引き続き、私が体験した〝犬の爪切りにより起こった出来事〟の話である

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2件目は、プードル

トイプードルのサイズで、ふつうの爪はやや細め

ただ、そのわんこは後肢に狼爪(ろうそう)という爪がある子だった

狼爪というのは、私たちで言えば親指にあたる指の爪のことで、前肢にはあるのが通常である

後肢にある狼爪は、マウンテンドッグなど岩場を歩くような犬種以外は認められておらず、通常は生後まもなく外科的処置により切除される

前肢の狼爪も、これまではプードルなどの犬種においては特にカット時のデザイン作りの妨げとなるため切除されている子が多かったが、最近では動物愛護の観点から切除しないブリーダーも増えてきた

今回の件のプードルは、後肢の狼爪を切除されるはずだったのだと思うのだが、獣医もしくはブリーダーのミスにより、指の根元まできちんと切除しきれず、爪を形成する組織がわずかに残ってしまったために、指はないのに細い爪だけが生えてくる状態になってしまっていた(←こういうケースは、ままあることである)

そういう場合の爪は本当に細く、裁縫の針くらいの太さしかないため、シロウトなら〝太い毛〟と見間違えそうになるほどである

もちろんそんな爪に通っている血管も〝髪の毛ほどの太さ〟しかない

しかもその子の細い狼爪は、かなり曲がって生えてくる形だった

細くプランプランでフック状に曲がった形状の狼爪は、まわりの被毛に隠れて分かりにくく、コームなどで引っ掛けやすいため、気付かずにもつれと間違えてごっそり引っこ抜いてしまう危険もある、かなり怖いシロモノである

おうちでのブラッシングの際に飼い主さんが謝って引っ掛けてしまう危険性もあるので、そのフック状のカーブがなくなる程度の短さまで爪をカットした

ところが、髪の毛ほどの細さの血管をギリギリカットして、その細さゆえ表面のわずかな血液がほんの小さな点状に固まっていたものが、お家に帰って飼い主さんがウエットティッシュで足をていねいに拭いたことでその断面が濡れ、再出血してしまったのだ

ウエットティッシュに含まれる成分の刺激も相まって(飼い主さん曰くアルコールティッシュで拭いたとのこと)、そのわんこは爪を舐め続け、わずかながらも出血が続いたため、白い被毛ということもあり、まわりについた血液が赤く目立って、発見した飼い主さんが慌てて写真とともにご連絡をくださった

写真を見るだけでは分からなかったので、お手数ではあったがすぐにご来店いただけるようお願いし、再び止血処置をして、万が一の時のために止血剤を少しお分けして、しばらくは濡らさないようにお伝えした

写真を見た感じでは、爪からの出血なのか他の箇所からの出血なのかが分からず、自分では気付かずハサミで怪我をさせてしまったのではないかとかなり焦ったが、お連れいただいて改めて見たところその細い狼爪からの出血だったので、私としては

「ケガじゃなくて良かった〜」

という思いだったが、

『出血=ケガ』と捉える飼い主さんであれば

「けしからん」

とお怒りになるだろう

軽く説明をして状況を理解してくださる飼い主さんばかりではない昨今では、これらのように起こりうるすべての可能性を初めからお伝えしなければならないようになった

あらゆるトラブルを未然に防ぐためには、分厚い約款を作成する必要がありそうだ

それを飼い主さんがすみずみまで読んでくださるのであればの話だけれど