占有権その②(終わり) | 制限速度20~30km/h

占有権その②(終わり)

今回は前回やった占有権について、より細かい説明をしたいと思います。まず占有承継人についてですが、占有承継人とは文字通り「占有を受け継ぐ者」のことです。


民法187条1項:占有者の承継人はその選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。


民法187条2項:前の占有者の占有を合わせて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。


この条文は分かり易いので見ればすぐに理解できるかと思いますが、要するに占有を受け継ぐ時には、前の占有者の占有を受け継ぐかどうかは承継人(私)の自由ですよということです。ただし、仮に前の占有者の占有を受け継ぐとして、その占有に瑕疵があったならばその瑕疵さえも受け継いでしまうと。


呪い(瑕疵)のついたヨロイカブト(占有権)を受け継ぐとき、その呪いをもセットで受け継ぐか、それともお払いをしてしまうかってことですね。例えばAがある土地を善意で5年間無権限占有していたとして、その後占有承継人であるBがその土地を悪意で5年間譲り受けたとして、BはAの無権限占有の5年間(呪い)を主張することもできるし、主張しないこともできるというわけです。善意の場合の取得時効は10年で成立しますから(占有初期に善意でありさえすればいいんです)、BはAの無権限占有の5年間を主張することによって、見事その土地を所有することができるというわけです。


また占有の権利推定システムは時効システムと似ていて、186条2項には「前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有はその間継続したものと推定する」とあります。加えて同1項は、「占有は所有の推定は意思をもって、平穏公然善意であることを条件とする」とあります。


そして果実について。


民法189条1項:善意の占有者は占有物から生ずる果実を取得する。


民法189条2項:善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。


これも読んだまんまですね。これと関連して…


民法190条1項:悪意の占有者は果実を返還し、かつ既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。


民法190条2項:前項の規定は暴力もしくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。


これもまんま。つまり「この木苺は俺のものだ」と思って、山に生えてた木苺を木ごと引っこ抜いて庭に移植するのはOKということですね。でも後から「いや、それは私が植えたんですよ」とか言って山男が現れて、その人との争いに負けてしまった場合、こっちはもともと「人のものだとわかっていて木を引っこ抜いた」のと同じ扱いをされてしまうということです。そして、勝手に木苺をもっていっちゃった分の弁償は、しっかりと山男に対してしなければならない、そういうことですね。ここでもうひとつ、重要な条文を紹介します。


民法196条1項:占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要日を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得した時は、通常の必要費は占有者の負担に帰する。


民法196条2項:占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従いその支出した金額又は増加額を償還させることができる。ただし悪意の占有者に対しては、裁判所は回復者の請求によりその償還について相当の期限を許与することができる。(つまり悪意の占有者に「はやく金払え」っていわれたら、もともとの所有者は「もうちょっとまてよ」って云えるということ)


この条文の内容は通称「費用償還請求」と呼ばれ、悪意の占有者を保護する規定です。木苺を勝手に持っていった側にしても、やっぱり木苺の世話とかあるじゃないですか。場合によっちゃあ肥料なんかやったりして、普通に自生してる木苺なんかよりよっぽど発育がよかったり。だから、その分くらいは返せよと。なかには、「肥料は勝手にやったことで、元の占有者はそんなことされるのを望んでいないのでは?」と考える人もいるかもしれませんが、これって交番に届けられた落し物の財布に似てるんですよ。財布の持ち主がいくら「オセッカイだなあ」なんて云っても、現実に財布が拾われたことによって利益を得てるわけじゃないですか。費用償還請求というのは、つまり拾った分の10%の謝礼みたいなものなんだな。


最後に、占有訴権について説明をしておきたいと思います。


民法197条:占有者は次条から第二百二条までの規定に従い占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も同様とする。


民法198条:占有者がその占有を妨害された時は、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することが出来る。


民法199条:占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。


民法200条1項:占有者がその占有を奪われた時は、占有回収の訴えによりその物の返還及び損害の賠償を請求することができる。


民法200条2項:占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。但し、その承継人が侵奪の事実を知っていたときはこの限りではない。


民法201条1項:占有保持の訴えは、妨害の損する間又はその消滅した後1年以内に提起しなければならない。但し、公示により占有物に損害を生じた場合において、その公示に着手した時から1年を経過し、又はその公示が完成したときは、これを提起することができない。


民法201条2項:占有保持の訴えは、妨害の危険の存する間は提起することができる。この場合において、公示により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項但し書きの規定を準用する。


民法201条3項:占有回収の訴えは、占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならない。


民法202条1項:占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また本権の訴えは占有の訴えを妨げない。


民法202条2項:占有の訴えについては本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。


あー疲れた(;´Д`)ノ


これらの条文を端的な言葉で表すとすれば、占有の妨害排除請求権ですね。198条は占有保持に関する妨害排除請求権であり、199条は占有保全に関する妨害予防請求権200条は占有回収に関する占有返還請求権です。危険度の低い順に並べるとするならば、199条<198条<200条といったところでしょうか。199条、198条、200条の三条ともに、201条によって一年の権利行使期間の制限が設けられています。ちなみに占有権は物権ですが、この1年の期間制限のあるせいで、物権の特徴である物権的請求権(即時取得されないかぎり、どこまでも自分の物権を守るために相手を追及できる)ほど効果が強くないことを指摘しておきます。また200条2項但し書きは、悪意の承継人について規定してありますが、これには善意有過失も含むことができるんじゃね?との議論があります。しかし善意者ないしは有過失者への占有移転は、占有状態が平穏に落ち着いているからなされるのであると考えられるので、悪意には善意有過失は含まないとされています。


また200条のおもしろいところは、前のエントリーにも書いたように、自転車を盗まれた人が、町で偶然自分の盗まれた自転車が盗人によって勝手に乗られているところを、力ずくで取りもどしたら罰せられるという根拠条文となっていることです。202条を見てもらったらわかるように、占有の訴えは本権の訴えを妨げないし、逆もまた然りであると書いています。占有回収の訴訟に関して、自力救済をした側の人間は本権を占有回収に対する抗弁の根拠とすることはできないのです。厳しいようですが、自力救済ではなくて、ちゃんと民法200条の占有返還請求権を行使すれば、紛争は穏便に解決できるのですから仕方がありませんね(ノДT)


次回は所有権について勉強してゆきたいと思います(*^ー^)ノ 占有権、なかなかボリュームがありましたね。