ーシルヴァレン視点ー









「シロ、大丈夫だからね?お母さんがついてるから」

 お母さんは私の手を握りながら、優しく微笑んでいた。
 でも、目の端には涙が溜まっている…。

 後ろを振り返ると、村の方から煙が上がっているのが見えた。
 きっとあそこでは、ルシフェルさんが戦っているはずだ。

 しばらく歩いていると、いつもリュウと遊んでいる場所に来た。
 そこには、見知らぬ男の人が立っていた。

 その人は、とても怖い顔をした人で、こっちを睨んでいる。

「待ちわびたぞ、光の力を持つ者よ」
「あなた誰よ!そこ、どいてくれない?」

 メイアさんはその人に怖気づくことはなかった。
 さすがリュウのお母さんだ。

「おっと、すまない。名乗り遅れたな。我が名は《バハムート》!!光の力を持つ者よ!貴様にはここで死んでもらう!!」

 バハムート?聞いたことないなぁ。
 それに、光の力を持つ者って誰のことだろう?

「メイア母さん、ここは先に行ってくれないかな?あの人、俺に用があるみたい」

 え?
 リュウ、何を言ってるの?

「急いで!!あいつがその気になれば、みんな殺されるかも知れない!!」

 リュウの顔は、必死だった。
 額には冷や汗がビッシリと張り付いている。
 怯えながらも、私たちのために戦おうとしている。

 メイアさんとアインスさんは、反対していた。
 リュウを怒鳴るけど、リュウは悲しそうな顔でそれを拒む。

「いいから早く!!みんなを連れて洞窟へ!!!!」

 メイアさんは、村の人たちを進ませたけど、自分は残ると言っていた。
 アインスさんも戦うと言っている。

 私は…どうしたらいいのかな……。
 どうしたいのかな…。

 リュウと一緒に戦いたいとは思うけど、口にできない。
 体が思うように動いてくれない。
 このまま逃げ出したいと思っている私がいる。

「お願い…、必ず戻るからさ」

 リュウが説得を続けると、メイアさんたちは諦めてしまった。

「…リュウ、帰ってくるのよ?待ってるから」

 メイアさんとアインスさんはそう言って、森の奥へと進んでいった。

「リュウお坊ちゃん、あなたが何を背負っているのかはわかりませんが、必ず勝ってくださいね。ご武運を…」

 お母さんも私の手を引いて、歩き出した。

 でも、大丈夫だよね?
 リュウならきっと帰ってくるよね?

「リュウ、絶対だよ?絶対に帰ってきてね!」

 リュウはただ、悲しそうな笑みを返すだけだった。









 ーーーーーー










「私…あの子を、置いてきてしまった………」

 メイアさんは、ずっと嘆いていた。

「メイア……、ルシフェルが言ってたじゃない。『リュウはこれから、いくつもの試練を乗り越えなければならない。そうやって強くなっていく。それがあいつの使命でもある』って…。正直、リュウが龍神の力を持っているってルシフェルから聞いたときは、信じられなかった。でも、あの子の胸の痣が、その証拠なのよね…」

 アインスさんは、メイアさんを気遣っていた。
 アインスさんの目からも、涙が溢れている。

「大丈夫よ…。あなたとルシフェルの子だもの。きっと生きてるわ」
「でも…、それでも、私はあの子を……」

 リュウは、本当に帰ってきてくれるだろうか……。
 もしかしたら、もう………。

「ダイジョブ!ダンナ、ツヨイ!ゼッタイ、カツ!」

 みんなが沈痛な表情をしていると、ゴブさんが大きな声で言った。
 他の魔物さんたちや、村の人も頷いている。

 そうだよね……。
 リュウならきっと勝てるよ!

「いい?メイア、よく聞いて」

 アインスさんは真面目な顔で、メイアさんに言った。

「あそこで私たちがいても、勝ち目は無かった。それどころか、かえって危険な目に合うわ。あの子の足を引っ張るわけにはいかない」

「ルシフェルだって言ってたじゃない。あの子の力は、計り知れないほど大きくなってるって…。私たち以上に強い子よ。確かにまだ幼いけど……。それでも、私たちよりは、立派な子よ」

 アインスさんは後ろを振り返っていった。
 先ほどリュウと別れた場所では、凄まじい光が見え、凄い音も聞こえる。

「そうね…、あれほどの魔法が使える子だもの。私たちがいたところで、かえって邪魔になるだけね……」

 メイアさんは悲しそうな表情をして、言った。



 洞窟に着くと、みんな寝床の支度をした。
 テントを立てる人や、水を汲んでいる人。
 みんな疲れきった顔をしていた。

「サティファは、これからどうするの?」

 メイアさんとアインスさんとお母さんが話しているのが聞こえた。
 メイアさんは、少しだけ元気になったみたいだ。

「今と変わらず、ルーク家に仕えようと思います」
「そんな、仕えるだなんて…。私たちはもう家族なんだから」
「メイアの言う通りよ。これからも、一緒に頑張っていきましょ?」
「メイア様…、アインス様…、ありがとうございます!」
「その、様とか敬語はやめにしましょ?」
「そうね、家族にそんな言葉遣いは可笑しいものね」
「うん、そうだね。それじゃ、メイア、アインス、これからもよろしくね?」

 3人は笑いあって、これから一緒に頑張ると誓い合っていた。

 お母さんが楽しそうに笑うのを見ると、なんだか嬉しいなぁ。
 リュウ、早く帰ってこないかなぁ~。


「!!!!?!?」


 何て思っていると、洞窟全体が揺れた気がした。
 ゴォン!ともズゥン!とも言える音を立てている。

「なに!?」
「みんな伏せて!!」

 メイアさんは飛び上がり、アインスさんは警戒しながらも指示を飛ばす。

 揺れが収まり、私たちは慌てて外に飛び出した。
 リュウがいるはずの場所からは、凄い煙が上がっている。

「え?……嘘、でしょ?」

 メイアさんは驚愕していた。
 メイアさんだけじゃない、私もアインスさんもお母さんも、みんな唖然としている。

「リュウ!?どうしようアインス!!リュウが、リュウが!!」
「落ち着いてメイア!大丈夫!大丈夫だから!!」
「メイア!今は落ち着いて!明日の朝、リュウお坊ちゃ…リュウが戻ってきていなかったら、みんなで迎えに行きましょう!!」
「でも…、でも!!」

 メイアさんはかなり取り乱した様子で、リュウのところへ行こうとしている。
 リュウ…大丈夫‥だよね?



 でも、朝になってもリュウは帰ってこなかったーー。










 ーーーーー










「ねぇ!これ見て!!」

 翌朝。
 まだ日が昇りきっていない時間に、メイアさんの声が聞こえた。

「ん~…、メイア?どうしたの?」
「ふわぁ‥ぁ」

 アインスさんとお母さんは、まだ寝足りないようにあくびをしていた。

「朝起きて洞窟の入り口の方に行ったら、あったのよ!リュウからの置き手紙が!あと、小さな箱が2つ!」

 え!?
 リュウからの手紙!?

「リュウは?いないの?」
「うん……。急いで外に出たけど、誰もいなかった…」

 そっか……。
 でも、リュウは生きてたんだ!
 あのバハムートとかいう人を倒しちゃうなんて、やっぱり凄いや…。

「そう…。それで、なんて書いてあるの?」
「今読むわ」

 メイアさんは手紙を読み始めた。




 ~拝啓 僕の大切な家族へ~


 みんな無事に洞窟へ避難しているようでよかったよ。
 僕はなんとかバハムートを倒すことができ、その力も手に入った。
 でも、大事な人を失った……。

 昨日、村の方へ行ったんだ。
 あたりはめちゃくちゃで、村は壊滅状態だったよ。
 でも、僕たちの家は無事だったよ。

 父さんはいなかった。
 こんなこと言うのもなんだけど、死体もなかった。
 あったのは、大きなドラゴンの死体だけだった。
 村中探し回ったけど、どこにもいなかったよ。

 僕は、まだ父さんは生きてると思ってる。
 父さんのことだから、ひょっこり帰ってくるかもね。

 ちなみに、とり残された人もいなかったよ。
 みんな洞窟に避難してるみたいだ。

 さて、そろそろ本題に入ろうか。

 俺はこれから、旅に出ようと思う。
 その前に母さんたちのところへ顔を出すことができなくてごめん……。
 みんなの顔を見たら、決心が鈍るし、母さんたちを説得する方法がわからないしね。
 本当にごめん。

 突然だけど、俺は光の龍神の力を受け継いでいるんだ。
 俺はその使命を果たさなきゃいけない。
 闇の龍神を倒すという使命を。

 俺はこれから、たくさんの仲間を集める旅に出る。
 そして、組織を作ろうと思ってる。
 一人じゃ倒せないことはわかってるしね。

 それには、かなりの時間がかかると思う。
 でも、落ち着いて時間に余裕ができたら、また母さんたちと会いたい。
 今はまだ無理だけど、いつかね。

 母さんたちには、これからたくさん心配させると思う。
 迷惑もかけるかもしれない。
 でも、大丈夫だよ。
 俺はきっと、闇の龍神を倒す。

 それと、もう少ししたらメイシェルとエレナの誕生日だから、プレゼントを用意してたんだ。
 俺は渡せないから、代わりに渡してほしい。

 それと最後に、伝えたいことがあるんだ。

 俺はみんなで一緒に過ごした日々が忘れられない。
 あの時間は本当に楽しく、幸せだった。
 母さんが俺を産んでくれたことに、感謝してもしきれないよ。

 みんなと出会えて本当に良かった。
 また出会う日を楽しみにしているよ。
 その時は、旅のことを話したいと思う。

 ーリュウ・ルークよりー




「………あの子ったら、ほんと…いきなりなんだから‥」

 メイアさんは涙を流しながら、手紙を抱きしめていた。

 リュウ、いなくなっちゃうんだ……。
 そんなの…嫌だよ……。

「本当に立派になったわね。メイシェルとエレナにプレゼントって、この箱のことかしら?」

 アインスさんは小さな箱を手に取った。
 蓋には、『エレナへ』と書かれていた。

「うわぁ、よくできてるわね~…」

 中には、綺麗なお花の髪飾りが入っていた。
 黄色のの石を組み合わせて作った髪飾りだ。

「これもリュウの手作りみたいね…。こっちの箱は、メイシェルのみたいね」

 アインさんはもう一つの箱を、メイアさんに渡した。

「………ほんと、凄いわね…」

 メイアさんは、『メイシェルへ』と書かれた箱を開けた。
 そこには、綺麗な羽の髪飾りが入っていた。
 銀色に輝く羽は、小さな石を組み合わせて作ったみたいだ。

「リュウお坊ちゃ、リュウは、行っちゃったみたいね…」

 お母さんは、悲しい顔をしていた。

「もう!仕方ないわね!ちゃんと帰ってくるのよ!」

 メイアさんは笑顔で、元気な声でそう言った。
 どこか誇らしげだ。

「メイア…。そうね!あの子ならきっと一段と立派になって帰ってくるわよ!」
「うん!それじゃ、メイア、アインス、みんなが起きたら、村へ戻りましょう!復興作業を始めなきゃ!」

 アインスさんもお母さんも、みんな元気になった。
 私も、リュウと会えないのは寂しいけど、どこかできっと会えると信じよう。
 それまでに私も、今度はリュウと肩を並べられるように……。










 ーーーーーー





 ーリュウ視点ー







「さぁ~てと!それじゃ、行きますか!」

 俺は今日の朝早く、洞窟に手紙を置いてきた。
 昨日、半ば無理やりパンドラに書かされたものだ。
 パンドラ曰く、『黙って行ちゃったら、みんな心配するわよ!最悪、死んだと思い込むかも!』だそうだ。
 まぁ、そうするのが正しいと思ったから、俺も手紙を書いた訳だしな。

「リュウ、装備が出来上がるまでの1ヶ月間、しっかり頑張りましょ!」

 俺たちは、ガッチェスがバハムートの素材で作る装備が出来上がるまでの1ヶ月間、街のギルドで金稼ぎをする。
 要するに、旅の資金集めだ。

「でもぉ、移動手段はどうするのですかぁ?」

 あ………。
 やべぇ、考えてなかった……。

「と、とりあえずは、街までは歩きってことで…。街に着いたら、馬を買おうかなぁ~…と」
「はぁ…、あんたって本当に考えなしよね~…」
「大丈夫ですよぉ~、いつものことですからぁ」

 うぅ……。
 なんか遠回しにディスられてる感じ……。






「んで?今私たちは無一文なのよね?これからどうするつもり?」

 森を歩いていると、ふと思ったようにパンドラが言った。

「あぁ、とりあえずは、この周辺の魔物を狩って、その素材を街で売ろうと思う。あと、コレもな」

 俺は傍に置いてあった袋を指さした。
 その中には、村で回収したドラゴンの素材が入っている。

 ドラゴンの素材は希少で、高価で取引されるらしい。
 ガッチェスが言ってた。

「と、魔物だ」

 歩きながら話していると、魔物の群れが現れた。
 数は4体。
 蛇のような姿をしている 魔物、《キラーコブラ》だ。

「はぁ…、『サンダーアロー』」

 俺は魔法で、即撃破した。
 やっと魔物に出会えたと思ったら、4体かよ……。
 しかも小さい。
 これじゃあまりいい金にはならないなぁ…。

「なぁ~、こいつって食えるかなぁ~?」
「はぁ!?あんたこれ食べるつもりなの!?」
「いや、ほかに食うもんもないだろぉ?」
「私は嫌ですよぉ~…。街まではそんなにかからないと思いますから、早く行きましょうよぉ~」

 なんだよ…。
 そんなに嫌がることもねぇじゃんか。
 ……これ、本当に食えないのか?

「ねぇ~、あとどれくらいかかるのよ~…。もう3時間は歩いたわよ~?私もう疲れた~」
「家から持ってきた地図によると、《グランヴェール王国》の街までは、あと2時間くらいだな~」
「パンドラちゃんは、だらしがないですねぇ~。体力のない女の子はモテませんよぉ~?」
「うるさいわね!余計なお世話よ!5時間も歩けるのがおかしいのよ!」
「うえぇ…。パンドラちゃんがいじめてきますよぉ~、ご主人様ぁ~」
「あぁー、はいはい」

 なんでこいつらはこんなに元気なんだ?
 俺はもう疲れたんだが……。

 なんて話していると、森を抜け、街道に出た。
 辺りは一面草原で、街道には、行商人らしき人や冒険者のような人が歩いている。
 道から外れた遠くの方には、魔物と戦っている冒険者もいる。
 oh、ファンタジー……。

「そうだ!街へ行く商人の馬車に乗せてもらいましょ!ついでに情報収集もできるわ!」
「それは名案なのですぅ!」
「そんな簡単に乗せてくれるのか?」

 と思ったが、案外すんなりと乗せてくれた。
 優しい人が多い地域なのだろうか……。

「お嬢ちゃんたち、どこから来たんだい?」
「すぐそこの、《クヌ村》というところからです」
「へぇ~、そりゃまたどうして?」
「街へ行って、ギルドで冒険者登録しようと思いまして」
「ほえぇ~、まだこんなに幼いのにね~。そりゃ立派なこって」

 商人のおじさんは気のいい人で、とてもフレンドリーな人だ。

「僕たち、国の情報が欲しいんですが、おじさんは何か知りませんか?どんな些細なことでも、何でもいいんです」」
「グランヴェール王国の情報か?そうだなぁ~…。そういや最近、大きな地震があったとか。俺もいたけど、そりゃデカかったぜ?」

 あぁー、それ多分俺だ……。
『ヴァニッシュ』を撃った時だろうなぁ……。

「それ以外だと~、そうだなぁ……」

 商人のおじさんは、いろんなことを話してくれた。
 要約するとこうだ。

 ・グランヴェールの街では最近、貴族の《グリル・ファーレンガルド》の娘、《エリノア・ファーレンガルド》が、王都の国王様に《戦姫》に任命されたらしい。まだ幼い少女なのに、戦いのセンスは抜群なのだとか。
 ・街には王都から派遣された《蒼天の騎士団》がいて、街の治安を守っている。蒼天の騎士団の団長が、かなり有名人で腕利きの人らしく、人望もある人なんだとか。

「まぁ、後のことは行ってみればわからぁよ。…っと、ほら見えてきたぜ。あれが《グランヴェール王国》の《首都ヴェール》だ」

 そう言われ前を見ると、大きな城壁が見えた。
 その城壁から少しだけ頭を突き出しているのは、《グランヴェール城》だろうか…。

「ここまででいいのかい?」
「えぇ、ありがとうございました!おかげで随分と早く到着できましたよ!」
「いいってことよ!それよりも、《貧民区》のガキどもには気ぃつけろよ?ぶつかってきたかと思えば、財布をスラれてることが多いからな」
「忠告ありがとうございます。お世話になりました」
「おう!それじゃあな~、良い旅を~」

 行ってしまった……。

「さぁてと、着いたなー!」
「そうね!」
「えぇ、着きましたぁ~」

 ここからだ。
 ここから俺たちの冒険は始まるんだ。

「んじゃ、頑張っていきますか~」
「よ~し!気合い入れるわよ!」
「はいなのですぅ!」

 俺たちは城門をくぐり、グランヴェール王国の首都ヴェールへと足を踏み入れた。

 俺たちの冒険が始まったーー。














 ー第2章竜王編終了ー

 ~第3章冒険編へ続く~







目が覚めると、そこは荒地だった。
バハムートとの戦いでできた巨大なクレーター。
森だった場所は、その気配すら残していない。

その巨大なクレーターの真ん中に、巨大な竜がいた。
バハムートだ。

「フッ………ワレノ、マケダ…」

バハムートはもう虫の息なのは、見てとれた。
身体中ボロボロで、かなり出血している。

「……ウケト、レ‥ワガチカラヲ」

バハムートの前に黒い光の玉が現れた。

「キサマナラ、ワガ、チカラ、ヲ……ツカイ、コナセ…ル、ハズダ…」

黒い光の玉は、スッと、俺の胸の中に入っていった。
俺の中で何かが溢れ出しそうになる。
凄まじい魔力だ。

「……なぁ、なんで。なんでこんなことになったんだろうな」

この戦いで得たものは大きい。
バハムートを倒すことで、力を手に入れた。
それに、闇の龍神の配下を一人倒すことができた。

だけど、失ったものもある。
俺のせいで、俺が弱かったせいで、ミラもルシフェルもいなくなってしまった。

「得たものは大きい、だと?ふざけんじゃねぇぞ!何を失った!?失ったものよりも大きなものが、手に入ったとでもいうのか!?」

その叫びは、誰に向けたものでもない。
ただ、この状況に納得しようとする自分に、虫唾が走った。
反吐がでる。

「なぁ!教えてくれよ!俺はどうすればいい!?どうしたらよかったんだ!」

バハムートは答えない。
まだ息があるらしく、虚ろな瞳で俺を見ている。

「だいたい!お前らのせいだ!!闇の龍神とかいう奴のせいで、こんなことになったんだ!!なぁ?そうだろ?クソ野郎が!!!!」

「なんなんだよ…。俺はどうしたらよかったんだよ…。俺のせいで……」

「これからもこんな思いをして生きて行くのか?次は誰が俺のせいで…うぁぁぁぁ!!!!」

「俺は勝てるのか!!?闇の龍神を倒すことなんてできるのか!!?そのために、今度は誰を失うって言うんだ!!」

「なぁ……教えてくれよ………。俺は…どうしたらいい?」

俺はいったい、あとどれだけのものを失うんだ…。

「キサマハ…ココニイルベキデハ……ナカッタ……」

「キサマガココデハナク…チガ、ウ…バショニイタナラ…ナニカガ、カワッタノカモシレンナ……」

バハムートは消えかけの声で答えた。
俺はここにいるべきではなかった、と。

「キサマガイレバ…ソノ、マワリノ、モノモ…マキコムダロウ」

「キサマノマワリニイルモノ、モ…タタカワナケレ、バ…ナラナクナル」

俺が…。
俺がいるせいで周りの人たちが……死ぬのか?

「じゃあ‥俺がいなければ、周りの人たちは、死ぬことが無いのか?」

バハムートはもう、答えない。
眠るように、死んでいた。

「なんなんだよ…。これから…どうすればいいんだ?」

ミラはなんて言ってた?
たしか…仲間を探せって、言ってた気がする。

そうだ…、こいつの言うことを聞いてはいけない。
俺が信じればいいのは、ミラの言葉だ。
そうだな…、まだ終わってなんかいない。
闇の龍神を倒さなければ。

「リュウ!!」

唐突に後ろから、大きな声で呼ばれた。
振り返って見るとそこには、中年のおじさんがいた。
ガッチェスだ。

「大丈夫か?それにしても…酷い有様だな」

生きてたのか…?
でも、どうしてここに?

「森の方で凄まじい音が何度も聞こえたからな…。こいつは、バハムートか?バハムートを倒したのか?」

彼の鍛冶屋は村のはずれにあり、ここから少し距離がある。
だから大丈夫だったのだろう。

「……はい。ガッチェスさん、一つ頼まれてはくれませんか?」

今は目的のために頑張ろう……。
いつまでも落ち込んでるわけにはいかない。
過去は変えられないのだから…。

「バハムートの素材を使って、俺に装備を一式作ってはもらえないでしょうか?もちろん、金は払います」

俺は自分にあった防具を持っていない。
それに、バハムートを使った装備は、かなり使えるはずだ。

「構わん。金もいらん。だが、時間がかかるぞ?せいぜい1ヶ月くらいだが…」

ガッチェスは当然のように言った。
やはり彼は頼りになる。

「すみません…、恩に着ます。なら、1ヶ月経ってから訪ねます」

俺は決めた。
仲間を探す旅に出る。
全てを失ってでも、奴を倒す。
そして、ミラとの約束を果たそう。

「俺は光の龍神の使命として、仲間を集める旅に出ようと思います。ガッチェスさん、あなたも俺と一緒に行ってはくれませんか?俺には、あなたが必要なんです」
「構わん」

ガッチェスは即答した。
まるで、最初から決めていたように言った。
俺が光の龍神と口にしても、疑わないようだ。

「ありがとうございます。では、また1ヶ月後に会いましょう。俺には少し、行かなければならない場所があります」
「そうか、わかった。後のことは俺に任せろ」

俺はそう言って、村の方へと歩き出した。
村からは、煙が上がり、空が赤く染まっていた。







ーーーー







「………」

村へ着くと、悲惨な光景が広がっていた。
村は壊滅していて、ところどころから火が上がっている。

広場の方には、巨大なドラゴンが倒れていた。
胸のあたりに大きな傷があり、死んでいた。

「…こいつも回収するか」

俺は死体を解体し、辺りを見渡した。
どこもかしこも、原型をとどめてなく、村の面影はない。

「……いない…か」

いくら見渡しても、ルシフェルらしき人影はない。
死体すら無い。

「おい!!誰もいないのか!!」

叫んでみるが、返事はない。
あたりは静まり返り、人の気配はしない。

俺は家に戻った。
家は壊れてなく、そのままだった。

「…………」

玄関の扉を開けて、中に入った。
中は、シン…、と静まり返っていて、人の気配はしない。

俺は二階に上がり、文字がびっしりと書かれた紙束を手にとった。
ミラから教わった事をまとめた資料だ。

「パンドラ…、ミシェル」

俺は無詠唱でパンドラとミシェルを呼び出した。

「リュウ…、これからどうするの?」
「ご主人様……」

二人は心配そうな顔をしている。

「これから旅に出ようと思う。母さんたちには悪いけど、黙って旅に出ようと思う。説得するのは、難しいだろうしな…」

母さんたちはきっと、自分を責めるだろう。
でも、俺はもう、この事に巻き込みたくはない。

「これからやることは3つだ。1つは、ここから少し遠くにある街へ行き、ギルドで依頼を受け、金を稼ぐ」

「1つは、金が集まり次第、仲間集めの旅に出る。多くの仲間が集まれば、組織を作ろうと思う」

「最後の1つは、闇の龍神の撃破。戦力が集まり次第、攻撃を開始する。闇の龍神がいつ復活するかはわからんが…」

俺は資料を読みながら、淡々とした口調で言った。

「二人にも協力してほしい。頼めるか?」

パンドラとミシェルは妖精種であり、道具ではない。
俺の仲間だ。

「もちろんよ!」
「はいなのですぅ!」

二人は力強く頷いた。

「ありがとう。それと、二人を箱の姿に戻すのも、できるだけしたくはない。いちいち召喚している時間がもったいないからな。二人とも、それで大丈夫か?」

まぁ、それはあくまでも建前だ。
正直、ガッチェスと二人きりの旅は寂しいからな。
メンバーが欲しい。

「いいわよ。それに、リュウの役にも立ちたいし…」
「あらぁ?パンドラちゃん、それはどういう意味なのですかぁ?」
「え!?あ、いや、別に……」
「おいおい。遊んでないで、荷物をまとめるのを手伝ってくれるか?はやく出発しないと、母さんたちに見つかっちまう」







ーーーー







ーシルヴァレン視点ー




私は、お父さんの顔を知らない。
お母さんが言うには、私が幼い頃に戦争で死んでしまったらしい。

お母さんは、一人で一生懸命に頑張った。
私のために働くお母さんは、日に日にやつれていった。

お母さんはいつも苦笑いして、「シロ、ごめんね。お腹いっぱいご飯を食べたいよね…」と言った。
私は、お母さんがいてくれるだけでよかった。

ある日、いつものように仕事を探しにギルドへ行っていたお母さんが、大喜びしながら帰ってきた。

「シロ!とてもいいお仕事を見つけたの!大きなお家に住めるし、お腹いっぱいのご飯も食べられるのよ!」

私とお母さんは、飛び跳ねながら大喜びした。
これで、お母さんと一緒に幸せになれる。

しばらくして私とお母さんは、村へ行く準備をした。
護衛の人を雇い、馬車を買い、村の村長の家に出発した。

その途中にある森の中で、道に迷ってしまった。
しばらく迷っていると、怖い魔物さんたちに襲われてしまった。

護衛の人が頑張ってくれてたけど、たくさんいたから私とお母さんが乗る馬車も襲われてしまった。
お母さんは私を抱えて逃げようとしてくれたけど、無理だった。
私たちは魔物さんたちに囲まれて、殺されそうになった。

そこにきてくれたのが、彼だった。
青色の長い髪を後ろで束ね、紅い瞳をした彼だ。
これが、私とリュウの初めての出会いだった。

リュウは、私たちを襲っている魔物さんを魔法で攻撃し、他の魔物さんたちからも守ってくれた。
その時の彼は、とてもかっこよかった。

リュウと一緒に、リュウのお家に行った。
お家は、大きくて立派だ。
お母さんの話によると、とても優しい人たちが住んでいるらしい。

私は、ルシフェルさんとメイアさんとアインスさんと出会った。
ルシフェルさんはとてもかっこよくて、優しい人だ。
リュウは、ルシフェルさんに似ている。

リュウと一緒に過ごしたひびは、とても楽しかった。
リュウはとても物知りで、なんでも知っていた。
私はリュウから魔法を教わり、たくさんの魔法が使えるようになった。

リュウの5歳の誕生日が近づくと、みんなリュウへのプレゼントを考え出した。

「お母さん!シロもリュウにプレゼントしたい!」
「いいよ、シロ。じゃあ、お母さんたちのお手伝いを一生懸命したら、買ってあげる」

私はお母さんに言われた通り、一生懸命お手伝いをした。

ある日、リュウが出かけているうちに、ルシフェルさんたちと街へプレゼントを買いに出かけた。

「おぉ!これなんて、あいつに似合いそうじゃないか?」
「そうね、いいんじゃない?」
「リュウもきっと喜ぶわ!」
「リュウお坊ちゃんの喜ぶ顔、早く見たいですね~」

みんなそれぞれのプレゼントを買うため、いろんなお店に入った。
私は、不思議な格好をした人たちがいるお店に入った。

「わぁ~!綺麗な石がたくさんあるよ!」
「これは魔法石だな。そうだ!あいつも魔法石は見たことないんじゃないか?」

ルシフェルさんに教えてもらい、私はプレゼントを選んだ。
私が買ってもらったのは、青色の綺麗な石がはめ込まれた腕輪にした。
リュウ、喜んでくれるかなぁ~。

誕生日当日。

リュウは気がついたらいなくなっていた。
外に出かけたみたい。

「さぁ!リュウが帰ってくる前に準備を終わらせるわよ!シロも手伝ってくれる?」

私はメイアさんに言われ、一生懸命お手伝いをした。

しばらくして、リュウが帰ってくるのが見えた。

「メイアさん!リュウが帰ってきた!」
「あら?あの子、もう帰ってきたの?今日に限って、帰ってくるのが早いんだから」
「メイア、どうする?私が足止めしようか?」
「いいわ、私が足止めする。みんなはその間に準備を終わらせておいて」

メイアさんはそう言って、出て行った。

「メイアのやつ、えらい張り切ってんな」

ルシフェルさんは苦笑いしながら、そう呟いていた。

しばらくして、リュウがドアを開けて、入ってきた。
私たちはそれを合図に、一斉にクラッカーを鳴らした。

『リュウ!!誕生日、おめでとー!!』

リュウはしばらく、何が起こったのかわからない様子で呆然と立ち尽くしていた。

「ありがとう…ございます。とても…うれじいですっ!!」

リュウはそう言って、泣き出してしまった。
私がリュウが泣いているところを見るのは初めてだ。

みんながリュウにプレゼントを渡し出した。
なぜかお母さんは、私のパンツをリュウにプレゼントしていた。
もう!お母さんったら!

私も、リュウに腕輪を渡した。
喜んでくれるかなぁ…。

「あれ?シロ…これ、もしかして魔法石か?高かったんじゃないのか?」

どうやらリュウは、魔法石のことを知っていたみたいだ。
リュウが知らないものをプレゼントしたかったのに…、少し残念。

「ありがとな、シロ!とても素敵だよ!」

リュウは笑顔で私にお礼を言った。
その顔がとてもカッコよくて、ついお母さんの後ろに隠れてしまった。
リュウの誕生日パーティーは、とても楽しい1日になった。


しばらくして、私の誕生日が近くなった。
それにつれて、リュウはよく部屋にこもるようになった。

「いいか?シロ。俺が部屋にいるときは、決して覗かないように」

リュウはそう言って、部屋の中で何かをしていた。
気になる気持ちもあったけど、リュウが覗かないでって言ったから、覗かなかった。

誕生日当日。

みんな盛大にお祝いしてくれた。
美味しそうな料理がたくさん運ばれてきた。
リュウはつまみ食いをして、メイアさんに頭を叩かれていた。

プレゼントも貰った。

お母さんからは、綺麗な髪留めを。
ルシフェルさんからは、可愛い靴を。
メイアさんからは、水色の綺麗なリボンを。
アインスさんからは、魔法使いさんがが使う小さな杖を。
メイシェルちゃんとエレナちゃんからは、綺麗なお花を。

「あ、あのさ…シロ。サティファさんと被るかもだけど…」

リュウは不安がりながらも、私に石でできた小さな箱をくれた。

「わぁ!凄く綺麗!!」

箱の中には、色とりどりの小さな石を使って作られた、虹色の蝶の髪飾りが入っていた。
凄く綺麗な蝶で、とても高そうに見える。

「それ、俺が魔法でいろんな色の石を作って組み合わせて、少しずつ作ったんだ。気に入ってくれたか?」

え!?
これ、リュウの手作りなの!?
やっぱり、リュウは凄いや!!

「うん!とても綺麗だよ!リュウ、ありがと!!」
「へぇ~、リュウが作ったのか?凄いな…良くできてる」
「さすがリュウね!」
「メイアの子とは思えないわ!」
「ちょっと!?どういう意味よ!?アインス!」
「良かったわね、シロ!リュウお坊ちゃんから素敵なプレゼントがもらえて!」

えへへ~。
リュウが私のために作ってくれたのか~。
嬉しいなぁ~。








ーーーーーー









「リュウ!待ってよー!
「シロ~、早くしないと置いてっちゃうぞー!」

私たちは今日も、森で魔法の練習をしに出かけた。
リュウはいつも元気だ。

私の誕生日にリュウからもらった髪飾りは、毎日つけている。
ちゃんと寝る前に、綺麗に磨いたりもしてる。
リュウからもらった大事なものだもんね~。

最近、パンドラちゃんとミシェルちゃんと知り合った。
二人はリュウの魔法で出てくる。

「なぁ、ここの場合は、どういう動きをすればいい?」
「そうね…、こうすればいいんじゃない?」

パンドラちゃんとリュウは凄く仲が良さそうに見える。
ちょっと面白くないかな…。

「ねぇ、シロちゃん。あの二人、仲がいいですねぇ。私もご主人様とイチャイチャしたいですぅ」
「え!?だ、ダメ!」

もう、ミシェルちゃんはいつもこうなんだから…。
リュウと昔からの友達なのは、私のなのにな…。

「!!」

リュウがいきなり辺りを見渡して、姿勢を低くした。

「リュウ、どうしたの?」
「静かに...。何かいる...」

え!?
そんな、怖いよ…。

辺りを渡してみるけど、何も見えない。
隣では、ミシェルちゃんも何かを感じるらしく、警戒している。

「っ!パンドラちゃん!」
「えぇ…。魔物ね、かなりの数だわ。囲まれてる…」
「シロ、俺の後ろでカバーに入ってくれ。パンドラとミシェルは、シロを守ってくれ」

私は言われた通りに、リュウの後ろで杖を構えた。
パンドラちゃんとミシェルちゃんも、周りを警戒している。

すると、茂みから何かが飛び出してきた!
何かじゃない、あの姿は忘れもしない。

ゴブリンだ……。

ゴブリンさんは、いきなり地面につっぷせて、降参した。
ゴブリンさんの言葉は、よく聞き取れない。

でも、リュウは警戒を解いたようで、ゴブリンさんと話し始めてしまった。
リュウはなんにでも積極的だし、すぐになんとかしてくれるから、とても頼りになる。

私もいつか、リュウに頼ってもらいたいなぁ~。






その夜。
村の人たちが集まり、話し合いをした。
みんなピリピリしていて、ルシフェルさんがみんなを説得していた。

どうやら、魔物さんたちと一緒に暮らそうとしているらしい。
正直、そんなのは嫌だ。
とても怖い。
でも、ルシフェルさんの考えならいいかな、と思う。

「子供に何がわかるって言うんだ!」

村のおじさんにリュウが怒鳴られた。
私はとっさに杖を引き抜いたけど、リュウが反撃してたからすぐに腰に収めた。

リュウはおじさんや他の村の人たちも説得した。
さすがリュウだよ。
私だったら怖くて言い返せないもん。

こうして、魔物さんたちと私たちは、村で仲良く暮らすことになった。
まだ少し怖いけど、仲良くなれるといいな。







ーーーーー








「シロ~!魔法の練習をしに行こうぜー!」

ある日のお昼頃、私とリュウはいつものように、森へ行くことにした。
朝はリュウの姿を見かけなかったけど、どこかに出かけていたんだろうか…。



リュウと一緒に歩いていると、広場の方で村の人たちが、空を見上げて騒いでいた。

私も空を見たけど、特に何も見えない。
と、思ったけど、遠くの方に小さなものが見えた。
なんだろう…。

「みんな!あれはドラゴンだ!!巨大なドラゴンが、こっちへ向かってきてる!!!!」

リュウが叫び、みんなが慌てて逃げ出した。
あれって、ドラゴンなのかな?
あれが見えるなんて、リュウって目が良いんだなぁ。

なんて思ってる場合じゃないよね、
どうしよう…。
どうしたらいいのかなぁ。

「シロ!急いで父さんにこのことを知らせるぞ!!」

私がオロオロしていると、リュウはそう言って私の手を握った。
私はリュウに手を引かれ、来た道を急いで戻った。







ーーーーー





家へ着くと、すぐさま中に入り、ルシフェルさんに広場でのことを話した。

「分かった!!お前たちは急いで洞窟へ避難しろ!俺が奴を倒す!」

ルシフェルさんはすぐに戦いの準備を始めだした。
メイアさんやアインスさんがそれを止めている。

ルシフェルさんは、リュウに何かを言っていった。
私はただ、訳が分からずに呆然と立ち尽くしていた。

「シロ……、リュウのことが好きか?」

ルシフェルさんに、唐突にそう聞かれてビックリした。

「……うん、大好き!ルシフェルさん、必ず帰ってきてね…」

私は、リュウのことが大好きだ。
お母さんに将来の夢を聞かれて、つい、リュウのお嫁さんになる!って言ってしまったくらいに。

ルシフェルさんは私の答えに満足したように頷いた。
そして、リュウの方を向いてニヤニヤしていた。
このやりとりも、もう見れなくなってしまうのかな……。

「シロ…、俺の大切な家族を守ってやってくれ」

ルシフェルさんは最後に、私の耳元でそう呟いた。
私は力強く頷いた。

ルシフェルさんは、準備を終えてからすぐに村へと飛び出して行った。
私はその背中が、とても大きく見えた。
まるで、魔王と戦おうとする勇者みたいだったーーー。



















「な!?」

 バハムートが視界から消えたと思ったら、凄まじい速度で俺に接近していた。

「クッ!!」

 俺はバハムートの攻撃を紙一重で避け、すかさず攻撃を仕掛けた。
 が、俺の剣はバハムートの体を斬ることはなく、空振る。
 バハムートは後ろに大きく跳躍して、距離をとった。

「ふむ、さすがに手強いな…。どれ、少し本気を出すとするか」

 クソッタレが…。
 今からが本番ということか。

「見ておれ、これが竜王の力よ!」

 バハムートの周りに魔力が集中していく。
 大気が揺れ、大地が軋む。

 バハムートの姿が変わっていった。
 ツノが生えて尻尾が生えて、その姿は、ドラゴンだ。

「嘘…だろ」

 バハムートはあっという間に大きくなり、巨大な竜になった。

「グォォォガァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 バハムートの咆哮で、また大地が軋む。

 これが、冥王竜。
 竜王の、力…。

 バハムートが巨大な翼を打つと、強風が吹いて、俺は飛ばされそうになる。

 剣を地面に突き刺し、飛ばされないように踏ん張る。

「ックソ、がぁぁぁぁぁぁ!!!」

 俺は叫んだ。
 体に纏わりつく恐怖を打ち払うように。
 俺は魔力を込めれるだけ込め、俺の中で一番威力のある魔法を放つ。

「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇ!!!!『シャイニングブラスト』ォォォォォォォォ!!!!!!!

 俺の中で最も高い威力を誇る光魔術、『シャイニングブラスト』。
 魔力の消費量が多く、魔力を込めるのにも少し時間がかかる魔法だ。

 だが、今ならいける。
 俺はそう思い、暴れ狂う魔力を押さえつけ、バハムートに向けて解き放った。

 俺の目の前で不規則な魔法陣が現れ、回転した。
 その回転はだんだんと速くなり、魔法陣は光の輪になった。

 瞬間、光の輪から光の砲撃が放たれた。
 その光は、大地を抉(えぐ)りながら、バハムートの巨大な身体に迫った。

「ガァァァァァァ!!!!!!!」

 直撃寸前で、バハムートは巨大な口からブレスを吐き出した。

 それは黒く禍々しいもので、『シャイニングブラスト』に直撃した。

「ウォォォォォォラァァァ!!!!」

 俺はさらに魔力を込めた。

 俺のシャイニングブラストが徐々に押していき、バハムートに直撃した。
 激しい光と爆音が轟く。

「ハッ!はぁ…はぁ…はぁ…」

 今の攻撃はかなりのものだった。
 だが、あんなことで死ぬやつではないことはわかっている。

『リュウ。リュウ、聞こえますか?』

 …ん?
 この声、女神か?

 辺りを見回してみるが、女神らしき人はいない。
 どこだ?

『私は今、光の指輪を通して、あなたに語りかけています。聞こえますか?』

 俺は自分の指にはめている指輪を見た。
 指はは青い光を放ち、輝いていた。

「え、えぇ。聞こえます。でも、どうしてそんなことができるんですか?」
『光の指輪の効果です。今は詳しいことを説明している暇はありません。』

 光の指輪って、こんなこともできるのか…。
 でも、女神がアドバイスしてくれるならバハムートに勝てる気がしてきた。

『リュウ、ただ闇雲(やみくも)に威力の高い魔術を使っていては、バハムートには勝てません。戦術を編み、戦略を立てて戦うのです。今のあなたは焦りばかりで、戦況が全く読めていません』

 確かに、俺は焦っていた。
 バハムートはまだ、本気を出すと言っても、全力では無いはず。
 奴の戦術は、こちらの体力を奪ったうえで、確実に仕留めることだ。

『バハムートは、魔法を使っての攻撃はしてきましたか?』
「一応。竜の姿になった時にブレスのようなものを使っていました」

 あれは魔法だったのだろうか…。

『そうですか…。なら、バハムートはまだ、全力ではないはずです。おそらく、ここからだと』
「えぇ、そうでしょうね。それにしても、なぜ奴は出てこないんでしょうか。いまだにあの煙の中にいます」

 先ほどの攻撃で土埃が舞い、バハムートはその中から出てこない。

『おそらく、こちらの出方を伺っているのでしょう。とにかく、作戦を立てるなら今のうちです』
「わかりました。それで、どうしましょうか。奴には近接攻撃も、魔術も効きませんし」
『いいえ。先ほどのシャイニングブラストは、ダメージを与えれたはずです。ですが、致命傷ではないでしょう。あれ以上の攻撃ができますか?』
「一応は…。ですが、魔力を込めるのに時間がかかりすぎます。その間に奴は俺を殺すでしょう」

 問題は時間がかかりすぎることだ。
 奴を倒す攻撃をするなら、それなりに時間をかけなければいけない。

『そこをなんとかするのが、戦術です。あなたは今までに何を教わってきましたか?そして、何をしてきましたか?』

 ……そうだな。
 冷静に考えてみよう。

 まず、バハムートを倒すには、時間をかけて魔力を込めなければならない。
 そして、そのためには時間稼ぎをしなければいけない。
 俺にできるか?
 ……やるしかないか。

「わかりました。やってみます」

 俺は『ウインドスラッシャー』を放ち、土煙を払った。
 そこには、人の姿になったバハムートがいた。

「今のはさすがに効いたぞ。なかなかの魔術だったが、我を倒すことはできないようだな」

 俺はバハムートの言葉を無視し、魔力を手に込める。

『ブリザードストーム』!!

 俺の魔法により、猛吹雪が発生。
 それにバハムートは飲み込まれた。

 攻撃は効かなくても、視界を奪ったりすることは可能だ。
 俺は続けざまに魔術を放つ。

『クレイジーミスト』!!

 今度は、俺の周りに深い霧を発生させた。


 俺は龍眼を使い、バハムートの位置を特定。
 バハムートは、猛吹雪に飲まれて、方向感覚を失っているようだ。

 たとえ出れたとしても、俺は深い霧の中に隠れている。
 そう簡単には俺の位置を特定することはできないだろう。

『さぁ、今のうちです!!』

 俺は『シャイニングブラスト』に全力の魔力を込める。
 膨張する魔力を圧縮させ、また膨張してきたら圧縮。
 それを何度も繰り返す。

 10分ほど繰り返したあたりで、限界がきた。
 これ以上膨れ上がれば、抑えることはできない。

 俺は冷静に狙いを定める。

「女神様、一つ聞きたいことが」
『なんですか?』

 俺は魔力を集中させたまま女神に質問した。

「なぜバハムートは、竜の姿にならないのでしょう。そうすれば、俺の魔法をかき消すこともできるだろうに」
『おそらく、彼が人の姿になっているのは、先ほどの攻撃で、予想以上のダメージを与えられたからでしょう。竜の姿ならば、的は大きく、魔法を当てやすいですからね』

 そうなのか…。
 別にまだ何か企んでるというわけじゃないのか…。
 よし、行くぞ。

 俺は全力の魔力を込めに込めた一撃を、バハムートへと放つ。

『シャイニングブラスト』ォォォォォォォォ!!!!!

 俺が放ったシャイニングブラストは、凄まじい爆発音と光を放ちながらバハムートへ向かった。




 ーーーーー




「はぁ…はぁ…」

 俺が放った魔法は、地形を変えた。
 森だったはずの場所には巨大なクレーターができ、木々や草花は消し飛んだ。
 それだけ全力の魔法だった。

 なのに…だ。
 バハムートは立っていた。
 その顔は、不敵な笑みではなく、殺気を込めた怒気の顔だ。

「今のはさすがに危なかったぞ。だが、もう打つ手は無いようだな」

 バハムートの言う通り、俺はもう打つ手がない。
 あの攻撃を耐えられることは、俺の全力を持ってしても、勝てないということだ。

 冥王竜 バハムート。
 奴は凄まじい防御力と俊敏性、魔力に対する耐久性を兼ね備えている。
 倒すには、山一つ消し去るくらいの破壊力を持った攻撃でなければならないようだ。

 どうやら手加減するのは終わりのようだ。
 質量を持った殺気で、俺を睨んでいる。

「よくぞここまで耐えたな。だが、それも終わりだ」

 彼は剣を中腰に構えた。
 またバハムートが俺の視界から消えた。
 その速さは、龍眼を使っても捉えきれなかった。

「………ゴフッ」

 俺の目の前からバハムートが消えたかと思えば、胸に剣が刺さっていた。
 見上げると、冷たい殺気の込もった目で俺を見下ろしているバハムートがいた。
 激痛とともに、しだいに意識が朦朧としてくる。

「もうよい。もう、終わりだ」

 バハムートは、俺の胸に深々と刺さった剣を抜き、踵を返した。
 そのまま去って行く彼を、俺は消えかかる意識の中で、呆然と見ていることしかできない。
 この傷を治すことのできる魔法を、俺は持っていない。

 俺は、負けた。
 あれだけ全力でやったにもかかわらず、致命傷を与えることはできなかった。
 完敗だ……。

 あれが、冥王竜 バハムートか…。
 俺が勝てる相手ではなかった。

 心のどこかで、いざ戦いとなっても勝てると思っていた。
 俺にはそれだけの力があると、過信していた。
 竜王とも戦ったことがないのに……。

 でも、せめてもう少し生きたかった。
 この世界で、色々な事をしてみたかった。
 俺は…ここで、死ぬのか……。

 俺の頭に今までの記憶が浮かんできた。
 これが走馬灯なのだろうか…。
 前世では見れなかったものだ。

 子供を助け、車に引かれて死んだこと。

 女神と出会い、異世界に転生してきたこと。

 ルシフェルやメイア、アインスと出会い、リュウ・ルークとして生きたこと。

 森でサティファとシロと出会ったこと…。

 シロか…。
 彼女は、とても良い子だったな。
 それに優秀な子だった。
 俺が教えた魔法を、いとも簡単に無詠唱できるようになるんだからな…。

 シロがここにいなくて良かった。
 才能に満ちたこの人生を奪うところだった。
 死んでしまったら、もう彼女たちとも会えないのだろう…。

 ルシフェルはどうなっただろう…。
 無事だといいがな…。

 俺は彼らの子として生まれてきてもよかったのだろうか…。
 俺は本当のリュウ・ルークの人生を奪ったんじゃないんだろうか…。

 あぁ…ダメだな。
 負の感情ばっか出てきて、ネガティブになってしまう。

 まぁ、どうせ死ぬんだ。
 最後の気分がこれだってのも、案外悪くないのかもな…。

 走馬灯が、最近のことになってきた。

 ゴブや他の魔物と出会い、共存することになったこと。

 みんな最初は警戒していたものの、徐々に仲良くなれたこと。

 村にドラゴンが襲ってきたこと…。

 ルシフェルと別れることになったこと…。

 森へ避難していると、バハムートと出会い、戦うことになったこと。

 そういや最後に母さんたちやシロに、必ず生きて戻るって言ったけか…。
 もう…無理みたいだ。

 あーあ、もう終わりか。
 最後にシロの髪の毛に埋まって、シロのいい匂いを心ゆくまでに堪能したかったなー。

 頭がクラクラする。
 体が冷たい…。
 もう…終わり、か…。

 待てよ?
 バハムートはなぜ飛んで帰らないんだ?
 俺を倒すという目的は達成されたはずだ。
 なら、なぜすぐに帰らない?

 バハムートが去って行く方向…。

 間違いない!
 奴は洞窟の方へと進んでいる!
 このままじゃ、みんなが危ない!

「バ、ハ…ムゥゥゥトォォォォォォォ!!!!」

 このまま行かせてはいけない!
 でも、どうすれば…。
 勝つ方法が、わからない…。
 もう、ダメなのか?

『リュウ!諦めてはなりません!!あなたに託していた切り札!!今こそ使う時です!!』

 そうだ、俺には切り札があるし、女神もいる!
 まだだ!まだ、負けてなんかいない!!
 俺の意識はまだある!!

 俺の残りの魔力はまだかなり残っている。
 さっきまでの戦いで、かなりの魔力を消耗したが、ほんの3割程度だ。

「ほう…まだ動けるのか。大人しく死んでいれば良いものを……」

 俺は立っているのがやっとの状態だ。
 それを見て、奴は油断している。
 今がチャンスだ…。

「死へと誘(いざな)う死神よ!その死の鎌を振り下ろすべき相手は、我が宿敵なり!我が命とともに、冥府へと誘え!!『ヴァニッシュ』!!!!

 俺は女神に教わった通りに詠唱した。
 間違ってはいないはず…。

 俺の体から魔力が全て抜けた。
 全てだ。
 あれだけあった魔力が空になり、魔力切れ状態になった。

 そして、俺の目の前に巨大な、黒く禍々しい魔法陣が出現した。
 その魔法陣に、俺の体の中から、魔力以外のものが吸い取られる感じがした。

 魔法陣は激しい光や爆発音を放ち、どんどん巨大化していく。
 俺は何が何だかわからなくなっていた。

「なんなんだよ…これ」

 魔法陣の巨大化は止まらない。
 バハムートも何が起こっているのかはわからないようだ。

『この魔法は、術者の生気を吸い、魔力を吸い、その大きさに合わせて威力が高くなるものです』

 女神が俺に説明しだした。
 その声はどこか、悲しく聞こえた。

「俺の生気や魔力くらい、いくらでも吸い取って欲しいくらいです。どうせ俺はもう、お陀仏ですからね…」

 それにしても、生気を吸い取る魔法か…。
 確かに、ここぞというところで使わなければ死んでしまうな。
 本当は、闇の龍神に使いたかったのだが…。

「まだこんな力を残しておったとは…。我はどうやら、貴様を見くびっておったようだ」

 バハムートが感慨深そうに言う。
 その顔は、不敵に笑っていた。

「だが、我を倒せるほどの力があるとは思えんな!諦めろ!!貴様はもう、終わりなのだ!!!!」

 バハムートの姿が変わっていく。
 どんどん大きくなり、巨大な竜になった。

『どうやらバハムートは、この魔法を打ち消すつもりのようです。彼の最大の魔法がきます。注意してください』

 なんだと!?最大の魔法だって!?
 そんなのどうやって止めればいいんだ!

 いや、止める必要はないのか…。
 とにかく、この『ヴァニッシュ』を完成させなければ勝てない!!

「キョウダイナルヤミノチカラヨ。スベテヲホロボシ、ソノチカラヲシメセ!キラメキ、カガヤクヒカリヲ、スベテケシサルガイイ!!『ダークレイ』!!!!

 バハムートが詠唱し終わると、巨大な、不規則な模様の魔法陣が出現した。
 アレは、かなりヤバイ…。

 バハムートの攻撃によって、全てが消し去ろうとした。

 その寸前で、俺の切り札『ヴァニッシュ』が完成し、全てを光で飲み込んだーーー。






 ーーーーー







「あぁ…、終わったのか……」

 気がつけば俺は、いつも女神と会っているあの場所にいた。

「リュウ、よくぞ戦い、勝ってくれましたね。バハムートはもう、虫の息のようです」

 女神は微笑みながら、そう言った。
 なんだろう…。
 女神の体が薄く光っている気がする…。

「よく…わかりません。倒せたのかどうかはわかりません。女神様が言うなら、倒せたのでしょうが」

 俺は見ていないからわからん…。

「あぁー、もう終わりなんですね…」

 思えば、闇の龍神を倒すどころか、その配下にやられてしまった。
 女神の期待を裏切ることになったな。

「本当にすみません…。俺は闇の龍神を倒すことはできませんでした……」

 俺がそう言うと、女神は悲しそうな笑みを浮かべた。
 だよな、失望したよなぁ…。

「いいえ、まだ終わりではありませんよ。終わりなのは、私の方です」

 女神の体の光が、一段と濃くなっていく。

「どういう意味ですか?女神様が終わりって…」
「そのままの意味ですよ。私はもうじき、消えてしまうでしょうね」

 女神の体が薄くなっていく。

 俺はただ呆然と、女神の話を聞いた。

「あなたには言わなければならないことがあります。光の龍神は、闇の龍神との戦いで精神体だけとなりました。それが、私なんです」

「正直、驚きましたよ。私の力を受け継ぐだけの素質のある人が、闇の龍神が復活してしまう前に見つけることができましたからね。本当は、間に合うかどうかギリギリだったんです。なにせ、世界は広いですからね」

「あなたは一生懸命に頑張ってくれました。私の教えを受けて、どんどん成長していきました。ですが、闇の龍神を倒せるかどうかは、正直わかりません」

「私はある禁術を使い、あなたが死んだ時に一度だけ、代わりに私が死ぬようにしました」

「心配いりませんよ!元々私は、このために精神体となったのですからね。『ヴァニッシュ』は術者の命と相手の命を奪う魔法ですから、切り札を使って敵を倒すなら、この方法しかありませんからね」

「本当なら闇の龍神に使いたかったのですが…、仕方がありませんでした。奴らも私たちの存在に気がついていたということでしょうね」

 女神の体は、もう半透明になっている。

 そんなの…嫌だ。
 今までずっと一緒に過ごしてきたのに…。
 女神は俺の師匠みたいなものだ……。
 いろいろなことを教えてくれた人だ…。

「なんて顔をしてるんですか。私は最後にあなたと戦うことができて、とても嬉しいんですよ?」

 女神の瞳から、涙がこぼれた。

「……教えてください。あなたの名前を…」

 女神は俺のせいで死んで行くようなものだ……。
 俺をこの世界に転生させてくれた人だ。
 感謝しても仕切れない恩人だ…。
 そんな人の名前を知らないままなんて、俺は嫌だ。

「あら?私の名前は《閃光竜》だと、教えましたよ?」
「冗談はやめてください…。それはあなたの本当の名前ではないでしょう?」

 確かに龍神の名前は教えてもらった。
 だけど、それは名前じゃないはずだ。

「……ふぅ、さすがですね。その通り、それは光の龍神を指す名です。ちなみに私は、《6代目 閃光竜》なんですよ?あなたが7代目になる日も、そう遠くはないはずです」

 女神はしゃがんで、俺と同じ目線に立った。

「私の名前は『ミラ』。この名前を知っているのは、私の夫と娘だけなんですよ?あなたは私の特別なんだから、教えたんですからね?他の人にいっちゃ、ダメですよ?」

 ミラは人差し指を立て、口に当てながら言った。
 その顔は、無邪気な少女のようだった。

 ミラ……。

 俺は口の中で何度も呟いた。
 この名を一生忘れないように。
 心に深く刻むように。

「ちなみに、私の子孫は、あなたの近くにいるんですよ?誰だと思いますか?」

 え?
 俺の近くにミラの子孫が?
 誰だろう…あ、もしかして。

「フフッ、もうわかったみたいですね?『サティファレイ・ヴァナディール』と『シルヴァレン・ヴァナディール』ですよ」

 そうか…そうなのか。
 だから初めて見たとき、どことなくミラに似ていると思ったのか…。
 そっか…。
 あの二人は、ミラの子孫だったのか…。

「さてと、もうあまり時間はないようですね」

 ミラは立ち上がり、自分の手を見て言った。
 ミラの体は、もうほとんど透き通ってしまっている。

「お別れです、リュウ。最後に私から、あなたに渡したいものがあります」

 ミラはそう言い、俺の額に手を当てた。
 こうされるのも、これが最後なんだろう……。

「あなたには、私の持てる魔法の半分も渡せませんでした。ですから、今ここで、残りの魔法を送ります」

 ミラの瞳は、力強く俺を見据えていた。

「反動で、凄い痛みがあなたを襲うでしょうが、よろしいですか?」
「構いません。よろしくお願いします」

 ミラの手が淡く光り、俺の頭に激痛が走った。
 頭だけじゃない。
 体全体に激痛が走る。

 ミラが手を離すと、痛みは消えた。
 その代わりに、頭や体に、ある感覚が残った。
 無詠唱魔術を使うときの感覚だ。

「さぁ、終わりましたよ。どうですか?」
「凄まじいとしか言いようがありません。まるでこの魔法を、前から知っていたような感覚です」

 ミラの体から、光の玉が次々と出て、泡のようになっている。

「それでは、お別れです。リュウ!!必ずや闇の龍神を倒し!この世界に平和をもたらしなさい!!!!」
「はい!必ずや!!光の龍神の名にかけて!!!!」

 俺の言葉にミラは満足そうに笑い、消えた。

 俺がもっとちゃんとしていれば、何かが変わったのだろうか………。
 ミラは消えずにすんだのだろうか……。

 俺の中で何かが音を立てて壊れた気がした。


 俺は、全てを失ってでも、闇の龍神を倒すと心に決めたーーー。




























 村はいつも以上の活気があった。
 あの集会以来、村の中に魔物の姿が見られるようになった。

 魔物たちは村の人の農作業を手伝ったり、子供たちと遊んだり、村にすっかり溶け込んでいた。

「よぉ、ゴブ!調子はいいみたいだな!」
「リュウノダンナ!オカゲサマ、ミンナ、ナカヨシ!」

 ゴブは一生懸命に魔物たちを説得し、この村の人たちと協力して過ごすように言った。
 魔物同士で通じるものがあるのだろう。
 魔物たちは素直に従った。

「ダンナ、ドコイク?」
「ガッチェスさんのところだよ。頼んでた物が完成したらしいから、それを取りに行くんだ」

 昨日、ようやくガッチェスから連絡がきた。
 俺は一人で彼のところへ行く。
 ガッチェスが龍神のことを話したりしたら、シロになんと言われるかわからないからな。

「じゃあな!何かあったら、父さんを頼れよ!」

 俺はシロに見つかる前に鍛冶屋へ赴いた。



 鍛冶屋に着くと、ガッチェスは武器の手入れをしているところだった。

「ガッチェスさん!武器が完成したそうですね!」
「あぁ、待たせたな。ついに完成したぞ。ほら、これがお前の剣だ」

 ガッチェスは一つの箱を開けて見せた。

「おぉ!これが!」

 そこには、俺が注文した通り、日本刀のような剣が入っていた。

 刀身は蒼く淡く美しく光り、見ただけで身が引き締まる。
 俺は前世での父さんが使っていた、居合用の刀を使っていたこともあり、一番使い慣れたこの武器を頼んだ。

「それにしても不思議な形をしている剣だ。お前から教わった製法も、今まで聞いたことはない」

 それもそのはず。
 この世界では、両刃の剣が主流で、刃と峰がある剣もあるが、日本刀のように細長い形はしていない。

 日本刀の製造方法は、前世で教わっていた。
 前世で教わっていたことが、役に立った。
 あの時間も決して無駄ではなかったということだ。

「この剣の名は、《龍極剣 オルシオン》だ。龍神の祠で手に入れた魔法石は、刀身に使った。魔法石の効果は調べたところ、魔法の威力を増幅させる効果と、魔法などで作られた結界を解く力だな」

 凄いなぁ…、なんでも切れそうな剣だ。
 でも、少し重いかな。
 普通の日本刀の3倍以上はある重さだ。
 まぁ、これを使うのは俺がもう少し大きくなってからだから、問題はない。

「魔法の威力を増幅させるといっても、それがどれくらいなのかは分からん。そこらへんは、自分で見極めろ」
「ありがとうございます!こんな凄い剣が出来上がるなんて。形も、俺が頼んだものと同じですし」
「なに。龍神の力になれるのなら、安いものだ。また何かあったら言ってくれ」

 俺はガッチェスに何度もお礼をし、オルシオンをミシェルに渡した。

 彼は本当に凄い人だ。
 また何かあったら、頼らせてもらおう。





 ーーーーー






 家に帰り、シロに魔法を教えるために、森へ行くことにした。

 その途中、村の広場を通りかかったときだ。
 広場の中に人だかりができ、村人たちは皆、上を見上げて何かを指差し、言い合っていた。

「あれはなんだ?」
「どれだ?」
「なんだ?鳥じゃないのか?」

 俺も空を見上げた。
 遥か遠くの方に、本当に小さな黒い点のようなものがあった。

 俺は龍眼を使い、それが何かを確かめた。
 周りの人は皆上を見上げてるから、バレはしないだろう。
 あまり使いたくはないが…。

「!!!!」

 俺は、それを龍眼で見て、驚いた。
 巨大な黒い体に、大きな翼。
 体表には黒い鱗がびっしりと張り付いている。

 ドラゴンだ。

 俺は龍眼への魔力を切り、すぐに叫んだ。

「みんな!あれはドラゴンだ!!巨大なドラゴンが、こっちへ向かってきてる!!!!」
「なんだって!!?」
「まずい、早く避難しろ!!君はルシフェルさんのとこの子だね?急いでこのことを彼に知らせるんだ!!」
「分かりました!!ゴブ!村のみんなを森の中の洞窟へ避難させろ!!」
「ワカッタ!マカセロ!」

 俺はシロと急いで来た道を戻り、ルシフェルにこのことを知らせた。



「分かった!!お前たちは急いで洞窟へ避難しろ!俺が奴を倒す!」

 ルシフェルはすぐに、戦いの準備を始めた。

「ダメよ!あなたを置いて逃げることなんてできない!私も戦うわ!」
「そうよ!私たちだって戦える!」

 アインスとメイアは、避難せずに一緒に戦うと言っている。

「何を馬鹿なことを言ってるんだ!!お前たちまで居なくなったら、誰がこの子たちのことを守るんだ!!」

 ルシフェルはそれに反対する。

「メイア、アインス。二人は村の人たちを洞窟まで安全に連れて行くのに必要なんだ。それに、俺がいなくなった後で、家族を守って欲しいんだ」

 ルシフェルがそう言うと、二人は泣き出した。

「リュウ、これからもっと大変なことがあると思うが、お前なら大丈夫だ。家族を任せたぞ」
「サティファ、悪いが契約は終了だ。一応、これからの生活費と住む場所は確保してある」
「いいえ、必要ありません。ルシフェル様はおっしゃいました。私たちはもう、家族なのだと。ならば私は、家族を守ります」

 サティファは、力強い瞳をルシフェルに向けて言った。

「…そうだな。わかった、家族を頼む」

 ルシフェルは苦笑いしていた。

 もう…会えないのだろうか。
 こんなに家族のことを思っている父親に会えなくなるのだろうか…。

「リュウ!最後に言っておくことがいくつかある!」

 俺が暗い表情をしていると、ルシフェルが大声で言った。
 最後なんて…言わないでくれよ。

「お前は俺によく似た子だ!きっと好色な男になるだろう!だがな、忘れるんじゃねぇぞ!お前を本気で愛してくれる人を見つけたら、その気持ちに応えてやるのが漢ってもんだ!人の乙女心を弄ぶクズにはなるなよ!」
「…わかった」
「リュウ!漢は心にいつも剣を持たなきゃならねぇ!どんなことにも諦めずに立ち向かう、決して折れない剣だ!」
「…うん」

 最後の最後で臭いこと言いやがって…。
 やっぱ、ルシフェルは最高の父親だよ。

「それと、これが本当に伝えたいことだ」

 ルシフェルはそう言い、力強い瞳を向けた。

「人を簡単に信じるな。だが、人の可能性(・・・)は信じろ。人はな、こんな怪物どもがいる世界で生き残ってきたんだ。スゲェ可能性を秘めてるんだよ。神をも超える力を持つ可能性が…な」

 人を信じるな。だが、人の可能性は信じろ…か。
 難しい言葉だな…。

「だけどな、自分を本気で信じてくれる奴は、本気で信じろよ。自分の背中を任せられる奴に、お前も出会えるはずだ」

 ルシフェルはチラッとアインスとメイアを見た。
 そして、ルシフェルは笑って、俺の頭をグシャグシャとではなく、優しく、そっと撫でた。

「俺はお前に全てを教えれたわけじゃねぇが、半分は教えた。残りの半分は自分で見つけろ」

 ルシフェルは寂しそうな顔をした。
 …そんな顔をしないでくれ。
 ……そんなことを言わないでくれ。

「メイア!アインス!子供達を頼む!メイシェル!エレナ!喧嘩ばかりして、母さんたちを困らせるんじゃねぇぞ!」

 ルシフェルはメイシェルとエレナを抱き上げて頬ずりした。
 メイアとアインスは泣き止み、力強く頷いた。

「……シロ、リュウのことが好きか?」
「……うん、大好き!ルシフェルさん、必ず帰ってきてね…」

 ルシフェルはその言葉に満足そうに頷き、首を振った。

「いや、帰ってこれない。変な希望を持たせるのは嫌だから言っておく。俺は、帰ってこれない」

 その言葉に誰もが沈痛な表情をした。

「だからな、シロ。俺がいなくなったら、俺の代わりにリュウを守ってやってくれ。シロになら、リュウを任せられる」

 おいおい、どさくさに紛れて何言ってんだよ。
 なにニヤニヤしてんだよ……。

「それじゃ、あまり時間もないな。ドラゴンはもうそこまで来てるはずだ。早く避難してくれ。みんな……元気でな」

 ルシフェルはそう言って、家を飛び出した。
 ……俺は見た。
 ルシフェルは最後に、涙を流していた…。






 ーーーー







「みんな急いで!!森の中にある洞窟なら、安全だから!!」
「ミンナ!コッチ!コッチ、アンゼン!」

 村人たちは列を作り、森の中にある洞窟を目指して歩いていた。
 メイアとアインス、ゴブと他の魔物たちは村人の護衛と道案内をしている。

 洞窟へはだいたい30分で着くが、この調子だと、それ以上はかかりそうだ。

 ドラゴンはすでに村へと降り立ち、村の方からは煙が上がっている。

「リュウ……」

 俺が暗い表情で村の方を見ていると、シロが心配そうに俺の手を握った。

「大丈夫だ…。早く行こう」

 父さん……頼んだよ。

 村人たちはみんな、暗い表情をしている。

 ルシフェルが戦っているのに、自分たちが逃げるのはおかしいと言う人もいた。
 それだけ、皆ルシフェルを信頼していたのだろう。

 しばらく歩いていると、開けた場所に出た。
 俺がいつもシロと一緒に遊んだりするところだ。
 ゴブや他の魔物たちと出会った場所でもある。

 そんな思い出の場所には、怪しい男が立っていた。

 男が身につけているのは、下の方がところどころ裂けている黒い服。
 男の顔は、色白で綺麗に整った顔をしているが、禍々しい雰囲気だ。
 背中からはドラゴンのような翼が生えている。

 男の雰囲気を一言で表すなら、魔王だ。

「待ちわびたぞ、光の力を持つ者よ」

 男は不気味に微笑んで言った。
 光の力を持つ者って、俺のことか?

「あなた誰よ!そこ、どいてくれない?」

 メイアが男に問いかける。
 うちの母さんは本当に怖いもの知らずだな。

「おっと、すまない。名乗り遅れたな。我が名は《バハムート》!!光の力を持つ者よ!貴様にはここで死んでもらう!!」

 バハムートだと!?
 冥王竜 バハムートがなぜここに?
 もしかして、闇の龍神が俺の存在に気がついたのか?

「いきなり何言い出すのよ!!バハムートって、ドラゴンのことでしょ!?」

 竜王も人間の姿になると言ってたな…。
 なるほど、確かに人間よりも魔族に近い姿をしているな。
 魔族、妖精種しか見たことないけど…。

「メイア母さん、ここは先に行ってくれないかな?あの人、俺に用があるみたい」

 俺がそう言うと、メイアは意味がわからない、という顔をしていた。

「急いで!!あいつがその気になれば、みんな殺されるかも知れない!!」

 俺の本能が、あいつはヤバイ、ヤバすぎる!!と告げている。

「俺に用があるんだろ!だったら、ここにいる人たちを通してはくれないか!!」
「ふむ…よかろう。覚悟はできているみたいだな」

 許可は下りた。
 正直、勝てる気がしない。
 俺はここで死ぬかもしれないな…。

「リュウ!何言ってるの!?あなたを置いて行けるわけないじゃない!!」
「そうよ!どうして親が子供を置いて逃げることができるのよ!!」

 メイアもアインスも、俺を心配してくれている。
 二人の額には、冷や汗がびっしりと張り付いている。
 バハムートのヤバさが、二人にもわかるのだろう。

「いいから早く!!みんなを連れて洞窟へ!!!!」

 俺の必死な表情を見て、ただ事ではないとわかったのだろう。
 村人たちを森の奥へと進ませて行った。

「リュウ……母さんたちも戦うわよ。あなたを置いていけない」
「ありがとう…でも、行ってくれないかな?母さんたちに、もしものことがあったら、父さんになんて言えばいいか…」

 冥王竜 バハムート。
 こいつの強さは女神から聞いている。
 俺はおそらく、こいつを倒すことはできない。
 母さんたちと戦っても、結局負けるだろう。

「お願い…、必ず戻るからさ。父さんが言ったんだ。決して諦めてはいけないって。だから俺は勝つよ。勝って母さんたちのところへ戻る。でも、もし死んじゃっても、自分を責めないでね?俺が決めたことなんだからさ。ちょっとは俺を信じてよ」

 メイアは押し黙ってしまった。
 アインスは泣きそうな顔をしている。

「…リュウ、帰ってくるのよ?待ってるから」

 アインスはそう言って、メイアと妹たちを連れて、森の奥へと入って行った。

「リュウお坊ちゃん、あなたが何を背負っているのかはわかりませんが、必ず勝ってくださいね。ご武運を…」
「リュウ、絶対だよ?絶対に帰ってきてね!」

 サティファとシロも、森の奥へと入って行った。

「はぁ…。嘘…言っちゃったな」

 勝てるわけがない。
 戻れるわけがない。
 なのに…俺は…。

「良い選択だ。その勇気を認め、名乗ることを許そう」

 チッ…。
 なんでこいつはこんなに偉そうなんだよ。
 だいたい、テメェらのせいでこんな事になったんだろうが。

「俺の名前はリュウ・ルーク!!ルシフェル・ルークとメイア・ルークの息子にして、光の龍神の力を受け継ぐものだ!!!!」

 こんな風でいいのか?
 名乗ったことなんてないから、イマイチ自信がない。

「俺は貴様を倒し!!必ずや!闇の龍神を討ち滅ぼす!!!!」

 気合い入れていこう。
 倒すことはできないかもしれないが、やれるだけの事はやる!

「よかろう!!我が名は冥王竜、バハムート!!!光の力を受け継ぎし者、リュウ・ルークよ!!かかって来るがいい!!!!」

 俺とバハムートとの死闘が始まった。








 ーーーー







「来い!『龍極剣 オルシオン』!!」

 俺は無詠唱で『奇跡の箱』を呼び出し、『龍牙剣 オルシオン』を取り出す。

「ほう!無詠唱魔術を使うか!!大した奴だ!!!!」

 バハムートは、腰に差してあった禍々しい剣を振り下ろす。
 俺はそれを受け流し、バハムートから距離をとる。

 このままじゃマズイ。
 奴の攻撃はそれほど重くはないが、とにかく速い。
 それに彼は本気を出していないようにも見える。

 俺は魔力切れで動けなくなることを覚悟し、龍眼を開眼させた。

「その眼…、やはり龍眼か。厄介なものを持っているな」

 バハムートはようやく本気を出したようだ。
 彼が地面を一歩蹴っただけで、ものすごい速さで俺に急接近してきた。

 だが、見える。
 龍眼を開眼させたことで、彼のスピードにもついて行ける。

ライジングブラスト』!!!!」

 俺はバハムートに至近距離から渾身の魔術を放った。

 瞬間。
 俺の手から激しい雷が放たれ、一本の光の柱となり、バハムートに直撃した。

 俺はすぐさま距離を取り、自分の目を疑った。

 バハムートは傷一つなく、立っていた。

「フゥ…少し焦ったぞ。龍眼を使っているのなら、どうして我が無傷なのか、分かるだろう?」

 俺は龍眼で、バハムートの思考を読んだ。

 驚いた…化け物かよ。

 どうやら彼には魔法が通用しないらしい。
 だが、バハムートの防御力を上回る魔法を放てたなら、倒せるようだ。

 正直、勝利のビジョンが浮かばない。
 どうやっても、俺は負ける。

「どうした?もう終わりか?ならば、こちらから行くとしよう」

次の瞬間、 バハムートが俺の視界から消えたーー。

















ー天界 夢幻都市 アルデシアー

ここは、天界にある夢幻都市 アルデシア。
あたりは幻想的な景色が広がり、見る者を魅了する。

そんな都市の中心にある、山のように大きな城にいるのは、神々の王ゼウスだ。

彼は《全能神》と呼ばれ、その名の通り、あらゆることを知り尽くし、どんなことも行える力を持つ全知全能の神だ。

だが、彼にも例外はある。
龍神と同等の力を持つ彼だが、龍神を倒せるか?と聞かれたら、首を横に振る。

そんな彼が住む城の名は、《無敵城 アスモデウス》。
この山のように大きな城の中では、他にも多くの神々がいる。

城の廊下を急ぎ足で歩く彼女も神の一人。
《天界の守護者 アテナ》。神々の中でも、最も美しく、気高い女性。

碧色の髪から覗くルビーのように赤い瞳。
誰もが羨む美しさだ。

彼女は、ある大きな扉の前で立ち止まり、深呼吸をした。

「失礼します。アテナ、ただいま戻りました」

アテナは勢いよく扉を開け、中に入る。
そこには多くの神が椅子に座り、みな険しい表情をしている。

その中で、ひときわ大きな玉座に座る男。全能神 ゼウスだ。

「よく戻ったな。ではさっそく聞かせてくれ」

彼は落ち着いた声で言った。
その言葉にアテナは膝をつき、頭を垂れた。

「はっ!人間界で感じた光の龍神の気配は、間違いありませんでした。光の龍神の力を受け継ぐものが現れました」

光の龍神の気配が人間界からしたということで、彼女はそれを確かめるべく人間界へと赴いていた。

「やはりか…。して、その力はどれくらいだ?」

ゼウスは、ややため息交じりで聞いた。

「姿は幼く、性別は男性。それと、魔力の総量が異常なまでにあります。その大きさは、どの神々にも劣らないかと…」

彼女は自分の目で確かめたが、いくら龍神の力を受け継いでいたとしても、普通では考えられないほどの魔力量だった。

「ふむ…それほどまでにか。アテナよ、そなたはどう思う?」

ゼウスの急な問い掛け。
おそらく彼は、その少年をどうするかと聞いているのだろう。

「正直に申し上げますと、このままでは危険です。ですが、彼の目的は、あくまでも闇の龍神だと思います。このままにしておいて、彼と戦わせるのが良いかと」

このまま野放しにするのも危険だが、闇の龍神と戦わせて、どちらか片方が弱ったところを総攻撃すれば、勝機はあると思う。

「私も同意見です。このまま潰し合わせてればよろしいかと」

口を挟んだのは、椅子に座って話を聞いていた1人、《大天使 ガブリエル》だ。
彼は落ち着いた雰囲気のする男性で、とても賢い。
青い髪に赤い瞳、いかにも頭の切れそうな感じだ。

「そうか…。その少年の名はなんという?」
「……リュウ・ルークです」

アテナがその名を口にした瞬間、周囲がざわめき始めた。
皆、ルークの名には険悪感を覚えている。

「ルーク……ルシファーの息子か。あの者には、本当に手を焼く…」

ゼウスもまた、ルシファーの名には、嫌な思い出がある。

「これもまた、運命なのでしょうか…」

だが、アテナは違った。
ルシファーには、いつも救われていた。

「まぁ良い…。それで、闇の龍神の動きはどうだ?」

それに答えたのは、ガブリエルの隣に座っている天使だ。

「闇の龍神の復活が近いからか、他の竜王の動きも怪しいですね。それに、冥王竜と死竜王は光の龍神の気配を感じ取っています。奴らが動くのも、時間の問題かと…」

そう言うのは、燃えるような赤い髪に黒い瞳を持つ、《大天使 ミカエル》だ。
彼もまた、魔界へと赴き、その様子を探ってきた。

「そうか…。ならば、お手並み拝見といこうではないか。もし其奴(そやつ)が勝つことができたのなら、またどうするかを、改めて考えるとしよう。今回はこれで解散とさせてもらう」

ゼウスはそう言うと部屋から出て行った。
後に残されたものたちは、皆険しい表情をしている。

アテナは部屋から飛び出し、廊下を歩くゼウスへと駆け寄った。

「ゼウス様!ルシファーは、何を考えていると思われますか?」

《堕天使 ルシファー》。
かつては、天使種の最高位の階級の《熾天使》であったが、神々の考えを否定した男。

【人類種を始めとした人間界にいる種族は、神をも超える力を秘めている】

彼はゼウスや他の神々にそう言い放ち、人間界へとその身を移した。
今は人間界の女性と結婚し、ルーク家の当主として生きているはずだ。

彼は他の天使などに優しく接していて、みんなの憧れだった。
アテナも、よく彼に助けられた。

「…知らぬ。愚か者の考えなど、理解できぬ」

ゼウスは一言そう言い放ち、踵を返して行ってしまった。

アテナは、拳を強く握った。
悔しい。彼に助けられても、彼を助けることはできないのか…。

アテナは、人間界で笑って過ごすルシファーを見て、羨ましく思った。
彼の息子、リュウ・ルークは、本当に彼によく似ていた。

彼女は思う。本当に彼は間違っているのだろうか…と。
彼はその手で幸せを掴み取った。それは間違っているのだろうか…。

彼女は答えを出せない。
そして結論づける。答えなど無いのだと。



ーーーー



「んー!今日もいい天気だ~!シロ~、はやく行こうぜー!」

俺はもう7歳になり、かなり多くの魔法や戦術、剣術を覚えた。
まぁ、実戦で使えるかはわからんがな…。

シロの5歳の誕生日パーティーに俺は魔法で丁寧に作った、綺麗な蝶の髪飾りをプレゼントした。
シロは気に入ってくれたらしく、毎日のようにつけている。

あの時のシロは可愛かったなぁ~。
ピョンピョン飛び跳ねながら、サティファに「見てお母さん!リュウからプレゼントもらったよ!!」って言って見せびらかしていた。

俺もシロも大きくなり、そろそろ学校に通い始めようかという話も出てきている。
この世界での学校は前世と違い、様々な種族やいろんな年代の人が通っているらしい。
ロリっ子やショタっ子もいるし、綺麗なお姉さんやダンディーな男性もいる。

俺とシロは今日も魔法の特訓をするために森へ行く。
ガッチェスからは、まだ連絡は来ない。時間がかかるのだろう。

「待ってよー!リュウ、張り切りすぎだよ!」

シロの成長は、とても凄い。
魔力総量もかなりあるし、魔法だってかなり多く使えるようになった。
俺も少し危機感を覚えるくらいだ。

ついでに言うと、身体(からだ)の方の発育もいい。
胸も少し膨らんできた。
おっと、別に俺はロリコンじゃないぞ?
あくまでも説明だ、説明。

「リュウ、夕飯までには帰ってくるんだぞ!」

後ろからルシフェルの声がする。
うちの妹達も、もうすぐ5歳になる。

だが、今でも俺に甘えてきてくれるから、「お兄ちゃんキモーい」とかは言われない。
もし言われたら、立ち直れないだろうな…。


「ここら辺でいいかなぁ。来い!『禁断(パンドラ)の箱(ボックス)』!『奇跡(ミラクル)の箱(ボックス)』!」


俺が叫ぶと、パンドラとミシェルが出現した。

「ふあぁ~…。おはようリュウ、シロ。今日も魔法の特訓?」
「おはようございますぅ。相変わらず、元気ですねぇ」

最近俺は、パンドラとミシェルも入れて、シロとの魔法の特訓をしている。
最初はちょっとシロも人見知り?してたが、今ではすっかり仲良しだ。

パンドラとミシェルに魔法の使い方などを教えてもらい、どこがダメでどうすればいいかを聞いている。
おかげで、俺もシロもかなり魔法の使い方は上手くなった。

「なぁ、パンドラ。この魔法なんだけど、どの魔法と組み合わせて使ったらいいと思う?」
「あぁ、これね。これとこれを組み合わせて交互に使ったら、隙も少なくなるわ!」

俺がパンドラと話していると、決まってシロとミシェルがつまらなそうな顔をする。

「あの二人、仲が良いですねぇ。私もご主人様とイチャイチャしたいですぅ」
「え!?だ、ダメ!」

ミシェルはつまらなさそうにため息をつき、シロは頬を膨らませる。
おやおや、嫉妬かい?可愛いねぇ~。

「!!」

なんだ?
なんか今、誰かに見られていた気がしたんだが…。
…誰かいるのか?魔物かもしれない。

「リュウ、どうしたの?」
「静かに…。何かいる…」

シロは気づいてないようだ。
だが、勘違いじゃないはずだ。
……確かに何かいる。

「っ!パンドラちゃん!」

ミシェルも気配を感じるようだ。

「ええ…。魔物ね、かなりの数だわ。囲まれてる……」

やはり魔物か…。
囲まれてるのか。
さて、どうするかな…。

「シロ、俺の後ろでカバーに入ってくれ。パンドラとミシェルはシロを守ってくれ」

俺は小声で指示をする。
敵の姿は見えないが、かなりの数がいるのはわかる。
どうしてこんなところに……。

「まず俺が広範囲魔術で攻撃し、敵の姿を確認する。敵が確認でき次第、戦闘を開始する。いいな」

そう言って、俺は手に魔力を込めた。
使う魔法は風魔術の『ウインドスラッシャー』。
前方広範囲に風の刃を飛ばす魔法だ。

それが魔法を放とうと、手を前に突き出した時だった。
木々の間から、魔物が飛び出してきた!

しまった!先手を取られたか!?
俺は即座に魔法を放とうとして、動きを止めた。

なぜなら、目の前にいる魔物は地面に突っ伏して、土下座に近い格好をしていたからだ。

「オ、オネガイ、シマス……。ドウカ、コロサナイデ‥クダ、サイ」

この魔物は見たことがある。
赤茶けた帽子に緑色の肌。
身長は俺とそんなに変わらない。

………ゴブリンだ。

ゴブリンって、喋れたんだな……。

目の前のゴブリンがそう言うと、他の魔物達も出てきた。
どうやら全員、戦う意思はないようだ。
全員、怯えた表情をしている。

魔物はゴブリンだけじゃなく、虎のような魔物や蛇のような魔物、いろいろな奴らがいる。

「オレタチ、ココカラ、トオクノトコ、スンデタ。デモ、ワルイリュウガキテ、オイダサレタ。オレタチアルイタ。トオクトオクノトコ、イコウトシタ。デモ、モウムリ。ミンナ、ツカレタ。ハラヘッタ。チイサイヤツラニモ、ナニモタベサセテ、アゲラレナイ。コノママジャ、ミンナ、シヌ」

聞き取りにくいな…。
まぁ、それも文化の違いとかそんなんだろう。

「リュウ!こいつらのいうことに耳を貸してはダメ!こいつらは魔物なのよ!」

パンドラは意味がわからないという表情で叫んでいる。
俺もわからない。

「オネガイシマス!セメテ、チイサイヤツラダケデモ!」

でも、何だろう…。
こいつらが生きるのに必死だってのは伝わってくる。
生きようとしているのに、魔物だからといって簡単に殺せるだろうか…。

襲ってきたなら話は別だが、こいつらは攻撃してこない。
むしろ、子供だけでもいいから助けて欲しいと必死になっている。

「リュウ……。なんだか可哀想だよ…」

シロも可哀想だと思っているのだろう。
ここで殺すことはできるが、それでいいのか?いいわけがない。

「そうだな…。パンドラ!こいつらは俺たちを死に物狂いで襲えばいいものを、わざわざ命乞いしてる。お前の言う通り信用はできないが、殺す必要もない。俺は話だけでも聞こうと思う。それでも反対か?」

パンドラは黙って首を横に振った。
だが、警戒は怠っていない。俺もその方が安心して話せる。

「なぁ、話してくれないか?何があったのかを…」

俺は話を聞くことにした。

ーーーー


言葉は聞き取りづらかったが、内容は理解できた。

要約すると、この魔物の大群は、ここから北にある山に住んでいて、木の実などを食べたりして過ごしていたらしい。
そこに、凶悪なドラゴンがやってきたらしく、山を荒らし、そこに住んでいた魔物たちを襲ったらしい。
それに恐れた魔物たちは、安全な場所を探すために旅に出たようだ。
だが、そう簡単に食べるものも見つからず、見つかったとしても、この数の魔物が腹一杯食べれるようではないようだ。
もうダメだと思った時、俺たちを見つけたようだ。
襲おうとした魔物もいたみたいだが、すぐに俺たちが気づいたため、リーダー格のゴブリンが戦闘になると踏んだようだ。
体力もない自分たちに勝ち目があるはずもなく、命乞いをしたようだ。

「オネガイシマス…タスケテクダサイ」

正直言って、助けるのは難しい。
魔物は敵だと考えるのが普通だし、こいつらを助けることが正しいとも限らない。

仮に、ここで俺が見逃したとしても、定期的に魔物狩りを行っているのだから、いつかは見つかって殺されるだろう。

俺は『龍眼』を使った。
最近気付いたことなのだが、龍眼は遠くのものを見たりするだけではなく、思考も読めるようだ。

相手の考えていることを見ることができるので、相手がどんな攻撃をしてくるかもわかるから、戦闘ではかなり役に立つ。
龍眼は他にも能力があるらしいが、まだ全部が分かったわけじゃない。
そこらへんのことはこれから調べて行くつもりだ。

龍眼で確認したところ、ゴブリンは嘘をついているわけではなく、騙そうとしているわけではないようだ。

「はぁ…。わかった、一応父さんに頼んでみよう。交渉次第では、ここに住むのを許してもらえるはずだ。だが、あまり期待はしないでくれ」

俺はルシフェルを呼びに帰った。


ーーーーー


ルシフェルに事情を話すと、すぐに森へと出かけてくれた。

「むぅ…、魔物の命乞いは初めてではないが、襲ってこなかったのは初めてだな」

俺から話を聞いて、ルシフェルは、訝しげに言った。

「父さん、どうにかして助けてあげられないでしょうか…」
「ルシフェルさん、お願い!この子たちを助けてあげて!」

俺とシロが必死に頼むと、ルシフェルは仕方のなさそうな顔をした。

「わかった…。とりあえず、村の人たちと話し合おう。心配いらない、俺がなんとかするから」

ルシフェルはそう言って、リーダー格のゴブリンに言った。

「お前がリーダーだな?怖いとは思うが、俺と一緒に来てもらう。村の人たちに、ちゃんと自分たちが脅威ではないことを話すんだ。悪い人たちじゃないから、きっと分かってくれるはずだ」
「ワカッタ。オレ、イク。ミンナニ、ハナス。オレタチ、ワルイヤツ、チガウッテ」





その夜、村では大規模な集会があった。
議題は、『魔物との共存』についてだ。


「ふざけるな!そいつらがもし襲ってきたら、どうするつもりだ!?」
「その時は俺がこの村の長として、責任を持って始末する。そのあとで、俺は自分の過ちを認めよう」

村の住人たちは皆、魔物たちに恐怖している。
ルシフェルは、この魔物たちを恐れる必要はないと言うことを説明している。

「それに、そいつらと共存して、俺たちになんの得があるんだ?ただ黙って怯えてろって言うのか?」
「そんなことは言わない、こいつらにもきちんと働いてもらう。例えば、今俺たちは定期的に魔物狩りをしているだろ?それをこいつらにも手伝わせる。見張りもだ。そうすれば、俺たちの負担も減る」

ルシフェルは、村人達の質問をちゃんと聞いて、それぞれが納得できることを言う。

「オレタチ、キョウリョクスル!ムラノヒト、ゼッタイニ、オソワナイ!」
「魔物の言うことが信じられるか!」

このまま話してたんじゃ、きりがないな。
俺が代わりに話すか…。

「魔物の言うことが信じられない。気持ちは分かります。ですが、魔物たちも同じはずです。目の前でこうやって自分たちを殺そうと言っている人たちを見て、魔物も俺たちを信じることができるでしょうか?殺られる前に殺ろうと考えるのではないでしょうか?」
「子供に何がわかるって言うんだ!」

おぉう…。
やはり混乱して、感情的になっているのだろうな。
見た目は子供だが、頭脳は大人なんだぜ?

「子供に何がわかるかって?じゃあ、逆に聞きますけど、おじさんに何がわかるんですか?父さんは皆さんにわかってもらおうと話しています。このゴブリンもそうです。俺からしても、悪い話には思えませんがね」

ルシフェルが言うには、この魔物たちと共存することで、利益を得られるという。
それを分かろうともせずに否定するのはおかしいんじゃないか?

「そうね。少し怖いけど、このゴブリンさんも悪い魔物には思えないわ。それに、魔物と共存している国もあるって話も聞いたことがあるし、私は賛成だわ」

おばあさんもフォローしてくれている。
村人の大半の人は分かってくれたらしく、賛成意見の人が出てきた。

だが、このおじさんは反対意見のようだ。
いつ裏切って襲ってくるかもわからない魔物が近くにいるのは、やはり恐ろしいようだ。

「リュウの言う通りだ。もし魔物が俺たちに恐れて村を襲ったら、それこそ悲惨な事になりかねない。それにこいつは話のわかる奴だ。こいつにしばらく、魔物たちの動きを見張って貰えばいい」

おじさんは、少し落ち着いてきたらしく、考えるように唸っている。
もう一押しだな。

「そうよ!それにこの魔物たちは、生きるのに必死なのよ!それなのに私たちを襲ってこないんだから、信用する価値はあると思うわ!」

アインスも説得してくれている。
その言葉に周囲の人たちも頷いている。

「……わかった、俺も少し頭を冷やそう。たしかに、共存することは、悪いことばかりじゃないな」

どうやら分かってくれたらしい。
それにしても、案外あっさりと魔物たちを助けることができたな。
この世界じゃ案外、珍しいことじゃないのかもしれない。

「アリガトウ、ゴザイマス!オレタチ、ガンバル!」
「みんな分かってくれたようで助かった。それじゃ、お前は今日から『ゴブ』だ!これから一緒に仕事をするんだ。名前がないと不便だからな!」


ーーーー


こうして、村人と魔物たちとの共存関係が成立した。
いや~、一時はどうなることかと思ったけど、無事に解決できて良かった。
シロたちにカッコイイとこ見せれたかな?






















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 ルシフェルとの稽古を終え、俺は森へと出かけた。

「この辺りでいいかな…」

 俺はさっそく、昨日女神に教わった魔法を使ってみることにした。
 確かこうだった気が…。

『禁断の箱』!!

 俺がそう言うと、目の前に禍々しいオーラをまとった黒い箱が出てきた。

 おぉう…。
 これ、開けちゃいけない気がする…。

『奇跡の箱』!!

 今度は、神々しい光をまとった白い箱が出てきた。

 うん、こっちは大丈夫そうだな。
 まぁでも、いずれ開けなきゃいけないものだ。
 黒いのも開けるか…。

 そう思い、俺は黒い箱の蓋を開けた。

 その途端、俺は箱に喰われた……。




 ーーーーー






「痛っ!なんなんだぁ?…うお!」

 目が覚めると、黒いワンピースを着た女の子が、俺の顔を覗き込んでいた。

「ねぇ、欲しいものを言ってくれないと、持ってこれないんだけど?」

 少女はなにやら不機嫌そうだ。

「え…と。君は誰?ここはどこ?」

 俺がそう言うと、少女は、はぁ?という顔をした。

「あんた、何も知らないで私を呼び出したわけ?呆れた…」

 なんで呆れられてんの?俺…。

「いいわ!教えてあげる!私はパンドラ、ここの箱の妖精よ!」

 え?妖精?
 あぁ、そうか。妖精種ね。

「あなたがこの箱を開けるときに取り出したいものを言えば、私があなたに渡してあげるの。その様子じゃ、この箱に何が入っているのかもわからないでしょ?ついてきて」

 パンドラはそう言って、奥の方へと歩き出した。


「いい?あれは300年前に作られた《魔断剣 カイザーエッジ》よ。魔法を斬ることのできる剣なんだけど、使うとかなりの魔力を吸い取られる呪われた剣なの」

「それで、あれは《魔神鎧 ディクロアイト》。かなり頑丈な鎧だけど、あれもの呪われていて、鎧に意思があるの。ようするに、意見が一致しなければ装備できないってこと」

 パンドラは、アレコレと指差しながら詳しく教えてくれる。
 その顔は、どことなくイキイキしている気がする。

「なぁ~、なんでお前はそんなに楽しそうなんだ?」
「な!?べ、別に久しぶりのお客さんだから嬉しいってわけじゃないんだからね!!」

 あぁ、嬉しかったのね。
 これがツンデレというやつか。
 生ツンデレ、いただきました。

「いい?私の箱は主に、《呪い系》の物を扱っているの。それ以外のものを入れようとしたら、腕ごと喰い千切ってやるわ!!」

 ひえぇ~……。
 見かけによらず、怖いこと言うんだなぁ~……。

「あなた、もう一つの箱の方にはまだ行ってないんでしょ?だったら、そっちの方も行っておいたほうがいいわ」

 もう一つの箱かぁ…。
 正直、また喰われるんじゃないかと思ってしまう……。

「パンドラってさぁ、外に出れないの?そしたら、ここで寂しく過ごすこともないだろ?」
「だーかーらー!別に寂しくないって言ってんでしょ!出れることは出れるけど、外に出てもいいことなんてないし…」

 出れるのか!
 だったら、パンドラにもついてきてもらおう!

「じゃあさ!もう一つの箱に一緒に来てくれないか?なぁ~、頼むよ!な?」

 俺が必死に頼むと、パンドラは渋々といった感じで了承してくれた。

 俺はパンドラの箱から外へ出た。





 ーーーーーーー





「んー!久しぶりの外はキツイわぁ~……」

 俺が外へ出ると、箱がそのままパンドラになった。

「それじゃ、早く行くわよ!私はついイライラして食べちゃったけど、この子は違うわ!普通に入れば普通に入れてくれると思うわ!」
「おい!いくらイライラしたからって、喰っていいいわけないだろ!?怖かったんだぞ!!」

 俺は白い箱を開けて、恐る恐る中へ入った。
 喰われはしなかったけど、あれはもうトラウマになりそうだ……。




 ーーーーー




「おわぁ!!」

 目を覚ますと、目の前に白いワンピースを着た女の子が、俺の顔を覗き込んでいた。

 またかよ!
 なんでこんな登場の仕方ばっかすんだよ!
 心臓に悪いわ!!

「うわぁい!久しぶりのお客さんですぅ!あれ?なんでパンドラちゃんもいるんですかぁ?」
「久しぶりね、ミシェル!元気そうでよかったわ!こいつが私たちの新しい持ち主、リュウよ!」

 ミシェルと呼ばれた少女は、太陽のような柔らかい笑みをしている。
 よかった…、パンドラみたいな子だったらどうしようかと思ったぜ……。

「うわぁい!新しいご主人様ですぅ!私はミシェルって言いますぅ。よろしくお願いしますねぇ?ご主人様ぁ!」

 ご主人様って……。
 まぁ、本人の自由だからいいけどさ…。

「こいつ、私たちのこと何も知らないのよ…。この箱に何が入っているのか、教えてあげてくれない?」
「わかりましたぁ!こっちですよぉ~。ついてきてくださいねぇ」

 俺とパンドラはミシェルに案内されて、奥へと歩き出した。

「あれはぁ、500年前に作られた《幻想鎧 ファンタズマ》ですぅ!装備した人の秘められた力を解放してくれるんですよぉ~。でもぉ、魔力が大きな人じゃないと、装備できないんですよぉ…」

「あっちにあるのが、《幻夢盾 ファンタジスタ》ですぅ。どんな災厄も払いのける効果があるんですよぉ?」

「そしてあれがぁ、私の一番のお気に入りの《光の指輪》ですぅ!これを付けているとぉ、ピンチになったときに助けてくれるんですぅ!」
「へぇ~……。これ、俺がつけててもいいか?」

 何かあってからじゃ遅いからな……。

「もちろんですよぉ!はい、大切にしてくださいねぇ?」

 俺は光の指輪をはめた。
 金色に輝く指輪からは、不思議な力を感じる。



「それじゃ、何かあったら言いなさいよね!」
「いつでも呼んでくださいねぇ?待ってますからぁ」

 俺は二人を戻し、家へ帰ることにした。






 ーーーー





 家へ帰ると、門の前にメイアがいた。

「リュウ、あなた今どこへ行ってたの?」

 なんだか怒っているようにも思える。

「どこって…、森です」

 俺なんかやったかなぁ?……
 今日やったことといえば、朝起きて階段を降りてたら、寝ぼけて足を滑らせて、そのまま転がり落ちてサティファの胸に飛び込んだくらいだ。
 あれは事故だしなぁ…。
 いい感触だったけど…。

「あなた、今日がなんの日かわからない?」

 今日?
 はて、なんの日だったか?

「そう、知らないならいいわ」

 メイアはそう言って、家の方へと目配せした。
 そこにはルシフェルがいて、メイアに頷き返しているのが見えた。

「いいわ、中に入りましょ」

 メイアはそう言って、俺に家の中に入るように促した。
 俺はドアを開け、中に入ろうとしたときだった。

 ーーーパンッ!!

『リュウ!!誕生日、おめでとー!!』

 何かの爆裂音とともに、大きな声が聞こえてきた。

 は?え!?
 俺の誕生日…だと!?

「リュウ、さっきはごめんね…。まだちょっと準備が終わってなかったから、足止めしたのよ。あなたを怒ったわけじゃないわ」

 メイアが申し訳なさそうに言った。

 この世界では、年の節目に盛大な誕生日パーティーを開催する習慣があるらしい。
 5歳,10歳,15歳になると、盛大なパーティーを開くらしい。
 ちなみに15歳が成人で、結婚は12歳からだそうだ。
 R15はあっても、R18は無いようだ。

 そっか…、今日は俺の誕生日だったのか……。
 なんか、こんなに盛大に祝われるのは初めてだから、とても嬉しいな。

「ありがとう…ございます。とても‥うれじいですっ!!」

 涙が溢れ出してくる。
 前世での誕生日パーティーなんて、特に何もしなかった気がする。
 こんなに誰かに祝われたのは初めてだ。

「おいおい。泣くことじゃねぇだろ」

 ルシフェルは笑いながら、俺の頭をワシャワシャと撫でた。

「リュ、リュウ!?どうしたの!?」

 シロもオロオロしている。

「にーたん、どこかいたいの?」
「にぃ、だいじょうぶ?」

 妹たちも心配してくれている。

「もう!メイアのあれ、演技に見えなかったわよ!」
「え!?私、そんなに怖かった!?」

 アインスとメイアも、突然泣き出した俺への対応に困っている。

「まぁ、リュウお坊ちゃんたら。とても可愛らしいですねぇ。そうだ!みなさんからリュウお坊ちゃんにプレゼントがあるんですよ?私からはコレです」

 サティファから渡されたのは、小さな木箱だった。

「開けてみてもいいですか?」
「もちろんです。どうぞ」

 俺は木箱を開けた。
 中には小さな白い布が、綺麗に折りたたまれていた。
 それが何か、取り出してみてわかった。

 …………これ、パンツだ。
 小さな可愛らしいパンツが入っていた。

 純白のパンツについた小さな可愛らしいリボン。
 なんでこんな物が……。

「あー!それ、シロのパンツだよ!!お母さん!なんでリュウにあげるの!?」

 やっぱりコレ、シロのだったか…。

「ハハハ、ありがとうございます。大事にしますね」
「大事にしなくていいよ~……」

 シロの顔は耳まで真っ赤だ。
 可愛いなぁ。

「サティファらしいプレゼントだな。リュウ!俺からはコレだ!」

 ルシフェルが前に突き出してきたのは、黒い靴だった。

「お前に似合うと思ったんだ。これはな、ただの靴じゃないんだぜ?魔力を送ると、風のように速く走ることができるんだ」

 マジックアイテムなのか…。

「父さん、ありがとう!大切に使うよ」

 俺がそう言うと、ルシフェルは満足そうに笑った。

「私からはコレよ。コレはね、あなたの曾お祖父さんが倒したドラゴンから取れた魔法石なの」

 メイアはそう言って、碧色の石がはめ込まれたペンダントを俺の首にかけた。

「私のお祖父さんは有名な冒険者でね。いろいろな魔物を倒してまわっていたのよ」

 そうなのか…。
 だからメイアは、俺を冒険者にしようとしていたのか。

「ありがとう、メイア母さん!大事にするよ!」

 メイアは、うんうん、と頷いていた。

「私はコレをあげるわ。私の師匠からもらったものなの」

 アインスはそう言って、一本の剣を差し出した。

「え?でもコレって…アインス母さんがいつも持っている剣だよね?」
「いいのよ。私が持っているよりも、あなたに持っていて欲しいの」

 メイアの愛剣は《魔法剣(マジックソード)》で、魔法剣士が愛用する系統の武器だ。
 魔法の威力を高めたりと、様々な効果を発揮し、戦闘でとても使い勝手のいい武器だ。

「ありがとう!俺、絶対にアインス母さんみたいな剣士になるよ!」
「今はまだ大きく感じるかもしれないけど、将来、きっとあなたの役に立つはずよ!」

 俺はアインスとは血は繋がってないけど、本当のお母さんのように思っている。
 アインスはとてもいいお母さんだ。
 もちろん、メイアもだけどね!

「え…とね。リュウ!これ!」

 おぉ?
 シロもくれるのか?
 なんだろうなぁ~。

「あれ?シロ…これって、もしかして魔法石か?高かったんじゃないのか?」

 小さな紙袋の中には、青色の魔法石がはめ込まれたブレスレットが入っていた。

「リュウお坊ちゃん、それはですね。シロが私たちのことを一生懸命に手伝ってくれた代わりに買ってあげたものなんですよ?あぁ、大好きな人のために働く乙女…。なんて素敵なんでしょうか…」

 そっか、シロが俺のために頑張ってくれたのか…。
 なんか、ありがたいなぁ。

「ありがとな、シロ!とても素敵だよ!」

 俺が笑顔でそう言うと、シロはサティファの後ろに隠れてしまった。
 恥ずかしがり屋さんだなぁ。

「にーたん、はいこれ!」
「にぃ、どうぞ!」

 なんだ?
 メイシェルとエレナも、プレゼントをくれるのか?

 二人から渡されたものは、俺とシロとメイシェルとエレナが、仲良く遊んでいる絵だった。

「ありがとなぁ。にぃちゃん、大事にするよ」

 あぁ、幸せだなぁ。
 この幸せが、もっと長く続けばいいのにな。





 ーーーー






「そうですか…。あなたがこの世界に来て、もう5年も経つんんですね~…」

 女神に今日のことを話した。

 そうだな、もう5年も経つんだな。
 時間が経つのが早く感じる。

「それじゃ、私からもあなたに渡すものがあります」

 女神はそう言って、俺の額に手を当てた。

 なんだろう…。
 どんな魔法を教えてくれるのだろうか。

「この魔法は、いわゆる切り札です。いざという時に、一度(・・)だけ、使ってください」

 女神の手が淡く光り、不思議な感覚が残る。

「わかりました。闇の龍神にでも叩き込んでやりますよ」

 俺がそう言うと、女神は少し悲しそうな顔をした。









 この時、俺は気が付いていなかった。
 なぜ女神が悲しそうな顔をしたのかを…。

 そして、闇の龍神もまた、動き出していることにーーー。














 ー第1章誕生編終了ー

 ~第2章竜王編へ続く~





















 
「今日も1日、お疲れ様です。どうでしたか?魔物との初めての戦闘は」

俺は今日も女神と夢の中でこれからのことを話したり、この世界のことを勉強したりする。

「そうですね…少し不思議な感じです。生き物を自分の手で殺したはずなのに、不快感がしない。俺はおかしいんでしょうか?」

俺は今日、魔物と戦い、殺した。
この世界で生きて行くなら当たり前のことだが、少しくらい不快な感じがするもんだと思っていた。

「そこらへんは、人それぞれでしょう。とりあえず、今日あなたは魔物との戦いで勝利しました。勉強した甲斐がありました。この調子でどんどん行きましょう」

人それぞれか…。
俺はそのうち、人も殺すんだろう。その時は、どんな感じなんだろうか。

「今日の戦いを今一度、振り返ってください。あなたは魔法でゴブリンを倒しましたが、あの程度の魔物で魔力を消費してばかりじゃ、いざという時に魔力が切れてしまうこともあります。とういうことで、あなたにはあなた専用の武器(・・)を作ってもらいます」

武器か…。
確かに、大物と戦う時には武器があるのとないのじゃ違うはずだ。

「この世界には、魔法の補助をしてくれるアイテム《魔法石》が存在します。魔法石は、魔物やドラゴンの体内。時には、《迷宮(ダンジョン)》の奥に眠る宝だったりと、数多く存在します。それらを利用した武器もまた、数多く存在しています」

魔法石ねぇ…。
そうだな、集めておいたほうが良さそうだな。

「それで、俺はどんな武器を作ればいいんですか?」
「武器の系統や形状はあなたに任せます。好きな形などを鍛冶屋に言えば作ってくれるはずです。材料となる魔法石なんですが、森の中の洞窟に《龍神の祠》があるはずです。そこにある魔法石を使ってください。きっと、あなたの役に立つはずですからね」

龍神の祠なんてのが近くにあるのか…。
ちょっと興味深いな。

「その龍神の祠というのは、この世界でどれくらいあるんですか?」

女神は、少し考えて言った。

「そうですねぇ…。多くの祠が存在していますが、ほとんどが龍神を祀ったもので本物は少ないですね。ですが、今言った祠は本物です。この先、多くの祠と出会うでしょうが、その違いにも自ずと気づいていくはずです」

偽物なんてあるのか。
でも、本物がこの近くにあるなんて、ちょっと都合が良すぎる話だが、気にすることはないか。

「鍛冶屋って、この村にありましたかね?俺は見たことないんですが…」

俺がそう言うと女神は苦笑いした。

「無理もありません。彼は村の外れの森の中で鍛冶屋をしていますからね。腕はいいのですが、責任感が強くて…。とにかく、村の人に聞けばわかると思いますよ」

なんでそんなとこにあるのかは知らんが、その人なりの理由があるんだろうな。
それよりも、女神はあったことがあるのかな?なんか知り合いっぽいし…。

「わかりました。武器のことは俺が決めるとして、龍神の祠とやらに行って魔法石をとってきます」
「はい。あっ、そうだ。祠には、鍛冶屋の人も一緒に連れて行ってください。彼なら魔法石がどこにあるかわかるはずですから。それでは、頑張ってくださいね」

女神の微笑んだ顔が、次第にぼやけて意識が朦朧としてきた。
今日も頑張っていこう…。

ーーーーーー

俺は目を覚ますと、隣を見た。
そこには、天使のような寝顔をしたシロがいた。
俺はシロを起こさないようにベッドからそっと出た。

支度をして外に出ると、ルシフェルがいた。
彼は俺より先に起きて、剣の素振りをしていた。

「おはよう、父さん。今日もよろしくお願いします」
「あぁ、おはよう。それじゃ、始めるぞ」

ルシフェルとの稽古が終わり、鍛冶屋のいる村の外れへと行くことにした。
シロがついて行きたがっていたが、家で魔法の勉強をしているように言った。
途中で危ない目に会うかもしれないからな。

村の中を歩いて、いろんな人に話を聞いて回った。
話によると、鍛冶屋の主人はガッチェスといい、無口で子供には優しいが、有名な名工のわりに依頼は自分が認めた人からしか受けないらしい。

俺は大丈夫だろうか…。
まぁ、いざとなったら胸の痣(アザ)でも見せるか。

鍛冶屋の場所も聞き、森の中へと入って行った。
相変わらず普通の森だ。魔物の気配はほとんどしない。

しばらく歩いていると、煙のようなものが見えてきた。
その下では、中年のおじさんが真っ赤な鉄を打っていた。
俺はタイミングをつかんで話しかけてみた。

「あの…すみません。あなたがガッチェスさんですか?」

中年のおじさんは振り返り、俺の顔をジロジロと見てきた。

「そうだが…。坊主、何の用でここにきた?」

ガッチェスは訝しげな表情を浮かべている。

「実は、ある人に僕専用の武器を作れと言われまして…。それで、ガッチェスさんと龍神の祠に行き、魔法石をとりに行けと言われて…。もしよかったら、僕と一緒に龍神の祠に行ってくれませんか?」

そう言うとガッチェスは、鉄の塊を脇に置いた。

「誰に言われたかは知らんが、なぜ龍神の祠のことを知っている?その中にある魔法石の事も…」

ガッチェスは俺を睨んでいる。やはり怪しいようだ。
うーむ…。どうしたものか。

「誰に教えてもらったのかは本人が自分のことを言っていいとは言いませんでしたから、言えません」

ガッチェスはさらに険しい表情になる。
やばいな、どう話せばいいかわかんない。

「…まぁいい。お前が何者かは行ってみればわかる。付いて来い」

ガッチェスはそう言うと、立ち上がって森の中へ歩いて行った。
俺もそれに慌てて付いていく。


しばらく歩くと、洞窟に入っていった。
中は冷んやりして気持ちがいい。

歩いて行くと、石碑のようなものと大きな魔方陣が描かれた扉が見えてきた。
ここが龍神の祠…。

「…着いたぞ。魔法石はこの扉の向こうにある。だが、この扉は龍神の力でしか開かない。わかったなら諦めることだ」

ガッチェスは大きな扉を見上げて言った。
龍神の力でしか開けられないのか…。俺にも開けられるかな?

俺は扉に手を置き、力一杯押してみた。
…全くビクともしない。どうやったら開くんだ?
とりあえず、魔方陣みたいなのに魔力を流し込んでみよう。

「…何度言わせればわかる。これはお前じゃ開けられない。もちろん、俺にも…な!?」

重たく閉ざされていた扉が、鈍い音を立てて開いていく。
成功したのか?ガッチェスはただ呆然と扉が開くのを見ていた。

「おまえ…一体何者なんだ?どうして扉が開いたんだ?」

ガッチェスの頭は?でいっぱいだ。

「さぁ、どうしてでしょう?あ、何かありますよ?」

扉の向こうには、祭壇のようなものがあり、周りは青く光る水みたいなのがある場所だ。
神秘的だ…。

俺は祭壇に近づいた。
その上には、紅く光る宝玉のようなものがあった。
これが魔法石なのかな?案外小さいな。首から下げたら、ペンダントになりそうだ。

「ガッチェスさん!これが魔法石なんですかね?僕の武器、作ってもらえますか?」

俺は扉の前で呆然としているガッチェスに問いかけた。
その声でガッチェスは我に返ったようだ。

「あ、あぁ…。いいとも、鍛冶屋に戻るぞ」

俺は魔法石を持って、鍛冶屋に戻った。


鍛冶屋に戻ると、ガッチェスはすぐに材料を倉庫のようなところから取り出した。
全部鉄の箱の中に入れて大切に保管されていて、他のものよりも高級そうなものばかりだ。

「あ、あの…ガッチェスさん!?俺、お金あんまり持ってないですよ!?こんな大事に保管された材料なんて使われても、払えるかどうか…」

俺がそう言うと、ガッチェスは苦笑いして言った。

「気にするな、金はいらん。それに龍神の祠の魔法石を使うんだ。そんじょそこらの素材で作ったんじゃ、バチが当たっちまう。それに、さっきは変に疑ってすまなかったな。まさかこんな幼い子供が龍神の力を持っていたなんてな…。これで、俺もようやく使命を果たせる」

…使命?
そういえば、女神も言ってた気がするな。
ガッチェスは責任感がどうのこうのって…。

「え…でも、お金はさすがに払いますよ」
「いいや、受け取れん。俺の使命は、龍神の力を持つものが現れた時に、至高の武器を作ることだ。その使命が果たせるんだ。金は受け取れん。それにな、どんな名工でも、生涯でたった一本しか至高のものを打つとはできないんだ。俺にとって、この武器は俺の人生の全てを捧げた武器にしたい。いわば、俺の全てだ。
そんな大事なものに値打ちを付けることはできん。願わくば、ずっと大切に使って欲しい」

ガッチェスは強い眼差しで俺を見た。
漢にここまで言われちゃ引き下がれないな…。

「…わかりました!どうか、よろしくお願いします!」

俺は深々と頭を下げた。
この男には、頭が上がらない。

「よしてくれ…。子供に頭を下げられるのは変な気分だ。それよりも、これはどんな武器にしたいんだ?」

おっと、そうだった。
それも言わなきゃいけないな。

「実は、こういった武器を作って欲しいのですが…」

ーーーーー

武器が完成するのには、かなりの時間がかかるらしい。
完成したら連絡をくれるというので、俺は家に帰った。
完成が楽しみですな~。

家に帰ると、シロとメイシェルとエレナがリビングで遊んでいた。
おままごとをしているようだ。

三人は俺に気がつくと駆け寄ってきた。

「リュウ、おかえり!」
「にーたん、おかえり!」
「にぃ、おかえり!にぃもあそぼー!」
「え…でも、にいちゃん疲れたから…。って、うお!」

俺はエレナに手を引かれて、おままごとに強制参加させられた。

ーーーーー



ふぅ~…。今日も疲れたな。
早く家に帰って、愛しい妻の胸で眠りながら娘たちを抱きしめたい…。


「ただいま~、今帰ったぞ~」
「おかえりなさい、あなた!」
「おかえりパパ!」
「かえり!」

そう言いながら、俺が玄関の扉を開けると、可愛らしい妻と娘たちが俺を出迎えてくれた。
あぁ、疲れがぶっ飛んでいくよ…。

「あなた、ご飯にする?お風呂にする?」

そう聞いてくるのは、俺の愛しい妻。シロだ。
彼女はとても美人で、これ以上の女性はいないんじゃないかと思えてくる。

「ん~…そうだなぁ。じゃ、シロで!!」
「!!?!!♡♡?!?♡!?」

俺は妻をギュッ!と抱きしめながら、ソファに座る。
あぁ、いい匂いだ…。シロのいい匂いが俺を包み込むようだ…。

「あぁー!!ママだけズルい!わたしもー!」
「エレナもー!」

二人の娘も俺に抱きついてきた。
あぁ、俺は今なんて幸せなんだ!

「ね、ねぇリュウ!恥ずかしいよ!!」

おっと、妻が恥ずかしがって逃げてしまった…。
シロは恥ずかしがり屋さんだなぁ。

「じゃぁ今度は、ご飯を食べようかな」
「うん!わかった!!あなた、ちょっと待っててね!」

シロはそう言って、パタパタとキッチンへ走っていった。

「はい、これ!お母さんと一緒に作ったの!」

戻ってきたシロが持っていたのは、少し焦げた匂いのする卵焼きだった。
フッ、たとえ消し炭だろうが、愛しい妻が俺のために作ってくれたんだ。食べてみせるぜ!

「お?結構うまいじゃないか!俺、この味好きだよ」

少し甘めの味付けか。うん、とても美味だ。
これ、本当にシロが作ったのか?料理の才能あるなぁ。

「えへへ~、よかった。少し焦げちゃったから、食べてくれないかと思った…」
「なーに言ってんだよ。シロが作ってくれたんだ。食べないわけがないだろ?」

なんてイチャイチャしてると、娘たちがムッとした。

「じゃ、今度私も作るから食べてね!」
「エレナも作る!食べてくれないとメッ!だよ?」
「わかったわかった。じゃ、お風呂に入ろうかな」

俺はそう言って廊下に出ると、サティファがいた。
なんかめっちゃニヤニヤしてる…。

「あの、サティファさん?これはおままごとですからね?」
「あら?そうなんですか?私、てっきり本当の夫婦なのかと…。あ、でも!リュウお坊ちゃんがいいなら、本物(・・)になったっていいんですよ?」

何言ってんだこの人は…。

「それにしても…。ここへきてからあの子は、とても笑うようになりました。本当にここへきて良かったです」

そうなのか…。
なんかいろいろあったみたいだし、仕方なかったのかもしれない。

「いつまでもいてください。俺や妹たちも、サティファさんやシロがいてくれて、毎日楽しいですから」

俺がそう言うと、サティファは静かに微笑んだ。


その夜、俺は夢の中で女神に今日あったことを話した。
ガッチェスのことや龍神の祠のこと、武器が出来上がるのにかなり時間がかかることも。

「そうですか…。彼、元気そうで良かったです。魔法石の効果はそれぞれなので、出来上がったらどんな効果があるのか試してみてくださいね」

ほほう、そこは運しだいってことか。
どんな武器になるのか楽しみだ。

「あと、一つ聞きたいことがあるんですが…。この前話した龍神は人の姿になれる。ってやつなんですが。あれって、他の竜王とかもなれるんですか?」
「よく気がつきましたね。その通り、他の竜王もなれますよ。ただ、竜王の場合は、人の姿よりも魔族に近いですがね」

魔族。
人と魔物の間の種族で、確か森人種や獣人種とかもそうだったな。
魔族を嫌うやつらもいるとか…。
そいつらはダメだな。何もわかっちゃいない。
獣耳少女やエルフっ子の素晴らしさが。俺もはやく会いたい…。

「これからの冒険で、たくさんの道具や武器を手に入れるでしょうから、収納するものも必要でしょう。この魔法を使えば、いくらでも入れることができますよ。あとこの中には、冒険で役立つものも入れておきましたので、必要な時に使ってください」

そう言って女神は俺の額に手を当てた。
女神から魔法を教わる時はいつもこうやっている。
こうして、体に直接感覚を覚えさせ、無詠唱もできるようになる。

「はい、これで大丈夫ですよ。それでは、今日も一日、頑張ってきてくださいね」
「はい、ありがとうございました」

さて、頑張っていくかなーー。





































今日は待ちに待った、新しい命の誕生の日だ。
村の産婆さんが二人も来て、朝から大忙し。

半年ほど前に来てくれたメイドのターニャさんのおかげで、生活には特に困ることはなかった。
彼女はとても優秀で、俺もかなりお世話になった。

まず最初に産気づいたのはメイアだった。

俺は家の中をドタバタと走り回り、ルシフェルはメイアの手を握っている。

半年前くらいに来たメイドの人はよく働いてくれる。
同じく、アインスも今日が出産の日だろうということで、先ほどから陣痛が来ている。
メイドさんはアインスの世話をしていて手が離せないということで、産婆さんを二人も呼んだのだ。

しばらくして、メイアの赤ちゃんが産まれた。
ルシフェルに似た黒髪で、元気な女の子だった。

ひとまずお疲れ様でした。と言い合っていた直後。
今度はアインスの番になった。

産婆さんたちは気持ちを素早く切り替えて、的確な指示を飛ばしだす。
今度はターニャさんも加わり、少しは楽になると思ったが、アインスの出産は難産だった。

だが、少し時間がかかっただけで、無事に元気な赤い髪の女の子が産まれた。
少しヒヤッとしたが、なんとかなった。

メイアもアインスも、子供を抱いて微笑んでいた。
ルシフェルも笑っていた。その目には、涙を浮かべていた。
ルシフェルは、「ありがとう。お疲れ様」と何度も繰り返していた。

メイアの子はメイシェル・ルーク。アインスの子はエレナ・ルークと名付けられた。

ターニャさんは、出産後2週間までという契約だったから、もうすぐお別れだ。

こうして、俺に二人の可愛い妹が二人できた。






ー2年後ー

俺の生活はとても充実していた。
朝早く起きて、ルシフェルに剣術を習い、昼は可愛い妹二人の面倒を見て、夜は夢の中で女神と勉強。
俺はこの生活に満足していたが、今日の剣術の稽古でふと、ルシフェルが言った。

「そういやリュウ。お前、外で遊ばねぇなぁ。今日の稽古はここまでにして、家の外に遊びに行ったらどうだ?」

たしかに、いつも俺が家の外に出るのは庭だけだ。
別に外が嫌いってわけじゃない。
前世で外に遊びに行く習慣がなかったからというのもある。

「わかったよ。じゃあ、外に遊びに行こうかな」

家の外の様子は、窓から見ているだけでも良かったが、やはり自分の足で歩き見て回ったほうがいいな。
なにげに、遊びに行くのは初めてだな。
でもルシフェルは、まだ幼い息子をよくもまぁ一人で外に出すもんだ。
今後、少し気をつけてほしいところだな。

「でも、あまり遠くには行くなよ。それと夕飯までには帰ってくること。あと、今日はこの前話したメイドの人が来る日だ。あまり粗相のないように」

と思ったが、以外と考えているようだ。

ターニャさんがいた頃は、生活がすごく楽だったので、3ヶ月前くらいに新しいメイドさんの募集をしたらしい。
今度はずっと住み込みで働いてくれる人を募集したようだ。できれば美人な人がいいなぁ。

というわけで、今からメイドの人を迎え入れる準備をするから、俺には家の外にいて欲しいみたいだな。
俺も手伝うのに…。まぁいいや。

「うん!じゃ、行ってきます!」

でも、ワクワクするな!
なんたって、この世界は自然にあふれている。
前世にはなかったいろんなものが、ここにはある!なんてな。

そんなわけで俺は今、村の中を練り歩いている。
辺りを見回すと、畑を耕したり、野菜を収穫している人がたくさんいる。
この村は、農村なのだろうか。

しばらく歩いていると、大きな森が見えた。
この村の近くには森があり、そこには魔物がいるらしい。
RPGゲームみたいだな。

だがゲームと違うのは、そいつらが皆生きているということで、戦うなら死を覚悟しなければならない。ということか。
まぁ、実戦経験は豊富な方がいいだろ。

俺はそう思い、森の中へと入って行った。

森の中は以外と普通だった。
木々や草花が生い茂り、時折鳥の声が聞こえてくる。

……うん、普通だ。
まぁ、そうだよな。身近に危険を置くまいと、魔物狩りとかするんだろうな。
だから滅多に魔物には出会わないんだろうな。
少し残念だ…。

なんて思いつつ歩いていると、遠くから人の声が聞こえてきた。
まるで何かと戦っているような金属音も聞こえる。
まさか…!

俺は急いで、その音のする方へと走った。
生い茂る草木をかき分けて進み、広い場所に出た。
そこでは、赤茶けた帽子をかぶった緑の生き物がいた。
俺は瞬時に、それがなんなのか理解した。

ゴブリンだ!

ゴブリンは、全部で12匹。結構な数だ。
それぞれがあるものを囲むようにしている。

その中心には、騎士のような身なりをした人が剣を抜いて、さらに何かを守るにゴブリンと戦っている。
そこには、馬車を引いた馬と人が二人いた。
一人は10代後半くらい白い髪の女性で、ひどく怯えている。美人だ。
もう一人は同じく白い髪の、おそらく俺と同い年くらいの子供だ。親子かなぁ?
その子は、母親と思われる女性の腕の中で、涙を浮かべて縮こまっている。

助けなければ!

なんで?とも、どうして俺が?とも思ったが、そうしなければいけない。じゃなきゃ後悔する。と思った。

大丈夫だ。ルシフェルにも、女神にも戦闘の技術は教わった。
無詠唱魔術だってできる。息切れでやられることは無い。

まずは、一番先頭にいるゴブリンからだ。
そいつは持っている棍棒を振り上げ、今にも親子に飛びかかりそうだ。

(……間に合ってくれよ!『サンダーアロー』!!)

俺は即座に右手で、中級雷魔術の『サンダーアロー』を作り出し敵に撃ち込む。
瞬間、俺の手から鋭い雷撃が放たれゴブリンを丸焦げにした。

続いて、こちらに気づいて振り返る3匹。
左手で、上級風魔術の『ウインドスラッシャー』を放つ。
風の刃は、一瞬にして3匹を真っ二つにした。

残る8匹は、それを見て森の中へと逃げていった。
俺もこれ以上殺したくはないから助かった…。

今、俺は初めて魔物と戦い、殺した…。
だが、不快な感じはしない。大丈夫だ。

そこへ、先ほどの騎士が駆け寄ってきて俺に頭を下げた。
その顔は、安堵の表情だ。

「ありがとうございます!おかげで助かりました!いやぁ、まだこんなに幼いのに、あの数の魔物相手に恐れずに立ち向かうなんて。しかも無詠唱であんなすごい魔法まで使えるなんて!なんとお礼を言ったらいいのか…」

無詠唱ってそんなにすごいのか?
俺にはよくわからん。

「お礼なんてよして下さい。僕はただ偶然この近くにいただけなんですから。そちらの方々も、お怪我はありませんか?」

俺はそう言いながら、後ろの方で、ぽけ~っと驚いた顔をしている親子に話しかける。
すると、その声に我に帰ったように、母親の方が言った。

「えと、あの、あ、ありがとう…ございます。あの、なんていうか、その、お強いんですね。年齢もまだ娘と変わらないくらいなのに…」

あぁ、そうか。
この人、俺がこの歳で無詠唱で魔法が使えて、そのうえ魔物も退治したから驚いてるのか。
そんなに無詠唱って凄いんだな…。とりあえず父さんのせいにしとこ。

「いえ、父が教えてくれたんです。いつ、どんなことがあっても生き残れるように、って。それより、お怪我は?」

とりあえず、話を逸らすか。
面倒臭い事になっても嫌だしな。

「はい、おかげでなんとも…。あ、申し遅れました。私の名前は、サティファレイ・ヴァナディールと申します。こちらは私の娘の、シルヴァレン・ヴァナディールです。このたびは、命をお救いくださってありがとうございました。ほらシロ、あなたもお礼を言って」

シロと呼ばれた少女はサティファに押されて、おずおずと前にでた。その顔は緊張のせいか、少し赤くなっている。

「あの、シルヴァレン・ヴァナディールです。助けてくれて…ありがとう…ござい‥ます‥。う、うえぇん!怖がったよぉ!!お母様ぁぁ!!」

ありゃりゃ、泣いちゃった。
お、俺が泣かしたんじゃないからな!あのゴブリンたちが泣かせたんだい!

でも、泣くほど怖かったんだな。無理もないか…。
あんな大勢の魔物が自分を殺そうと、一斉に襲いかかるんだ。
あ、やべ。思い出してよくよく考えたら、ちょっと怖くなってきた。俺も泣いていい?

「それにしても、あれだけの数の魔物がいるなんて…。自分が付いていながら、申し訳ありません」

そう言って騎士の護衛の人が、サティファに頭を下げた。
そんなに珍しいのかな?
そうか。ここらは定期的に魔物の駆除を行ってるらしいからな。

そう考えると、なぜあんなに魔物が?
なんて考えても仕方がないな。俺にはわからないしな。

「いいんですよ、もう過ぎたことです。それに、この小さな勇者様にお会いできましたしね」

クスッと微笑みながら、サティファは俺を見た。
小さな勇者か…、悪くないな。

「もしよろしければ、あなた様のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」

おっといけない。まだ名乗ってなかったな。
挨拶は基本なのだから、次からは気をつけよう。

「僕はリュウ・ルークっていいます。こちらこそ、名乗り遅れてしまい申し訳ないです」

俺がそう言うと、サティファと護衛が驚いた顔をした。
なんか変なこと言ったけかな?

「もしや、あなたのお父様の名はルシフェル・ルークではないでしょうか!?」

ん?なんで父さんの名前を知ってるんだ?
まぁ、父さんもそれほど有名ってことなのかな?

「ええ…まぁ。たしかに、うちの父親はルシフェル・ルークですけども…」
「やはりそうでしたか!私どもはこれから、ルシフェル様のもとに参ろうとここへ来たのです!ですが、途中で森の中で迷ってしまい…。もしよろしければ、ルシフェル様のもとへ案内してもらえませんでしょうか?」

そうなのか、俺としては、全然問題はないな。
それにもう少しだけこの美人な人と一緒にいたいしな。

「わかりました、こっちです。周囲を警戒しながらついてきてください」

俺は探検を中断して、自分の家にこの人たちを送ることにした。

ーーーーーーー

家に着くと、ルシフェルが外にいた。

「ん?なんだ?リュウも一緒だったのか?まぁ、それならそれでちょうどいいか」
「何がちょうどいいの?」

なんで外にいるんだ?
まぁ、呼ぶ手間が省けたからいいけど。

「それはだな、リュウ。お前が連れてきた人こそが、今日から俺たちの世話になる、ルーク家専属のメイドさんなのだ!」
「え!?」

うそん!?この人が!?こんな美人な人が!?
え!?でもさっき死にかけてたよ!?危なかった~、助けてよかったぜ。

「はい。これからここで一緒に住まわせてもらいます、サティファレイ・ヴァナディールです。そしてこちらが娘のシルヴァレン・ヴァナディールです。これからよろしくお願いしますね」

そう言って微笑むサティファを見て、ルシフェルは慌てて挨拶をする。

「あ、ど、どうも!ルシフェル・ルークと、息子のリュウルークです!これからお世話になります!」

え?でも、子連れのメイドさんなんて見たことも聞いたこともないぞ?

「リュウお坊ちゃんは全く気づいてなかったみたいですね。私がメイドだと知って、さぞ驚きになられましたか?」

サティファは、クスクスと笑っている。

「ええ、全く気付きませんでした…。護衛を連れた親子だったので、観光でもしているのかと勘違いしました…」
「ははは。自分はただ、この方々の護衛としてついてきたにすぎません。それでは、自分はここで。報酬の方はこちらの方にお願いします」

そう言ってルシフェルに紙を渡すと、護衛の人はすぐに帰っていった。

「それじゃ、詳しいことは中で話しましょうか。どうぞこちらへ」

ルシフェルはそう言って、家の中に入っていった。
俺たちもそれに続くように入っていく。

居間には、メイアとアインスとメイシェルとエレナがいた。
メイシェルとエレナは俺に気づくと、

「にーたん!おかえり!」「にぃ!かえり!」
「うん、ただいま」

二人は笑顔で出迎えてくれた。
うちの妹は可愛いなぁ~。

みんな椅子に座るのを確認して、ルシフェルは自己紹介を始めた。

「とにかく、よく来てた。俺がルーク家当主のルシフェルだ。それとこっちがメイアとアインス。そんで俺の息子のリュウと娘のメイシェルとエレナだ」
「メイアです。これからよろしくお願いします」
「アインスよ。よろしくね」
「あ、ど、どうも!リュウです!よろしくお願いします!」

まだちょっと、動揺してんな。
とりあえず一旦、落ち着こう。

「これからここでメイドをさせていただくこととなりました、サティファレイ・ヴァナディールです。こちらは、娘のシルヴァレン・ヴァナディールです。なにとぞ、よろしくお願いします。」
「シ、シルヴァレン…です!よろしくお願いします!」

それにしても、サティファはとても美人だ。腰まである白い髪をサイドで束ねていて、スタイルもいい。
大きすぎず、それでいて小さすぎない胸。綺麗な青い瞳に綺麗な顔立ちだが、どこか幼さを感じる顔。
まさに完璧、これぞ美なり。って感じだ。

シロの方は、ロリコンな人が見たらまず間違いなく襲うだろうな。それぐらい可愛い。

サティファに似て、腰まである白い髪は、光の粒子を纏ってるかのようだ。前髪から覗く青い瞳。
成長して大人になったら、サティファのような美人になるのだろうか…。楽しみだ。

てかこの二人、どことなく女神に似てる気がする。
まぁ、似てるだけなんだが。

そんなことを考えていると、サティファがこれまでのことを語り出した。

「この子の父親、私の夫はこの子がまだお腹に入る頃に戦争で亡くなりました。国と国の戦争に巻き込まれて戦死したのです。この子は父親の顔も知らずに育ってきました。私が働いても、ろくな収入も得られずに生活もだんだん厳しくなってきました。このままではこれからの生活はおろか、生きて行くのも難しいんじゃないかと絶望しました。いつものように、収入の良い仕事を探そうと街のギルドに行った時でした。そこで掲示板にあった一つの仕事に目が止まりました。『生活資金を保証し給金も出すから、住み込みのメイドをしてほしい。そちらの家族を連れての共同生活も可。この条件でいいならここまで連絡が欲しい。』と書かれた内容に、思わず歓喜しました。生活資金を出してもらえて、娘と一緒に住む場所もあり、それでいて給金まで出るなんて。私はすぐにルシフェル様に連絡を取りました。ルシフェル様は快く迎えてくれました」

「そして、この村への移動の最中に通った森で、大量の魔物に襲われてしまいました。ここらの森では、あまり魔物は出ないと聞いていたので護衛の人も一人しか雇いませんでした。私は、死を覚悟しました。魔物に襲われる中、この子だけは助けなければ、と思った時です。私に襲いかかろうとしていた魔物に激しい雷撃が撃ち込まれ、魔物は一瞬でころ焦げになり、他の魔物も真っ二つになったり、逃げて行ったり。私は何が起こったのか理解できずに呆然と立ち尽くしていました。魔物が去った後、そこにいたのはまだ娘と変わらないような幼い少年がいました。それがリュウお坊ちゃんでした」

これはさっきのことか。
にしても、少し美化されてる気もするが…。

「リュウお坊ちゃんは魔物に臆することなく戦い、私たちを救ってくれました。私たちを救ってくださったのがリュウお坊ちゃんだと知ったとき、私は運命を感じました」

一通り語り終えたサティファは、コホンと咳払いした。

「これから色々とご迷惑をおかけしますが、なにとぞよろしくお願いします」

サティファはそう言って深々と頭を下げ、シロも慌ててそれに続いて頭を下げた。

「何を言うんですか。私たちはもう家族なんですよ?迷惑だなんて、そんな風に考えないでください。こちらこそ、よろしくお願いしますね」

メイアは、笑顔で優しくそういった。
それに続き、アインスやルシフェルも「そうよ!」「そうだな」と言って笑った。

こうして、サティファとシロが家族になった。

その日の夜。
そろそろ寝ようかと思い寝室に行こうとして、俺はふと思った。

「そういえば父さん。サティファさんやシロの寝る場所はもう決めてるめてるの?」

俺がそう言うと、ルシフェルはニヒッと笑い、

「なんだ?そんなにサティファやシロのことが気になるのか?」

……おいおい。
4歳の息子に何を教えてるんだよ…。

「そうだな…。サティファ、お前どこで寝るんだ?空いてる部屋ならあるが、ちと狭いぞ?」

メイド服を着たサティファは、とても一児の母とは思えない。
メイド服がサティファの美しさをさらに引き立てるようだ。

「んー、そうですね~…。私てきには、メイシェル様とエレナ様のお世話ができるので、メイア様とアインス様のお部屋が良いのですが、それだとシロが…」

サティファが考えていると隣で歯磨きをしてたシロが恥ずかしがりながら言った。
そんな顔してると、悪い狼に食べられちゃうぞ?

「し、シロは…リュウといっしょに……いたい‥」

へ?今なんて?
お兄さん、ちょっとそういう趣味はないよ。多分…。

それを聞いたルシフェルは、やたらニヤニヤしてた。
サティファは、口を手で覆い「まぁ!」と驚いている。

「シロは…それでいいのか?」

見た目はこれだが、中身はもう20越えたお兄さんだよ?
まぁ、そういう趣味はないからいいけど…。

「リュウは…シロと一緒、嫌?」

シロは少し不安がりながら、上目づかいで見てくる。
こんな幼い子に、こんな頼まれ方したら誰も断れまい。

「嫌じゃないよ。ただ、俺ちょっと寝相悪いから迷惑かけるかも…」

これからは、幼女と同じ部屋で寝るのか…。
なんか変な感じだ。嫌じゃないが…。

「んーん、だいじょぶ!」

シロは笑顔でそう言うと、パタパタと部屋に走っていった。
俺も歯、磨いてこよ…。



部屋の中でシロと俺は同じベッドで寝ている。
シロの髪から、シャンプーのいい匂いがする。ずっと嗅いでいたい。

「リュウ…あのね。今日森の中で悪い魔物に食べられちゃいそうになったときにね、リュウが助けてくれてね、すごくうれしかったの。だからね、これからもずっと、シロのこと…守ってくれる?」

シロは唐突にそんなことを言ってきた。
これからもずっと…ね。

「あぁ、わかったよ。これからもずっとずーっとシロのこと守るから。でもね、俺がいないときは、自分で自分のこと守らないといけないよ。だから、明日からシロも魔法を使って戦えるように特訓しような。俺も一緒にやるからさ。」

俺だって、24時間体制でシロを守ることはできないだろう。
シロも自分の身が守れるようになったほうがいい。

「うん、わかった!シロも頑張る!」

シロは力ずよく頷いた。

「じゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」

俺たちはそう言って、眠りについた。
今からまた、女神様と勉強だーー。













 
 目が覚めると、目の前に巨人がいた!
 かなりの美女だが、すごくデカイ!
 巨人は、俺を抱き上げて微笑んでいる。

(おいおい!ソッコーでゲームオーバーかよ!!)

 そう思ったが、彼女は俺をとって食うつもりはないみたいだ。
  今度は不思議そうな顔をしている。

「ーーー・・・ーー……。」

 …ん?なんて?
 チョットナニイッテルノカワカンナイ。
 とりあえず、ここはどこか聞いてみるか?

「アァ~…ウウァウ」

 ありゃ?
 俺も人のこと言えねぇな。声が言葉になって出てこないぞ?

 とりあえず、もう一度俺を抱いている女性を見てみる。
 綺麗な青い長い髪。その髪は、日に照らされ、淡く綺麗な光を帯びているようだ。

 すると、隣から別の女性が覗き込んできた。
 こっちもかなりの美人だ。が、やはりデカイ。
 こっちの女性の髪は、俺を抱いている女性とは対照的に赤い長い髪だ。

「ーーー!……・・ーー?」

 この女性も困った顔をしている。
 いったいなんなんだよ。
 さては、暗黒龍とか言う奴の手先か?

 何て思っていると、今度は黒髪の細マッチョなイケメンの男が覗き込んできた。
 なんなんだよ、巨人ってのはこうも美男美女ばかりなのか?

 すると、今度はその男が俺を抱きかかえてきた。
 その時、鏡のようなものが目に入った。
 そこに写っていたのは、黒髪のイケメンに抱かれた………赤ん坊だった。

(……え?なにこれどうなってんの?俺は………あれ?)

 そこでようやく気がついた。
 俺は本当に転生(・・)したのだ!

 それに気がつくと同時に、彼らが困っているのがなぜか理解できた。
 俺は赤ん坊なのだ。なら、生まれた瞬間に為すべき仕事がある。
 泣かなければ!!

「ウァァ~!アァー!アァー!」

 俺は力の限り泣いた。恥など捨てよう。
 すまなかったな。父さん、母さん。
 俺は今ここに誕生したよ!

 すると、さっきまで困った顔をしていた彼らは、安心したように笑っていた。

 ––––––––––––––––––

 それから半月ばかりした頃。
 なんとなくだが、この世界の言語を理解してきた。
 彼らのこともだいたいわかってきた。

 まず、最初に俺を抱いていた青い髪の女性が今世での俺の母、メイア・ルーク
 眼は綺麗な黄色で、歳は10代後半から20代前半くらい。とても若い。
 そして、彼女はなんと!《魔法使い》だったのだ!

 俺を抱きながら庭で日向ぼっこをしているときだった。
 彼女は指先を庭の上へと動かし、

「大地の恵みなる雨よ。我に力を、『ウォーターレイン』。」

 彼女がそう言った瞬間、
 庭の上で小さな雲ができ、庭だけにパラパラとした小雨のようなものを降らせた。

 俺は初めての魔法で興奮し、年甲斐もなくキャッキャと喜んでしまった。
 それを見た母は、満足そうにドヤ顔を浮かべて、何度かその魔法を見せてくれた。

 続いて、俺が2番目に見た赤い髪の女性、アインス・ルーク
 眼は綺麗な茶色で、歳はこちらも10代後半から20代前半くらい。
 そして、こちらも俺の母だった!なんと2番目の妻だったのだ!
 さすがは異世界だ。女神が一夫多妻できるとは言っていたが、本当だったとは…。
 そして、彼女は《魔法剣士》なのだ!

 これを知ったのは、俺がハイハイできるようになったときのことだ。
 いつものように庭から外の景色を眺めていると、
 シュッ!シュッ!と、聞き覚えのある音がしたので見てみた。
 そこでは、アインスが銀色のいかにも異世界と思われる剣で素振りをしていた。

 それだけなら剣士だと思っただろう。
 30分ぐらい眺めているとアインスが、手のひらを剣にかざし、

「炎よ。我が剣に全てを焼き斬る力を、『フレイムウェアー』!」

 その途端、アインスの手のひらから、剣に纏わりつくように火がでた!

(…スゲェ!俺もいつか!)

 アインスの魔法を見て、俺もいつかあんな風に!と思った。
 成長が待ち遠しい!体が自由に動くようになったらやってみよう!

 そして次は、俺の父親 ルシフェル・ルーク
 歳は、同じく10代後半から20代後半。眼は吸い込まれるような紅色。
 髪は黒髪の長髪で、髪を後ろで束ねている。
 見かけは細マッチョだが、筋肉量は凄い!
 彼が服を脱いでいるのを見たが、背中には歴戦の証とも見える古傷などがたくさんあった!

 彼は、前世の父と比べ、少しゆとりがあるように思える。
 俺がこの世界に来て10ヶ月くらいしてからのことだ。

 俺はつかまり立ちをしながら歩けるようになり、
 階段を登って2階へと行こうとしていたときのことだった。

 メイアが見たら急いで駆け寄り捕まえてくるが、ルシフェルはそうじゃない。
 頑張って登る俺を見て、

「おぉ?励んでるなぁ!ほら、頑張れ!」

 と言いながら見守ってくれる。
 俺としてはありがたいことだが、どうせなら運んで欲しいところだ。

 なぜ登るのかって?そこに階段があるからだ!
 冗談はさておき、俺の目的地は2階にある書斎だ。
 そこにある、魔術(・・)のことやこの世界の歴史について書かれている本がある。
 幸い、本は俺にも届く位置にあるから苦労せずに読める。

 もちろん、最初から読めたわけじゃない。
 この世界の本は、当然日本語で書かれてるわけでも英語で書かれてるわけでもない。
 この世界の言語を覚えるのには苦労した。

 まず、メイア母さんが子供に読み聞かせるような本を読んでくれた。
 それを喜ぶそぶりを見せたら、何度も読んでくれるようになった。

 言葉は読めないが、聞くことはできたので、文章の中から単語を拾い、それを他の本に当てはめていった。
 そして、言語には法則性が存在するのでそれを見つけ出していく。

 そうして、やっとの思いで本1冊を読み終えた。
 読み終えるのに1年もかかった。
 この世界の魔法について学んだ。

 この世界の魔法と剣術には、階級がある。

 ・龍神級
 ・神級(ゴッドクラス)
 ・伝説級(レジェンドクラス)
 ・覇王級(マスタークラス)
 ・帝王級(エンペラークラス)
 ・聖級(セイントクラス)
 ・上級(グレードクラス)
 ・中級(レギュラークラス)
 ・初級(ルーキークラス)

 魔法は基本的には、魔術詠唱を行うことで大半の魔法は使える。が、しかし。
 戦闘の最中で詠唱中に死んでしまうこともあるだろうと思う。
 ターン制ならまだしも、相手は待ってはくれない。
 それに、たとえできたとしても、走りながらは詠唱できない。息がもたんよ。

 そこで、俺は詠唱の短縮、無詠唱を試みた。

 まずは、魔法を詠唱で使う。
 その時の感覚を体に叩き込む。

 だが、魔力というものは底なしではないらしく、本によるとその総量は増やすことは可能だが、限度もあるとのこと。
 それは一番最初に実感した。

 2歳くらいになったときのことだった。魔法の基礎とも言える初級魔術を使っていた時だ。
 やることは簡単。体で覚えた魔法の感覚を思い出し、無詠唱で使用する。
 初級魔術の『ヘアードワーセル』という風魔術を使っていた時だ。
 小さな風の刃を作り出し放つ魔術だが、部屋を荒らすことなく使えるので練習するにはもってこいの魔術だと思い使っていた。
 今日は、自分の限界が知りたかったから、バンバン使った。
 30回くらい使った頃。
 急に疲労感がドッと出てきて、目眩がしてきた。
 だが、こんなことでやめるのは癪だと思い、もう一度撃った。
 その瞬間、俺の意識は途切れた。

 目が覚めた時、窓越しに見える景色は暗く、俺はメイアの膝の上で頭を撫でられていた。
 彼女は、とても不安そうな顔をしていたが、俺の目が覚めたのに気づいたらしく、微笑んだ。

「よかった~…。リュウ、平気?もう、びっくりしたわよ。すぐどこかにいなくなるんだから。慌てて探したら、書斎で倒れてるんだもの。でも、もっとびっくりしたのは、リュウが魔力切れで倒れてたってことね。」

 そんなに心配してくれたのか。ちょっと悪いな。
 それにしても、もうばれたか。魔法のこと。
 ウチの母さんは、欺けないなぁ。

 おっと、紹介が遅れたな。
 俺の名前は、リュウ・ルーク ルーク家の長男
 光の龍神の力を受け継いだ転生者らしい。
 髪の色はメイア母さんと同じの青で、眼は父さんと同じ紅色。
 髪は父さんの意思で、長髪で後ろで束ねている。
 顔は、女神の言った通り、かなりのイケメンだと思う。
 これが自分の顔とは信じがたい。

 俺が生まれた時、いっとき泣かなかったからかなり焦ったらしい。
 まぁ、その後に俺の完璧な演技で安心したみたいだがな。フッ。

 なぜリュウという名前なのか。
 母さんたちが父さんに聞いていたのを、聞いたことがある。

 なんでも、俺には生まれる前に、事前に別の名前を決めていたらしいが、俺の胸に光の龍神の紋章にも似たアザがあるらしく、それを見てとっさに決めたらしい。

 似ているんじゃなくて、多分本物だな。
 その場所は、ちょうど光の玉みたいのが入ってきた場所だな。

 俺はリュウ・ルークとして、新たな人生を歩む。

「リュウは、まだこんなに小さいのに文字も読めて、魔法まで使えるなんて。さすが私の子ね!天才だわ!」

 メイアの声で我に帰った。
 ばれたもんは仕方ないなぁ。

「…ごめんなさい。勝手に読んで勝手に使ってしまって……。」
「あぁ~ん、もう!可愛いんだから!!謝る必要なんてないわ!むしろ誇りに思っていいのよ!この歳で中級まで使えるなんてすごいわ!」
「いや、実は……。魔法は上級まで…使えちゃったりしちゃったり……。」

 さすがに、気味悪いよな。
 こんな子供が上級まで使えるなんて……。

「え!?もう上級まで使えるの!?凄いわ!もう十分冒険者としてやっていけるじゃないの!そうだわ、こうしちゃいられない。この才能をもっと伸ばさなきゃいけないわね!ルシフェル~!!ちょっと来て~!」

 ……え?
 メイア母さん、ちょっと落ち着いて!!
 確かに、冒険者になりたいとは思ってたけど、まだ早いって!!

「どうしたの?そんなに慌てちゃって。」

 おぉ!アインス母さん!!

「聞いてよアインス!リュウったらこの歳にして、もう魔法を上級まで使えるの!
 才能を伸ばすためにも、なにかしたほうがいいんじゃないかしら!?」

 いまだ興奮した状態のメイアを見て、アインスは考えるように言った。

「ん~…。確かにとても凄いとは思うけど、才能を伸ばすって言ってもね~…。
 一応ルシウスに相談してみたら?」
「そう思って呼んでるんだけど……あっ!ルシウス!丁度良かったわ。話したいことがあるのよ!」

 ちょうどそこに父さんが帰ってきた。
 何事だ!という顔をしている。

 夕食を食べてしばらくしてから、家族会議が開かれた。
 メイアは事情を説明し、学校へ行かせることを提案した。

「学校かぁ…。正直なところ、ああいう場所にはやりたくないんだよなぁ。
 クソ貴族が多いし、教える奴らもクソだしな。レベルが低すぎんだよな。」
「それはルシウスが入ってた学校でしょ!この子はちゃんとした学校に行かせるのよ!」

 学校かぁ……。
 確かに、あそこなら学べることも多いだろうが、この年で入ってもいいのだろうか。

「うーん…。さすがに早すぎるんじゃないか?せめてもう少し大きくなってからじゃないと。そうだなぁ、せめて5歳まで待った方がいいと思うぞ?俺だってまだリュウに教えたいことだってたくさんあるんだしな。それに、アインスの子供が産まれたら、それどころじゃなくなるだろ?」

 そう。アインス母さんは今、妊娠しているのだ。
 俺に、弟か妹ができるのだ!
 前世では、一人っ子だったからなぁ。ぜひとも頼れるお兄ちゃんとやらになりたいものだ。

「…それもそうね。もう少し大きくなってからにしましょうか。それと、私も妊娠してるのよ!今、3ヶ月らしいわ!」

 え!?マジですか!?

「え!?メイアも妊娠してるのか!?そりゃめでたい!一気に2人も子供が増えるなんて、思ってもみなかったぞ!」
「じゃ、メイアと私の子は同じくらいに産まれるってことね!あ、でもそうなったら、家事とか大変ね。ルシウス、できるの?」

 まぁ、毎日のようにやることやってたら、できるもんもできるわな。
 でも、確かにそうだな。
 こうなったら、家事とかできなくなっちゃうな。大変だなぁ。

「それもそうだな。いっそのこと、メイドでも雇うか?これからのことを考えると、必要になるだろうし。」

 メ、メイドさんだと!?
 たしかに、うちは裕福な方だとは思っていたが、そこまでとは!

「そうね。明日街に行って募集でもしてみましょうか!ルシウス!頼んだわよ!」
「わかったよ。とにかく二人とも、あまり無理はしないようにな。」

 すっかり話が逸れてくれたおかげで、魔法についての質問攻めは回避できたみたいだ。
 さてと、そろそろ明日から剣術の稽古でも父さんにつけてもらおうかな。

 そう思いながら、俺は寝床へと入っていった。





































 
 目が覚めると、目の前に巨人がいた!
 かなりの美女だが、すごくデカイ!
 巨人は、俺を抱き上げて微笑んでいる。

(おいおい!ソッコーでゲームオーバーかよ!!)

 そう思ったが、彼女は俺をとって食うつもりはないみたいだ。
  今度は不思議そうな顔をしている。

「ーーー・・・ーー……。」

 …ん?なんて?
 チョットナニイッテルノカワカンナイ。
 とりあえず、ここはどこか聞いてみるか?

「アァ~…ウウァウ」

 ありゃ?
 俺も人のこと言えねぇな。声が言葉になって出てこないぞ?

 とりあえず、もう一度俺を抱いている女性を見てみる。
 綺麗な青い長い髪。その髪は、日に照らされ、淡く綺麗な光を帯びているようだ。

 すると、隣から別の女性が覗き込んできた。
 こっちもかなりの美人だ。が、やはりデカイ。
 こっちの女性の髪は、俺を抱いている女性とは対照的に赤い長い髪だ。

「ーーー!……・・ーー?」

 この女性も困った顔をしている。
 いったいなんなんだよ。
 さては、暗黒龍とか言う奴の手先か?

 何て思っていると、今度は黒髪の細マッチョなイケメンの男が覗き込んできた。
 なんなんだよ、巨人ってのはこうも美男美女ばかりなのか?

 すると、今度はその男が俺を抱きかかえてきた。
 その時、鏡のようなものが目に入った。
 そこに写っていたのは、黒髪のイケメンに抱かれた………赤ん坊だった。

(……え?なにこれどうなってんの?俺は………あれ?)

 そこでようやく気がついた。
 俺は本当に転生(・・)したのだ!

 それに気がつくと同時に、彼らが困っているのがなぜか理解できた。
 俺は赤ん坊なのだ。なら、生まれた瞬間に為すべき仕事がある。
 泣かなければ!!

「ウァァ~!アァー!アァー!」

 俺は力の限り泣いた。恥など捨てよう。
 すまなかったな。父さん、母さん。
 俺は今ここに誕生したよ!

 すると、さっきまで困った顔をしていた彼らは、安心したように笑っていた。

 ––––––––––––––––––

 それから半月ばかりした頃。
 なんとなくだが、この世界の言語を理解してきた。
 彼らのこともだいたいわかってきた。

 まず、最初に俺を抱いていた青い髪の女性が今世での俺の母、メイア・ルーク
 眼は綺麗な黄色で、歳は10代後半から20代前半くらい。とても若い。
 そして、彼女はなんと!《魔法使い》だったのだ!

 俺を抱きながら庭で日向ぼっこをしているときだった。
 彼女は指先を庭の上へと動かし、

「大地の恵みなる雨よ。我に力を、『ウォーターレイン』。」

 彼女がそう言った瞬間、
 庭の上で小さな雲ができ、庭だけにパラパラとした小雨のようなものを降らせた。

 俺は初めての魔法で興奮し、年甲斐もなくキャッキャと喜んでしまった。
 それを見た母は、満足そうにドヤ顔を浮かべて、何度かその魔法を見せてくれた。

 続いて、俺が2番目に見た赤い髪の女性、アインス・ルーク
 眼は綺麗な茶色で、歳はこちらも10代後半から20代前半くらい。
 そして、こちらも俺の母だった!なんと2番目の妻だったのだ!
 さすがは異世界だ。女神が一夫多妻できるとは言っていたが、本当だったとは…。
 そして、彼女は《魔法剣士》なのだ!

 これを知ったのは、俺がハイハイできるようになったときのことだ。
 いつものように庭から外の景色を眺めていると、
 シュッ!シュッ!と、聞き覚えのある音がしたので見てみた。
 そこでは、アインスが銀色のいかにも異世界と思われる剣で素振りをしていた。

 それだけなら剣士だと思っただろう。
 30分ぐらい眺めているとアインスが、手のひらを剣にかざし、

「炎よ。我が剣に全てを焼き斬る力を、『フレイムウェアー』!」

 その途端、アインスの手のひらから、剣に纏わりつくように火がでた!

(…スゲェ!俺もいつか!)

 アインスの魔法を見て、俺もいつかあんな風に!と思った。
 成長が待ち遠しい!体が自由に動くようになったらやってみよう!

 そして次は、俺の父親 ルシフェル・ルーク
 歳は、同じく10代後半から20代後半。眼は吸い込まれるような紅色。
 髪は黒髪の長髪で、髪を後ろで束ねている。
 見かけは細マッチョだが、筋肉量は凄い!
 彼が服を脱いでいるのを見たが、背中には歴戦の証とも見える古傷などがたくさんあった!

 彼は、前世の父と比べ、少しゆとりがあるように思える。
 俺がこの世界に来て10ヶ月くらいしてからのことだ。

 俺はつかまり立ちをしながら歩けるようになり、
 階段を登って2階へと行こうとしていたときのことだった。

 メイアが見たら急いで駆け寄り捕まえてくるが、ルシフェルはそうじゃない。
 頑張って登る俺を見て、

「おぉ?励んでるなぁ!ほら、頑張れ!」

 と言いながら見守ってくれる。
 俺としてはありがたいことだが、どうせなら運んで欲しいところだ。

 なぜ登るのかって?そこに階段があるからだ!
 冗談はさておき、俺の目的地は2階にある書斎だ。
 そこにある、魔術(・・)のことやこの世界の歴史について書かれている本がある。
 幸い、本は俺にも届く位置にあるから苦労せずに読める。

 もちろん、最初から読めたわけじゃない。
 この世界の本は、当然日本語で書かれてるわけでも英語で書かれてるわけでもない。
 この世界の言語を覚えるのには苦労した。

 まず、メイア母さんが子供に読み聞かせるような本を読んでくれた。
 それを喜ぶそぶりを見せたら、何度も読んでくれるようになった。

 言葉は読めないが、聞くことはできたので、文章の中から単語を拾い、それを他の本に当てはめていった。
 そして、言語には法則性が存在するのでそれを見つけ出していく。

 そうして、やっとの思いで本1冊を読み終えた。
 読み終えるのに1年もかかった。
 この世界の魔法について学んだ。

 この世界の魔法と剣術には、階級がある。

 ・龍神級
 ・神級(ゴッドクラス)
 ・伝説級(レジェンドクラス)
 ・覇王級(マスタークラス)
 ・帝王級(エンペラークラス)
 ・聖級(セイントクラス)
 ・上級(グレードクラス)
 ・中級(レギュラークラス)
 ・初級(ルーキークラス)

 魔法は基本的には、魔術詠唱を行うことで大半の魔法は使える。が、しかし。
 戦闘の最中で詠唱中に死んでしまうこともあるだろうと思う。
 ターン制ならまだしも、相手は待ってはくれない。
 それに、たとえできたとしても、走りながらは詠唱できない。息がもたんよ。

 そこで、俺は詠唱の短縮、無詠唱を試みた。

 まずは、魔法を詠唱で使う。
 その時の感覚を体に叩き込む。

 だが、魔力というものは底なしではないらしく、本によるとその総量は増やすことは可能だが、限度もあるとのこと。
 それは一番最初に実感した。

 2歳くらいになったときのことだった。魔法の基礎とも言える初級魔術を使っていた時だ。
 やることは簡単。体で覚えた魔法の感覚を思い出し、無詠唱で使用する。
 初級魔術の『ヘアードワーセル』という風魔術を使っていた時だ。
 小さな風の刃を作り出し放つ魔術だが、部屋を荒らすことなく使えるので練習するにはもってこいの魔術だと思い使っていた。
 今日は、自分の限界が知りたかったから、バンバン使った。
 30回くらい使った頃。
 急に疲労感がドッと出てきて、目眩がしてきた。
 だが、こんなことでやめるのは癪だと思い、もう一度撃った。
 その瞬間、俺の意識は途切れた。

 目が覚めた時、窓越しに見える景色は暗く、俺はメイアの膝の上で頭を撫でられていた。
 彼女は、とても不安そうな顔をしていたが、俺の目が覚めたのに気づいたらしく、微笑んだ。

「よかった~…。リュウ、平気?もう、びっくりしたわよ。すぐどこかにいなくなるんだから。慌てて探したら、書斎で倒れてるんだもの。でも、もっとびっくりしたのは、リュウが魔力切れで倒れてたってことね。」

 そんなに心配してくれたのか。ちょっと悪いな。
 それにしても、もうばれたか。魔法のこと。
 ウチの母さんは、欺けないなぁ。

 おっと、紹介が遅れたな。
 俺の名前は、リュウ・ルーク ルーク家の長男
 光の龍神の力を受け継いだ転生者らしい。
 髪の色はメイア母さんと同じの青で、眼は父さんと同じ紅色。
 髪は父さんの意思で、長髪で後ろで束ねている。
 顔は、女神の言った通り、かなりのイケメンだと思う。
 これが自分の顔とは信じがたい。

 俺が生まれた時、いっとき泣かなかったからかなり焦ったらしい。
 まぁ、その後に俺の完璧な演技で安心したみたいだがな。フッ。

 なぜリュウという名前なのか。
 母さんたちが父さんに聞いていたのを、聞いたことがある。

 なんでも、俺には生まれる前に、事前に別の名前を決めていたらしいが、俺の胸に光の龍神の紋章にも似たアザがあるらしく、それを見てとっさに決めたらしい。

 似ているんじゃなくて、多分本物だな。
 その場所は、ちょうど光の玉みたいのが入ってきた場所だな。

 俺はリュウ・ルークとして、新たな人生を歩む。

「リュウは、まだこんなに小さいのに文字も読めて、魔法まで使えるなんて。さすが私の子ね!天才だわ!」

 メイアの声で我に帰った。
 ばれたもんは仕方ないなぁ。

「…ごめんなさい。勝手に読んで勝手に使ってしまって……。」
「あぁ~ん、もう!可愛いんだから!!謝る必要なんてないわ!むしろ誇りに思っていいのよ!この歳で中級まで使えるなんてすごいわ!」
「いや、実は……。魔法は上級まで…使えちゃったりしちゃったり……。」

 さすがに、気味悪いよな。
 こんな子供が上級まで使えるなんて……。

「え!?もう上級まで使えるの!?凄いわ!もう十分冒険者としてやっていけるじゃないの!そうだわ、こうしちゃいられない。この才能をもっと伸ばさなきゃいけないわね!ルシフェル~!!ちょっと来て~!」

 ……え?
 メイア母さん、ちょっと落ち着いて!!
 確かに、冒険者になりたいとは思ってたけど、まだ早いって!!

「どうしたの?そんなに慌てちゃって。」

 おぉ!アインス母さん!!

「聞いてよアインス!リュウったらこの歳にして、もう魔法を上級まで使えるの!
 才能を伸ばすためにも、なにかしたほうがいいんじゃないかしら!?」

 いまだ興奮した状態のメイアを見て、アインスは考えるように言った。

「ん~…。確かにとても凄いとは思うけど、才能を伸ばすって言ってもね~…。
 一応ルシウスに相談してみたら?」
「そう思って呼んでるんだけど……あっ!ルシウス!丁度良かったわ。話したいことがあるのよ!」

 ちょうどそこに父さんが帰ってきた。
 何事だ!という顔をしている。

 夕食を食べてしばらくしてから、家族会議が開かれた。
 メイアは事情を説明し、学校へ行かせることを提案した。

「学校かぁ…。正直なところ、ああいう場所にはやりたくないんだよなぁ。
 クソ貴族が多いし、教える奴らもクソだしな。レベルが低すぎんだよな。」
「それはルシウスが入ってた学校でしょ!この子はちゃんとした学校に行かせるのよ!」

 学校かぁ……。
 確かに、あそこなら学べることも多いだろうが、この年で入ってもいいのだろうか。

「うーん…。さすがに早すぎるんじゃないか?せめてもう少し大きくなってからじゃないと。そうだなぁ、せめて5歳まで待った方がいいと思うぞ?俺だってまだリュウに教えたいことだってたくさんあるんだしな。それに、アインスの子供が産まれたら、それどころじゃなくなるだろ?」

 そう。アインス母さんは今、妊娠しているのだ。
 俺に、弟か妹ができるのだ!
 前世では、一人っ子だったからなぁ。ぜひとも頼れるお兄ちゃんとやらになりたいものだ。

「…それもそうね。もう少し大きくなってからにしましょうか。それと、私も妊娠してるのよ!今、3ヶ月らしいわ!」

 え!?マジですか!?

「え!?メイアも妊娠してるのか!?そりゃめでたい!一気に2人も子供が増えるなんて、思ってもみなかったぞ!」
「じゃ、メイアと私の子は同じくらいに産まれるってことね!あ、でもそうなったら、家事とか大変ね。ルシウス、できるの?」

 まぁ、毎日のようにやることやってたら、できるもんもできるわな。
 でも、確かにそうだな。
 こうなったら、家事とかできなくなっちゃうな。大変だなぁ。

「それもそうだな。いっそのこと、メイドでも雇うか?これからのことを考えると、必要になるだろうし。」

 メ、メイドさんだと!?
 たしかに、うちは裕福な方だとは思っていたが、そこまでとは!

「そうね。明日街に行って募集でもしてみましょうか!ルシウス!頼んだわよ!」
「わかったよ。とにかく二人とも、あまり無理はしないようにな。」

 すっかり話が逸れてくれたおかげで、魔法についての質問攻めは回避できたみたいだ。
 さてと、そろそろ明日から剣術の稽古でも父さんにつけてもらおうかな。

 そう思いながら、俺は寝床へと入っていった。