〜ひとりごと〜少女の左手 | 伝えたい人、音にならない考え事

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演劇、表現活動での色々。独りよがりだけど伝えたい、そんな支離滅裂。

少女の左手

左手の爪を切った
右手はしょっちゅう切るけれど
左手を切るのはごくたまに
少女の右手はおそろしく不器用で
いつも深爪してしまうから

右手だけじゃない
少女はとても不器用だった
足も遅くて、いつも転んでばかりいた
性格も不器用
言いたくないことばかり言ってしまう
大切なことは言えずじまい

「あたりまえよ。あたしは不器用な人間だもの。」

少女の左手はとても器用
字を書くのも 物を食べるのも 楽器を弾くのも 全部左手
不器用な部分を補うように 少女の左手は美しく動く

「あたりまえよ。彼にもらった左手だもの。」

少女の左手は細くて美しくて、銀色だった
冷たい銀色の左手 その左手は
僕が彼女にあげたものだ
少女に出会った最初の冬
僕は彼女に左手をプレゼントした
どんな精巧な機械よりも滑らかに動き
どんな美人の指先よりも美しく

少女に左手をあげた日
僕はもう何も作るまいと誓った
少女の左手を 僕の最後の作品にしよう

人間らしく色を塗ることもできたのに
「銀色でいいの」
と彼女は言った
「銀色の方が綺麗だわ。それに、思い出すことができるもの。あなたが作ってくれたってことを。」

少女が死んで 葬式が行われた
火葬された遺骨に混じって
銀色に輝く左手があった
生きていたときと同じように銀色に
まるで生きているかのような左手
僕はこっそり、その左手を持ち帰った

それから、冬が何度か訪れる間に
僕は少女の肩を作った
僕は少女の胸を作った
僕は少女の右手を作った
僕は少女の首を作った
僕は少女の顔を作った
僕は少女の心臓を作った

たくさんの人が僕のことを忘れ
全ての人が少女のことを忘れた頃
僕は銀色の少女を連れて街へ出かけた
少女は全身ぴかぴかの銀色で
服も靴も銀色だった
銀色の少女は美しかった
だけど彼女の左手は 左手だけは
燃えかすのようにくすんだ銀色
僕は僕の最後の作品と
今も一緒に過ごしている

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