前回、日米の食品スーパーの比較を行った。それによると、日本のスーパーは卸売業のおかげで、在庫の日数が極めて短いため、米国のスーパーのようにキャッシュで苦労をしなくて済む。それもひとつの要因となって、収益性も日本のスーパーのほうが高い。これらは、世間一般で考えられていることとかなり違うものである。


さて、今回は日米の大手スーパーにおいて同様の比較を行う。これによって、日本では構造的に大手スーパーによる寡占化が進みにくいことがわかる。


まずは、前回同様、日米のキャッシュ・ギャップ(以下CG)を比較してみよう。ウォルマートのCG9.5日であるのに対して、イトーヨーカ堂は8.4日であり、イオンは-6.1日となっている。つまり、日本の2社のほうがキャッシュの回収期間が短く、イオンに至ってはキャッシュが余る形になっている。なお、データは、ウォルマートは連結の値を用いて、イオン、イトーヨーカ堂は総合スーパーの値を用いて比較している。ただし、イオンは09/2期より決算仕分けを変更しており、08/2期の数値となっている。


日本のほうのキャッシュに余裕がある要因は、前回説明した食品スーパーと同じで、在庫日数が短いことによる。ウォルマートの在庫が44.8日あるのに対して、イオンは31.8日、イトーヨーカ堂は26.6日である。どちらも食品スーパーより長くなっているが、これは扱い商品の差によるものであり、食品以外の商品はもともと回転率が低い(在庫日数が長い)ためである。また、日米の差はやはり前回の分析同様、日本の加工食品卸売業に加え日用雑貨卸売業のロジスティクス(以下LG)技術が高度なことに依存する部分が大きい。


一方、イオンとイトーヨーカ堂のキャッシュ・ギャップにも大きな差があるが、これは買掛金の回転日数の差が主因である。イオンの買掛金の回転日数が43.3日であるのに対して、イトーヨーカ堂は23.5日とほぼ半分である。買掛金の回転日数が長ければ、支払いが遅くなるので、支払い側とすると有利であるが、販売側にとっては支払条件が悪いわけであるから、取引価格に織り込もうとする。つまり、買掛金の回転日数は単純に長ければいいというものでもない。結果から言えば、実はイトーヨーカ堂のほうがキャッシュ面で余裕があるとも言えるのである。


さて、日米比較に戻ってみると、大手スーパーでも、やはり日本のほうがキャッシュ面では有利であった。しかし、ここで、営業利益率に目を転じてみると、ウォルマートは5.5%であるのに対して、イオンは1.6%、イトーヨーカ堂は0.7%と圧倒的な差ができている。なお、イオンの値は08/2期、イトーヨーカ堂は09/2期であり、両社とも09/2期に業績が悪化しているので、実際はイオンとイトーヨーカ堂にはほとんど差がないと考えられる。前回の食品スーパーの日米比較とは逆の結果となっているが、世間ではこちらのほうの差を比較して、日本の小売業の収益性は低いと論じることが多い。


日米の大手スーパーを比較すると、日本のCGが優位にもかかわらず利益率が低くなっている。これは、一体どういうことであろうか。


この理由は、現実に競争している、同じ国内企業同士で比較してみるとよくわかるのである。まず、米国を見よう。ウォルマートと食品スーパー3社のCGを比較すると、ウォルマートが9.5日、食品スーパーが10.7日とウォルマートのほうが1.2日短いのである。そもそも、ウォルマートと食品スーパーでは食品のウエイトが異なり、本来資金回収が早いはずの食品のウエイトが高い食品スーパーのほうがCGは有利なはずである。ところが、ウォルマートのほうが有利ということは、これこそウォルマートの企業力なのである。ひとつは、ロジスティクス技術であり、また商品開発力も勝っているということであろう。ワンストップ・ショッピングの優位性を顧客に提供しながら、食品のみを扱うスーパーをキャッシュ面で凌駕しているということである。それゆえ、米国ではウォルマートの収益性が高くなっていると考えられる。


一方、日本を見るとどうであろうか。食品スーパー3社のCGに対して、イオンは8.2日長く、イトーヨーカ堂に至っては22.7日も長くなっている。そして、営業利益率は食品スーパーの5.1%に対して、イオンは1.6%、イトーヨーカ堂は0.7%と大きく見劣りするものである。つまり、日本の食品スーパーは出店においてもキャッシュの制約が少ないが、総合スーパーは制約条件が厳しい。そのため、イオンは総合スーパーでも売上対比9%近い有利子負債があり、連結では何と23%も有利子負債を抱えているのである。


しかも、大手総合スーパーは大きな本部機構を抱えており、マーチャンダイジング(以下MD)やLGに注力している。一方、小さな本部機構の中小スーパーに対しては、卸売業が高度なMDLGを供給するので、機能面で見劣りしない。よって、日本では総合スーパーより、地域密着型の中小スーパーのほうが勝ち組となるのである。


もちろん、日本では大手総合スーパーも卸売業を使っているのであるが、自社でも大きな本部機構を抱えているため、卸売業の持つ高度な機能を生かしきれないのである。もう一つの理由は、ここで取り上げた加工食品卸売業は、日用雑貨卸売業と並んで機能水準が高い。しかし、総合スーパーが扱うそれ以外の商品には高い機能を持った卸売業が少ないため、食品スーパーに大きく見劣りすることになるのである。


ここまでの解説でわかるように、小売業の収益性は日本より米国のほうが高いと多くの人が思っているが、実際は全く違うのである。つまり、米国では勝ち組のウォルマートの収益性を代表指標として、日本では負け組みの総合スーパーを代表指標として比較しているのである。公平に考えれば、そんなばかな比較の仕方はない。そのため、ウォルマートは勇んで西友を買収し、日本に参入した。つまり、イオンやイトーヨーカ堂になら勝てると思ったのである。しかし、イオンやイトーヨーカ堂に勝つことは意味のないことなのである。


この背景に卸売業の存在があるのであるが、彼らにはそれがどのような意味を持つかはおそらく一生理解できないであろう。だから、他のどんな国で成功しようと、ウォルマートは日本では成功できないのである。すでに、日本に参入して10年近く経つが、そんなに遠くない将来撤退ということも視野に入ってこよう。


以上が、卸売業という存在があるゆえの日本の食品流通市場における市場特性である。おそらく、大多数の読者にとって、今までの考えを覆すものではないかと思われる。そして、このような市場構造を理解しておくと、株式投資を極めて有利に進めることができるのである。


次回は、このような市場構造論に基づいて、どう株式投資に結びつければ、高いリターンが得られるかということを解説しよう。

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