質権 | 制限速度20~30km/h

質権

 さて、民法担保物権も、留置権、先取特権とやって参りましたが、いよいよ質権に入ります。質権というのは、その言葉を聞いてまず質屋さんを連想するかと思いますが、そのままのイメージでOKです。債権者が、その債権の担保として債務者または物上保証人である第三者から受け取った物を債務の弁済があるまで留置して、その弁済を間接的に強制するとともに、弁済のない場合には、その物によって他の債権者に優先して弁済を受ける権利、これが質権の内容です。


 つまり、金に困った人が、質として自分の動産なり不動産なりの財産を預ける代わりに、債権者から高い金利でお金を借り、お金を返すことができるまで、債権者はその財産を手元においておくことができるというわけですな。なぜ手元においておくかというと、それは「もしお金の返済ができないのなら、この指輪はもらっていくからね」という、債務者による弁済を促すプレッシャーをかけるためです。とは言っても、テレビ番組でみる質屋さんでは、お客さんは単に金銭を得ることが目的であって、別にいついつまでにお金を弁済して、絶対に財産を取り戻すぞっていう気概は、あまり感じられないのですが…(;´Д`)


 質権の性質としては、まず質権は約定担保物権であり、質権設定契約によって生じます。その効力は、附従性随伴性不可分性物上代位性があり、さらに債権者は弁済があるまで目的物を留置できることから、留置的効力、加えて、弁済がない場合、その目的物につき、他の債権者に優先して弁済を受ける権利があることから、質権には優先弁済効があるといえます。



 質権には、動産質、不動産質、権利質があります。動産、不動産は言わずでのことかと思いますが、権利質というのがよくわからないかもしれないので説明しますが、これは株式とかがそれに該当します。ゴルフ会員権とかもそうでしょう。とにかく、○○権というのがそれにあたります。それでは、給料債権なんかの、差し押さえ禁止債権はどうなると思いますか?実のところ質権は、火災保険の保険金請求権などのように、差し押さえられない権利にも本人の意思さえあれば設定できるのですが、年金や扶養請求権のような譲渡のできない権利にはどうがんばっても設定することはできないので、これは特に注意しなくてはなりません。


 動産質の設定に関してですが、まず質権はその附従性にしたがって、質権者は債権者となります。そして質権者である質権設定者は、債務者、または物上保証人である第三者に対して権利を持ちます。そして344条にもあるように、質権は債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を発することから、要物契約であるということがいえます。また、引渡しに関してですが、345条は、「質権者は、債権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない」とあるように、前に習った民法183条の占有改定をすることはできません。ただし、民法184条の「指図による引渡し」はできるので、その辺の知識を確実にしておきましょう。


 いちおうわからない人がいるといけないので説明しておきますが、占有改定とは、年寄りのおじいちゃんが、「この刀をお前に(孫)にやるが、ワシが死ぬまで、ワシの手元におかせておいてくれな」、「うん、わかったよ、おじいちゃん!」というような占有の移転をさします。つまり、事実上の占有は孫に移っているのだけど、実際の物は、まだおじいちゃんの手元にあるというような法律関係です。これに対して指図による引渡しというのは、たとえばビンビール1000本くらいの大きな取引で、譲渡人のキリヌビール(仮)が、第三者である倉庫業者に預けてある1000本のビールを、指図によって取引先のビヤホール業者に占有を移転する、なんて場面を考えていただければわかりやすいと思います。確かに占有の対象となる物は、権利者の手元にあるのがいちばん理想的なのだろうけど、もしその物がデカすぎるとか量が多すぎるとかいった場合、どうしても不都合が生じるため、こういう制度ができたんでしょうね。なお、民法352条には、動産質の対抗要件は、動産質権者が継続して質物を占有することだとあります( ´ー`)


 さて、動産質権の効力ですが、前にも書いたように、質権には不可分性がありますので、その効力は果実にまで及びます。297条には留置権者は、留置物から生じる果実を優先弁済できるとありますが、これ350条で、質権にも援用されると記述がありますので、質権でも同じく、果実から優先弁済することができます。また347条の、質権の留置的効力ですが、これは但し書きで、留置権には劣後してしまいますので、そこんとこ注意してください。そして298条2項は、留置権者は債務者の承諾がなければ、留置物の使用、賃貸などはできないけど、その物の保存に関することならばその限りではないとしており(これも留置権に関する記載だけど、同じく350条で質権にも援用)、たとえば質入された指輪が、持ち主の手垢でサビそうになっていたならば、別に債権者に無断で磨きにだしたりするのはかまわないってことですな。


 ここでちょっと小話をしたいのですが、実は民法の349条は、流質契約を禁止しているのです。流質契約というのは、要するに「金が返せなかったら、ワタシはアナタの大切な婚約指輪をいただいちゃいますけど、いいですよね~?ウヘヘヘ」というような契約のことで、これは質屋さんのイメージからしたら意外かもしれません。でも、その意外というのは正しいです。実は、民法では流質契約は禁止されているだけの話であって、ちゃーんと特別法である質屋営業法で、それはOKということになってます。法律っていうのはそういうヤラしいところがあって、民法なんかで、「そんなことをしてはダメだ」ってカタブツみたいなことを言っておきながら、実は特別法で、「そんなカタイことばかり言ってられない」という感じで、バンバンと民法の規定を塗り替えたりなんかしてるんだよな。ちなみに、流質契約は、債務の弁済期前に結んじゃうのがダメなのであって、債務の弁済期後に、代物弁済契約として補填策を講じるのは結構だ、ということになっているので、ご安心ください。

 質物は、転質ができます。転質とは、質権者が質物を、さらにほかの質権者に質入してしまうことで、転質には承諾転質と、責任転質があります。承諾転質では、もともとの質権設定者の承諾の上で転質がなされることで、その要件、効力はすべてその承諾の内容によって決するのに対し、質権設定者の承諾なしに、勝手に質権者がなす転質である責任転質では、その転質によって生じた損害は、たとえ不可抗力によるものであっても、質権者はその責任を賠償する責任を負います。また、承諾転質においては、たとえ転質の額が原質の額を超過したものであっても、必ずしも不法にはならないということを覚えておきましょう。

 さてさて、動産質権が消滅するとき、それにはどういう要件がいるのでしょうか?298条は、留置権に関する条文でしたが、そこには留置物の無断使用、または賃貸が行われたときに、留置権は消滅請求にかかるとあります。これは例の350条によって質権の契約に準用されますので、頭に入れておいてください。また、質権を根拠とする物の返還請求は認められません。物をカエセといいたいならば、353条にあるように、必ず占有回収の訴えによってなされる必要があります。したがって、質物を質権者の不注意によって遺失した場合、もしくは詐欺をされたりなどして物の占有を失ってしまった場合、質権者は法律によって一切の保護がされないので、質権者は、物の占有に関しては特に注意を払わなければなりませんね。

 ここまでで、ほとんど質権についてはオシマイです。最後に、不動産質と権利質の設定に関する決まりをザザッと説明して終わりにしたいと思います。まず、不動産契約は要物契約です。対抗要件は登記。動産の場合は何でしたか?占有でしたね。不動産が動産と特に異なる点は、動産ではできなかった目的物の使用収益が、民法356条で認められていることです。ただし、357条、358条は、いくら目的物の使用収益ができるとは言っても、管理費用は質権者が負担しなければならないし、また利息は取れないことを規定してありますので、これはぜひとも覚えておきましょう。

 

 ラスト、権利質。権利質の質権は、民法362条1項に書いてあるように、「財産権をその目的とすることができる」とあって、つまりこれは債権だとか株式だとかいう、いろいろな財産権上に成立する権利であると言うことができます。権利質である債権質では、差し押さえ禁止債権に質権をつけることは可能だけど、譲渡のできない債権については、質権を設定することができないんでしたよね?また、権利質の設定においては、要物契約性が修正されて、原則は諾成契約となっております。諾成契約とはなんでしたか?当事者の意思の合致だけで成立する契約のことでしたね。なぜそんなことになっているかというと、動産や不動産のように、権利質は目に見える物ではないからです。これを補う条文として、民法363条は、債権譲渡の際に証書を交付し、それを質権の目的とすることによってその効力を発する、という規定がありますので、権利質は諾成契約だというのは、あくまで原則であるとして記憶にとどめておけば良いかと思います。


 ちと長かったかと思いますが、以上が質権でした。そしていよいよ次回は、担保物権のオオモノ、抵当権です。これとその後の豆知識編が終われば、いよいよ民法は債権に突入することとなります。あともう一息って感じですね(*^ー^)ノ がんばりましょう。