私は中学生のころ、いじめられていた


あざができるほどの暴力を受けたり金銭を取られるような被害を受けたわけではないけれど、無視や陰口、不幸の手紙や黒塗りの年賀状、やってもいない器物破損の罪を着せられるなど、陰険でいつまでもいつまでも心にどんよりまとわりつくようなイジメだった


中学生なんて、自宅と学校と近所の公園以外ほとんど知らない人生、ましてや今のようにネット世界に逃避できる世の中ではなかった


クラスメイトや部活の先輩にことごとく存在を否定され、自分への自信など全く持てなかった


それでも人生をやめたいとは思わなかったのは、家族が私を愛し、必要としてくれたから


中でもいちばんの理解者は母親だった


勉強嫌いで「中学を卒業したら就職する」と言う私に


「高校は勉強だけするところじゃないよ、友だちもできるし、他にも楽しいこと沢山あると思うから、高校は行っといたら?」


と優しく諭してくれた


そのおかげで県立高校へ無事進学、そして卒業できた


けれど当時の私はすっからかん


勉強も嫌い


運動も苦手


顔立ちもイマイチ


愛想も良くない


何より、没頭できるほど興味のあることも特になかった


そんな折、母が手渡してきたのが、トリマー養成学校のパンフレット


幼いころから動物が好きで、近所の犬と同じ容器で犬を真似て舌でミルクを飲んだり、近所の犬に咬まれても懲りずに触りに行ったり、毎度のように野良猫を拾ってきていた私にふさわしいと思ったのだろう


さらに言えば、私が勉強嫌いなのでせめて手に職をと考えてくれたのかもしれない


(そんな勉強嫌いの私が十数年後、自ら大学受験を目指すことになるのだけれど、その話はまたいつか)


とにかく、私のことをいちばんよく分かってくれていた母の勧めでトリマーへの道を進むことになった


トリマーなんて犬を飾り立ててリボンをつけるだけの仕事だと、最初は生意気に構えていたのだけれど、入学して目の当たりにしたのは、想像もしないほど飼い主に放ったらかしにされている犬たち


ほとんどは可愛がられている子たちだったが、中には全身ノミだらけで痩せこけて貧血を起こし瀕死の状態の子や、耳の傷が膿んでウジがわいている子、体重が2kg程なのにお腹にハンバーグくらいの大きさの腫瘍ができている子もいた






飼い主は気づいていないか、気にもしていないか、はたまた治療費を惜しんでいるのか分からないが、当時の私はそんな犬たちを憐れみ、飼い主に憤りを感じた


そして同時に、こんな不幸な飼い犬たちをこれ以上増やしたくないと思った


頑張って勉強して無事ライセンスを取得し、1年生で学院長賞、2年生で優秀技術賞を受賞


経験を積み技術が身に付くにつれて、そしてさらに卒業後数々の資格を取得していくにつれて、かつて微塵もなかった〝自分に対する自信〟が心の隅に形作られていった


──────────────────


犬のプロになるための道を真剣に歩き始めてから早28年


この仕事をずっと続けてこられたのは『犬が好き』の、その向こうを知ることができたから


〝好き〟だけではつまらない


まだまだ先は続いている