水野英子の描くロック漫画『ファイヤー!』と『ピンク・フロイド・ストーリー』 | プログレッシブBBSの思い出_ピンク・フロイドmemorandum

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〈ザ随筆〉での執筆記事も再録準備中.

2012-09-28 執筆開始
2012-10-07 コメント掲載後の加筆(末尾に記載)
2019-06-03 関連記事リンク追加(末尾に記載)

2019-06-03 歌詞リンクと対談記事リンクの修正

 

 

 

 

 







最近読んだ漫画その1
 

 

水野英子が1969年 - 1971年に『週刊セブンティーン』に連載した、ロックミュージシャンが主人公の漫画『ファイヤー!』。
73年に朝日ソノラマから全4巻で単行本化されて以来、いくつもの出版社から再版があったものの、いまはほとんどが絶版です。
99年に秋田書店から出た文庫の全3巻は、古本では比較的入手しやすいかもしれません。
秋田版と同様に、お値段的にもお手ごろというところでは、比較的最近出た電子書籍版もあります。

 
 
この、電子書籍版販売サイトにある、水野英子ロングインタビューが、なかなか読みごたえのあるものでした。

荒俣宏の電子まんがナビゲーター 第7回 水野英子編(その3 - 6) WebArchive版

このインタビューは、かなり長いです。その1(計6ページ)、その2(計5ページ)、その3(計6ページ)、その4(計6ページ)。
デビュー直後の作品のことからはじまるので、『ファイヤー!』の話題が出てくるのは最終コーナーに近いところ、その3 - 6からその4 - 2までです。
インタビューその3 - 6から、興味深いところを引用します。


水野    いわゆるロック・ジェネレーションね。ザ・ビートルズ(※23)が出始めたころは、私はクラシックの複雑な音楽を聴いていたので、ロックのリズムは単純すぎて、強烈だなとは思いつつも、のめり込むまではいかなかったんですね。その後から多様なロックが出てきました。

荒俣    そうですね、プログレッシブ(※24)とか。

水野    ピンク・フロイド(※25)とかいろんなものが出てきましたが、非常に複雑なフレーズの曲ができるようになってきました。そのあたりからのめり込み始めましたね。
 つまり、当時は、ロックはメッセージだったわけですよ。体制に反抗するメッセージだったんです、若者の。これは今までになかった時代だったんですね。
 そのころに、社会に対して不満を持っていたものがなぜだったのかというような社会構造が見えてきて、初めて私自身も目からうろこが落ちた時代だったんですね。
 で、ロックを絶対に描かかなければいけないと思ったわけです。


荒俣    ロックをがんがん聴きだしたわけですね。

水野    そう、家の中でがんがんロックをかけていました。
 ウォーカー・ブラザーズ(※26)という非常に美しいメロディーを奏でる3人のグループがいて、ヒットチャートにいつも出ていました。このリードボーカルのスコット・ウォーカー(1944~ ※27)のアルバムが別に出ていまして、朝はかならず何か音楽を聞いてから仕事を始める習慣だったんですね。
 そんなある日、だれもいない仕事場で、買ってきたままちゃんと聴いていなかった彼のアルバムをふと聴いてみたら、腰を抜かしたんです。
 「Plastic Palace People」という曲でした。
 これはばかヒットという曲ではないのでベストアルバムにも抜かされるケースが多いんですが、これが非常に抽象的な曲で、また美しい、本当に美しい。
 歌詞をいいますと、ビリーは風船を手に飛んでいく。屋根の上を越え、公園を越えて。下ではママが呼んでいる。ビリー帰っておいで、お願いだから降りておいで。ビリーは飛んでいく。公園の上を越えて、町の上を越えて。
 自由へのあこがれみたいなものですね。
 それから、突如リズムが変わるんですよ。プラスチック・パレスのアリスは――となって、なんと「不思議の国のアリス」が出てくるんです。



ここで語られている、スコット・ウォーカーの「Plastic Palace People」の内容は、『ファイヤー!』で主人公のアロンが、ギターを弾きはじめた頃に自分で作って歌う詞の雰囲気と、どこか通じるものがありそうです。
ふたたび、インタビューその3 - 6からの引用です。


水野    その前に、プラスチック・パレスの人々は音もなくささやき交わす。プラスチック・パレスの人々は音もなく歌う。
 それから、プラスチック・パレスはアリスのお話になって、バラの花が出てきたり、そういうアリス関係が出てくる。
 それから、また調子が変わって、ふたたびビリーの話になってビリーは空を飛んでいくわけですね。すべてのきずなから離れてという内容だったんです。


荒俣    そうですか。それで、『ファイヤー!』の中でも、主人公がうたう歌詞が非常に慎重に用意されているのですね。

水野    ええ。スコット・ウォーカーが当時の自分の歌に対する悩みとか孤独みたいなものを感じていたという話が結構伝えられていて、非常に好青年で、いいルックスだったんですよね。
 その曲を聞いて本当に頭をガツンとやられて、立ち上がれないぐらいのショックを受けたんです。
 それが『ファイヤー!』の主人公アロンのイメージになっています。


荒俣    なるほど。その衝撃が発端でしたか。

水野    そうやって生まれたのが、アロンを主人公にしたロック音楽のまんがです。
 彼は、純粋に生きようとすればするほど、周囲とぶつかるしかない。結局は破滅するしかない。
 そういう生き方でも、とにかく進まなければいけない。
 その思いが当時の私と同じだったんですよ。だから、描かなければいけなかった。


荒俣    若者文化自体がちょうどそういう時期だったですからね。

水野    ええ。


ここで語られている、スコット・ウォーカーの「Plastic Palace People」。初めて聴きました。

 http://youtu.be/BfgjlBR--uA (06:08)
歌詞 https://lyrics.fandom.com/wiki/Scott_Walker:Plastic_Palace_People
 

『ファイヤー!』には、随所に歌うシーンがあり、そこにはたいてい水野英子オリジナルの歌詞が登場しています。厳密にいうなら歌詞の一部ですが、作曲編曲の才能がないわたしでさえ思わずメロディが浮かんでくるほどの、胸に迫るフレーズなのです。
 
荒俣宏の電子まんがナビゲーター 第7回 水野英子編は、〈その4〉に移ると、水野英子が連載の前の年に自費で渡航して、アメリカやイギリス、イタリアなどに取材したときの様子が、くわしく語られています。そちらも、たいへん読みごたえの深いものでした。




■ 最近読んだ漫画その2
 

11

 

1974年に創刊された隔週刊の雑誌『FMレコパル』の連載〈ライブコミック〉。70年代80年代の漫画家たちが、海外のミュージシャンについて伝記風に描いた20ページ前後の短篇連作です。
このシリーズのなかに、水野英子作画のピンク・フロイド・ストーリーがあります。

タイトルは『PINK FLOYD


1978年初期の号なので、フロイドのアルバム『アニマルズ』がリリースされた頃までのタイムラインです。
惜しいことにページ数が限られていて(計16ページ)、最初のほうはコマ割のストーリーなのですが、途中からは1ページ大とか見開きとかのイラストストーリー風になっていきます。
でも、水野英子のナレーション風の言葉が、どのページからも、詩のように胸に響いてきて、イラストも繊細かつダイナミックな水野ワールド全開です。

 

22

 

44

 

この〈ライブコミック〉のシリーズの一部は単行本化されたそうですが、『PINK FLOYD』は収録されなかったようです。
現在は絶版で入手もかなり難しそう。
でも、連載のリストを作っているサイトがあります。
掲載号と作画者、ミュージシャンの一覧を見てみたい方は、ぜひどうぞ。
87年頃まで続いたこの連載、70年代の作画者はほとんどが小学館のビッグコミックに描いている漫画家ですから、少女漫画家の起用がめずらしいケースだったこともわかります。
 


これが水野英子『PINK FLOYD』の掲載誌。二週間分のFM番組表が巻末にあり、オーディオ関係の記事や広告がたくさん載っていました。

 

 

 

 


2012年10月7日の主な改稿箇所:(コメントをいただいた時点では記されていなかった事柄)

スコット・ウォーカーに関する記述と『ファイヤー!』感想を追加
水野英子ロングインタビューへのリンクとそこからの引用を追加
スコット・ウォーカー
「Plastic Palace People」音曲および歌詞リンクの追加
ライブコミック『PINK FLOYD』掲載誌画像の追加と入れ替え

ライブコミック感想の追加
ライブコミック掲載リストのリンク追加

 


 


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