大奥、幕末に差し掛かってきたんで、ここでものすごい大転換をやってのけた。
以下、ネタバレ。


大奥でずっとメインテーマになっていた男性のみがかかる死病「赤面疱瘡」の克服についてだが、八代吉宗、九代、十代を支えた田沼意次の強い意向でついに人痘が発明され、大奥の若者から接種が開始され始める。
これには八巻から引っ張ってきた平賀源内(女)の縦横無尽の活躍があってのことだが、ここで田沼時代が終わりを告げ、平賀源内も退場となる。

子沢山で歴史に名を残した11代将軍はついに男性に!そうだよね、子供60人くらいいたよね、女性じゃ肉体的に無理だよね、納得だ。。。すごい伏線だ。
っていうか、赤面疱瘡の人痘が成功するまで田沼意次と平賀源内を生かしておいた、ご三卿の一橋家が怖えよ。極めて政治的になれば男も女も性差は関係ないのかなと思ってしまった。
で、大奥で蘭学(医学)を広げて、人痘の成功率を上げてきた青沼(日蘭ハーフ)が某大名家の御曹司が副作用で死んでしまったことを受けて死罪に。
あまりの不条理に青沼と一緒に医学を広めてきた大奥の人(名前失念)が、
そう、今までだったら女性キャラが叫ぶような男女の不条理を大声で叫ぶところがクライマックスだった。

この絶叫、ある意味では現代に通じる大きな大奥の転換点だと思うわけですよ。
現代のパラダイムでは、どうしても男性>女性となり、女性は常に男性に対して弱者であり、抑圧される存在でありうる。そうじゃないという人もいるかもしれないが、実際はそうだと思う。性的な機能がそもそもそうなっているし(ある種の虫のようにメスがオスを捕食はできない)、経済的にもそうなっている。女性管理職が少ないのも、同じ仕事をしていても何故か存在する給与格差も残念な現実だ。
その現実を「大奥」の世界では『男性のみがかかる死病』といううまい仕組みを作ることでひっくり返した。つまり、社会的・肉体的に女性が優位に立ち、男性を支配するという社会構造を作ってみせたわけだ。これは現実社会ではどこか抑圧されている女性にとって痛快なことだ。少なくとも私は男どもをバッサバッサと振り捨てて己の信じる道を突き進む将軍や幕閣のキャラクターにそのように感情移入してきたし、市井の女たちにも同様に思い入れを持って読んできた。とにかく現実ではあり得なかったことがここで「現実の歴史」として描かれているということが気持ちよかったのだ。

しかし、この10巻で物語は大きな曲がり角に立っている。
つまり我々が日々の暮らしで直面している男女の性差のまさに反転として、女>男の性差が明確に描かれ、それに堂々と叛旗を翻した者が現れたのだ。この巻のクライマックスの男の叫びがそれを端的に象徴している。現代の女性として抑圧される我々はこの男の叫びに心から共感すると共に、男性側からのある種の復讐・敗北を幻視してしまう。それは今まで「大奥」を読むことで味わってきた痛快感の裏返しだ。何らかの巻き返しが男性側から起こるであろうということ、それは女性にとって心地よい世界であった「圧倒的女性優位の世界」の崩壊を意味するのであろうということが予感されるからだ。

革命を忌避するのは常に既得権益を持っている者だ。この「大奥」の世界で男性がついに死病を駆逐したとき起こるのは、女性の徹底的な排斥なのだろうか。それとも、男性=女性という我々全員にとって理想でありうる明治維新が起こるのだろうか。

多分、そんなソフトランディングは起こらないんだろうと思いつつ、満足感と共に本を閉じた。
歴史は勝者によって改竄される。今までのメイン女性キャラ全員が男性名だったことを考えればこれもまた壮大な伏線の一つなんだろうなあ。。。
名前って呪いだからね、それが当たり前と認識してしまうとその固定観念からは逃れられなくなる。この世界では女が男名を名乗ることが当たり前とされてきたけど、これから幕末にかけて必ずその当たり前の観念に異議を投げかける者が出てくるはずだ。それが、黒船来航になるのかはまだわからないけど、続きが楽しみだ。