先取特権 | 制限速度20~30km/h

先取特権

さて、担保物権編。留置権と同じく、法定担保物権である先取特権に移りたいと思います。


先取特権についての規定は民法303条にありまして、さっそく用語チェックといきたいのですが、先取特権とは、法律が定める特殊の債権を有する者が債務者の総財産あるいは特殊の財産から、一般の債権者に優先して弁済を受けることができることを指します。


なんでこんな制度ができたのかというと、例えば給料債権なんかを考えていただければわかりやすいかと思います。会社では、まずなにより、社員との契約関係をおろそかにするようなことがあってはなりませんから、月末に給料30万払うと約束したなら、ほかの予算などの何よりも優先して給料を支払わなくちゃなりません。他にも、共益費用のことなんかもいい例になりそうですが、この共益費用というのは、例えば時効取得されてしまいそうな土地を、太郎と次郎と三郎で共有していたとしましょう。太郎と次郎は怠惰な兄貴で、正義感にあふれた三郎は、「くそ、アニキたちは頼りにならないから、俺が人肌脱ぐしかない」と思い立って、自腹で所有権を主張する手続きにでます。やっぱり法律ってのは、義務を果たさず権利だけ主張するような人にはキビシイですから、こういう賢い三男坊には、当然に先取特権を与えてやるべきだってのが、民法の考え方のようです。


さて、先取特権の性質ですが、前にもお話したとおり、担保物権の性質は共通して不従性随伴性不可分性物上代位性があり、ただし留置権のみは物上代位性がないよってことは覚えていただけてるでしょうか。よって、先取特権にはそれらのすべてが備わっております。


先取特権は、その目的となる債権者の財産の種類によって、一般の先取特権特別の先取特権とに分けられます。


まずは一般の先取特権ですが、これは民法306条に列挙されています。

共益の費用

②雇用関係

③葬式の費用

④日用品の供給

これらの原因によって生じた債権を有数r者が、債務者の総財産について先取特権を有する、とあります。例えば、葬式の場合の債務者というのは、死んだ人のことで、葬儀費用を負担したものは、債務者の遺産に関して先取特権が認められるってことですね。なーるほど、って感じでしょ。雇用関係では、さっき例を挙げた給料債権なんかがそうですね。


次に特別の先取特権ですが、これは「動産を目的とする先取特権」と、「不動産を目的とする先取特権」の二種類に分けることができまして、前者の例としては、例えば動産保存や動産売買の先取特権などがあります。どういうことかというと、例えば私がアパートの経営をしていたとして、ある学生に家賃未納で逃げられたとするじゃないですか。「くそっ」と思って、がらんとした部屋を整理していると、ふすまの奥のほうに変な小箱が落ちていることに気づいた私。「なんだろう」と思ってその小箱を開けてみると、なんと驚いたことに、なかから高そうな時計がでてきたじゃありませんか。急いでその筋の友達に相談にいった私は、その時計に100万円くらいの価値があることを知ります。動産保存や動産売買の先取特権とは、つまりその時計に対する先取特権のことです。


じゃあ不動産を目的とする先取特権ってナニ?って話になりますが、これは単に動産が不動産になっただけです。例えば、山田さん家の建設を請け負った建設会社は、その家に対して先取特権をもちます。同様にして、不動産保存や不動産売買に関しても、同じように先取特権がついてまいります。たとえば不動産売買では、誰がイチバンに登記をしたかによって、その土地に対する先取特権が決まりますな。まあ、いまは民法の知識をサラッと概説するところに重点をおいているので、なんとなく、「ああ、そういうものがあるんだなあー」って思っていただきたければバンバンザイですヽ(;´Д`)ノバンザーイ


さて、ここでちょっと司法試験をニラんだ知識を紹介しておきます。


★不動産の担保権の順位

①公益費用

②不動産保存・不動産工事の先取特権(339条)

③抵当権・質権(次にやります)・不動産売買の先取特権

④一般の先取特権


★動産の担保権の順位

①公益費用

②質権・第一順位の特別先取特権(イチバン金を出した人が真っ先に弁済を受ける)

③特別の先取特権

④一般の先取特権


ポイントは民法329条2項にあるように、「一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する」ということになってます。あとは黒字の部分を覚えれば、先取特権の順位に関してはカンペキに暗記したことになります。


最後に、先取特権の具体的な効果について、おさらいもかねて知識を入れておきましょう。先取特権の効果というのは、ヒトコトでいえば優先弁済的効力です。さっきの建設会社の例で考えると、建設会社は山田さんがお金を払ってくれなかった場合、いよいよその家を処分することができます。これを、目的物の交換価値を把握する権利といって、仮にその家が家事によって燃えてしまった場合、建設会社は目的物の交換価値を把握することによって、山田さんの火災保険に担保権を行使することができるというワケですね。


また、民法333条によりますと、動産の先取特権には追求効が存在しません。これはどういうことかというと、例えば不動産なんかだと、いくら目的物が誰かさんのところへ譲渡されてしまっても、どこまでも優先弁済効を主張することができるワケですが、動産が売却されてしまえば、その先取特権はいともカンタンに消えてしまいます。おいおい、そんなんでいいのかよ、と思ってしまった人は、先取特権には物上代位性があることを思い出してください。よって、動産の売却によって消滅してしまった先取特権は、その売却によって生まれたお金に対して優先弁済効が発生するというカタチで、うまくフォローされているというワケです。


あと一般の先取特権の効力は、登記がなくても一般の債権者に対抗できますが、対抗力のある担保物権には劣後します。つまりそれはどういうことかと言いますと、さっき紹介した図をみていただければ理解しやすいかと思います。赤字が、対抗力のある担保物権です。


★不動産の担保権の順位

①公益費用

②不動産保存・不動産工事の先取特権(339条)

抵当権・質権(次にやります)・不動産売買の先取特権

④一般の先取特権


それに対して、特別の不動産を目的とする先取特権ですが、これは図でいうところの②に該当しますね。この特別の不動産を目的とする先取特権は、337条338条にもあるように、登記がなければその効力がありません。逆に、登記がありさえすれば、抵当権にすら優先するという強力な効果があります。


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今回はちょっと覚えることが多くてウワーってなっちゃいそうでしたが、まあ今は図だけ覚えておけばよかろうかと思います。次回は質権をやりたいと思います。質屋さんっていう言葉でもなじみがあるように、質権は先取特権よりずっとおもしろいと思いますので、楽しみに待っていてくださいネ(*^ー^)ノ