オニシズクモの雨宿り

“でたぞ〜にげろ〜。”
ぼくはオニシズクモ。
こんなふうにみんなに怖がられている大きな蜘蛛だ。
“今日も独りぼっちか。ま、慣れてるから良いけど…”
ぼくが現れるとみんな逃げていなくなる。
ぼくはいつも綺麗な水を求めてお気に入りの池に向かう。
そこはたくさんのポケモンたちの憩いの場。
でも、ぼくが現れるとみんなどこかへ行ってしまうんだ。

ある日、ぼくはいつものように池に向かった。
その日は風が強くて雷も鳴っていた。
まるで空の上でトルネロスとボルトロスが喧嘩しているかのように、激しい風と雷の日だった。
ぼくが池に着いた頃には、雨も降ってきた。
“今日はさすがに誰もいないか。この方が気楽だな。”
ぼくは独り言をつぶやきながら、池の水を汲もうとした。
その時…ビューと突風が吹き近くの木からイトマルが落ちてきた。イトマルは必死に糸をはくも、木に届かない。
このままではイトマルが吹き飛ばされてしまう。
ぼくは勇気を出してイトマルに近づいて言った。
“嵐が収まるまで、ぼくの水泡で雨宿りしてはどう?”
イトマルは少しオドオドしながらも、ぼくの水泡に入った。
“うわぁ。フワフワで気持ちぃ”
ぼくは、イトマルを守りながら話しかけた。
“大丈夫だからね。嵐が収まるまでゆっくりしていてね。”
ぼくたちがそんな会話をしていると、
“ピカッ、ゴロゴロ〜”
池の近くに雷が落ちた。
雷に驚いたアメタマが池で泣いている。
“え〜ん。怖いよ~”
ぼくは池に近づいてアメタマに言った。
“そこは危ないから、嵐が収まるまでぼくの水泡においで”
アメタマはびくびくしながらも水泡に入った。
“雷怖いよ。助けて”
アメタマは震えていた。
ぼくは、アメタマが落ち着けるよう何度も言った。
“大丈夫。ぼくが守ってあげるから”
次第に嵐は弱まり、アメタマも落ち着いてきた。
“オニシズクモさんの水泡ってあったかいね”
続けてイトマルも
“気持ちよくて眠っちゃいそう”と言った。

雨が止み、イトマルは木にアメタマは池にそれぞれ戻った。
“ステキな雨宿りをありがとう。オニシズクモさん”
2匹はそう言って戻って行った。
なんだかとても温かい気持ちだった。

数日ほど経って、ぼくはまた池に向かった。
ぼくを見て、池にいたポケモンたちは去って行った。
ぼくは気にせずいつもどおり水を汲もうとする。すると、アリアドスとアメモースがやってきた。
“こないだは子どもを助けていただき本当にありがとうございました。”
そして、その後ろからあの時のイトマルとアメタマがニコニコしてやってきて言った。
“オニシズクモさん、こんにちは。今日は雨じゃないけど、また雨宿りさせて欲しいな”
ぼくはまた温かい気持ちになった。
“あれ?オニシズクモさん、なんで泣いてるの?”
ぼくは自然と目頭を熱くしていたようだ。
ぼくは涙を拭いて、ニッコリ笑って言った。
“もちろん良いとも!おいで”
“やったー。オニシズクモさんの水泡、本当に優しくてあったかいんだ”
2人が勢いよく水泡に入る。
それを見ていた周りのポケモンたちが集まってきた。
“良かったら、私たちも入れてくれない?”
いつの間にかぼくの周りにはたくさんのポケモンたち。
アリアドスとアメモースは言った。
“オニシズクモさんさえ良ければ、ずっとここにいてください”
ぼくはふたたび熱くなる目頭を抑えながら言った。
“はいっ”
その日ぼくには大切な“仲間”ができた。
雨の日も風の日もどんな時も、この水泡で大切な仲間を守っていこうと思う。
こうしてぼくは、この池のヌシポケモンになった。

                    おしまい