけど、死体もなかった。
あったのは、大きなドラゴンの死体だけだった。
村中探し回ったけど、どこにもいなかったよ。
僕は、まだ父さんは生きてると思ってる。
父さんのことだから、ひょっこり帰ってくるかもね。
ちなみに、とり残された人もいなかったよ。
みんな洞窟に避難してるみたいだ。
さて、そろそろ本題に入ろうか。
俺はこれから、旅に出ようと思う。
その前に母さんたちのところへ顔を出すことができなくてごめん……。
みんなの顔を見たら、決心が鈍るし、母さんたちを説得する方法がわからないしね。
本当にごめん。
突然だけど、俺は光の龍神の力を受け継いでいるんだ。
俺はその使命を果たさなきゃいけない。
闇の龍神を倒すという使命を。
俺はこれから、たくさんの仲間を集める旅に出る。
そして、組織を作ろうと思ってる。
一人じゃ倒せないことはわかってるしね。
それには、かなりの時間がかかると思う。
でも、落ち着いて時間に余裕ができたら、また母さんたちと会いたい。
今はまだ無理だけど、いつかね。
母さんたちには、これからたくさん心配させると思う。
迷惑もかけるかもしれない。
でも、大丈夫だよ。
俺はきっと、闇の龍神を倒す。
それと、もう少ししたらメイシェルとエレナの誕生日だから、プレゼントを用意してたんだ。
俺は渡せないから、代わりに渡してほしい。
それと最後に、伝えたいことがあるんだ。
俺はみんなで一緒に過ごした日々が忘れられない。
あの時間は本当に楽しく、幸せだった。
母さんが俺を産んでくれたことに、感謝してもしきれないよ。
みんなと出会えて本当に良かった。
また出会う日を楽しみにしているよ。
その時は、旅のことを話したいと思う。
ーリュウ・ルークよりー
「………あの子ったら、ほんと…いきなりなんだから‥」
メイアさんは涙を流しながら、手紙を抱きしめていた。
リュウ、いなくなっちゃうんだ……。
そんなの…嫌だよ……。
「本当に立派になったわね。メイシェルとエレナにプレゼントって、この箱のことかしら?」
アインスさんは小さな箱を手に取った。
蓋には、『エレナへ』と書かれていた。
「うわぁ、よくできてるわね~…」
中には、綺麗なお花の髪飾りが入っていた。
黄色のの石を組み合わせて作った髪飾りだ。
「これもリュウの手作りみたいね…。こっちの箱は、メイシェルのみたいね」
アインさんはもう一つの箱を、メイアさんに渡した。
「………ほんと、凄いわね…」
メイアさんは、『メイシェルへ』と書かれた箱を開けた。
そこには、綺麗な羽の髪飾りが入っていた。
銀色に輝く羽は、小さな石を組み合わせて作ったみたいだ。
「リュウお坊ちゃ、リュウは、行っちゃったみたいね…」
お母さんは、悲しい顔をしていた。
「もう!仕方ないわね!ちゃんと帰ってくるのよ!」
メイアさんは笑顔で、元気な声でそう言った。
どこか誇らしげだ。
「メイア…。そうね!あの子ならきっと一段と立派になって帰ってくるわよ!」
「うん!それじゃ、メイア、アインス、みんなが起きたら、村へ戻りましょう!復興作業を始めなきゃ!」
アインスさんもお母さんも、みんな元気になった。
私も、リュウと会えないのは寂しいけど、どこかできっと会えると信じよう。
それまでに私も、今度はリュウと肩を並べられるように……。
ーーーーーー
ーリュウ視点ー
「さぁ~てと!それじゃ、行きますか!」
俺は今日の朝早く、洞窟に手紙を置いてきた。
昨日、半ば無理やりパンドラに書かされたものだ。
パンドラ曰く、『黙って行ちゃったら、みんな心配するわよ!最悪、死んだと思い込むかも!』だそうだ。
まぁ、そうするのが正しいと思ったから、俺も手紙を書いた訳だしな。
「リュウ、装備が出来上がるまでの1ヶ月間、しっかり頑張りましょ!」
俺たちは、ガッチェスがバハムートの素材で作る装備が出来上がるまでの1ヶ月間、街のギルドで金稼ぎをする。
要するに、旅の資金集めだ。
「でもぉ、移動手段はどうするのですかぁ?」
あ………。
やべぇ、考えてなかった……。
「と、とりあえずは、街までは歩きってことで…。街に着いたら、馬を買おうかなぁ~…と」
「はぁ…、あんたって本当に考えなしよね~…」
「大丈夫ですよぉ~、いつものことですからぁ」
うぅ……。
なんか遠回しにディスられてる感じ……。
「んで?今私たちは無一文なのよね?これからどうするつもり?」
森を歩いていると、ふと思ったようにパンドラが言った。
「あぁ、とりあえずは、この周辺の魔物を狩って、その素材を街で売ろうと思う。あと、コレもな」
俺は傍に置いてあった袋を指さした。
その中には、村で回収したドラゴンの素材が入っている。
ドラゴンの素材は希少で、高価で取引されるらしい。
ガッチェスが言ってた。
「と、魔物だ」
歩きながら話していると、魔物の群れが現れた。
数は4体。
蛇のような姿をしている 魔物、《キラーコブラ》だ。
「はぁ…、『サンダーアロー』」
俺は魔法で、即撃破した。
やっと魔物に出会えたと思ったら、4体かよ……。
しかも小さい。
これじゃあまりいい金にはならないなぁ…。
「なぁ~、こいつって食えるかなぁ~?」
「はぁ!?あんたこれ食べるつもりなの!?」
「いや、ほかに食うもんもないだろぉ?」
「私は嫌ですよぉ~…。街まではそんなにかからないと思いますから、早く行きましょうよぉ~」
なんだよ…。
そんなに嫌がることもねぇじゃんか。
……これ、本当に食えないのか?
「ねぇ~、あとどれくらいかかるのよ~…。もう3時間は歩いたわよ~?私もう疲れた~」
「家から持ってきた地図によると、《グランヴェール王国》の街までは、あと2時間くらいだな~」
「パンドラちゃんは、だらしがないですねぇ~。体力のない女の子はモテませんよぉ~?」
「うるさいわね!余計なお世話よ!5時間も歩けるのがおかしいのよ!」
「うえぇ…。パンドラちゃんがいじめてきますよぉ~、ご主人様ぁ~」
「あぁー、はいはい」
なんでこいつらはこんなに元気なんだ?
俺はもう疲れたんだが……。
なんて話していると、森を抜け、街道に出た。
辺りは一面草原で、街道には、行商人らしき人や冒険者のような人が歩いている。
道から外れた遠くの方には、魔物と戦っている冒険者もいる。
oh、ファンタジー……。
「そうだ!街へ行く商人の馬車に乗せてもらいましょ!ついでに情報収集もできるわ!」
「それは名案なのですぅ!」
「そんな簡単に乗せてくれるのか?」
と思ったが、案外すんなりと乗せてくれた。
優しい人が多い地域なのだろうか……。
「お嬢ちゃんたち、どこから来たんだい?」
「すぐそこの、《クヌ村》というところからです」
「へぇ~、そりゃまたどうして?」
「街へ行って、ギルドで冒険者登録しようと思いまして」
「ほえぇ~、まだこんなに幼いのにね~。そりゃ立派なこって」
商人のおじさんは気のいい人で、とてもフレンドリーな人だ。
「僕たち、国の情報が欲しいんですが、おじさんは何か知りませんか?どんな些細なことでも、何でもいいんです」」
「グランヴェール王国の情報か?そうだなぁ~…。そういや最近、大きな地震があったとか。俺もいたけど、そりゃデカかったぜ?」
あぁー、それ多分俺だ……。
『ヴァニッシュ』を撃った時だろうなぁ……。
「それ以外だと~、そうだなぁ……」
商人のおじさんは、いろんなことを話してくれた。
要約するとこうだ。
・グランヴェールの街では最近、貴族の《グリル・ファーレンガルド》の娘、《エリノア・ファーレンガルド》が、王都の国王様に《戦姫》に任命されたらしい。まだ幼い少女なのに、戦いのセンスは抜群なのだとか。
・街には王都から派遣された《蒼天の騎士団》がいて、街の治安を守っている。蒼天の騎士団の団長が、かなり有名人で腕利きの人らしく、人望もある人なんだとか。
「まぁ、後のことは行ってみればわからぁよ。…っと、ほら見えてきたぜ。あれが《グランヴェール王国》の《首都ヴェール》だ」
そう言われ前を見ると、大きな城壁が見えた。
その城壁から少しだけ頭を突き出しているのは、《グランヴェール城》だろうか…。
「ここまででいいのかい?」
「えぇ、ありがとうございました!おかげで随分と早く到着できましたよ!」
「いいってことよ!それよりも、《貧民区》のガキどもには気ぃつけろよ?ぶつかってきたかと思えば、財布をスラれてることが多いからな」
「忠告ありがとうございます。お世話になりました」
「おう!それじゃあな~、良い旅を~」
行ってしまった……。
「さぁてと、着いたなー!」
「そうね!」
「えぇ、着きましたぁ~」
ここからだ。
ここから俺たちの冒険は始まるんだ。
「んじゃ、頑張っていきますか~」
「よ~し!気合い入れるわよ!」
「はいなのですぅ!」
俺たちは城門をくぐり、グランヴェール王国の首都ヴェールへと足を踏み入れた。
俺たちの冒険が始まったーー。
ー第2章竜王編終了ー
~第3章冒険編へ続く~
