puranaria

山本文緒さんの直木賞受賞作の短編集です

以前、山本文緒さん自体はご紹介したとは思いますが、今まで私が読んできたのは長編ばかりでして、今回、手にした短編集を読み、新境地という訳ではないですが、彼女の新しい魅力に気が付いた思いです


今まで私が読んできた山本文緒作品に対するイメージは

重厚なタッチ

葛藤し苦悩する主人公

例えるなら出口の無い迷路

哀しく救いの無い問題に逡巡させられる、そんな感じですね


しかしながら、今作は冒頭にも述べたように、彼女らしさを残しつつもまた、一味異なる出来になっているかと思います


御託はひとまずこれくらいにして、作品について、少々、触れてみたいと思います


内容は表題作である『プラナリア』、離婚後の女性の生活を描いた『ネイキッド』、家計を守るために苦悩する主婦を題材にした『どこかではないここ』、長年、付き合ってきたカップルの腹の探り合いと打算的な様相を描いた『囚われ人のジレンマ』、そして不自然な形の真っ直ぐな愛を書き綴った『あいあるあしたへ』の5作品


『プラナリア』では、主人公の苦悩と周りの認識とのギャップや、思い描いていた人物像と大きく異なる密かに憧れていた人の実像、そして社会復帰を果たせない自分への嫌悪の中、自暴自棄になりつつも、気力も無く流されるように生きていく様を描ききってます

短編集でありながらも、ここまで深く書ききるあたりはさすが、山本文緒といったところか


『ネイキッド』では、離婚後、それまでの生活から逃げるかのごとく、隠遁とした生活を送る主人公に物語りは描かれ、その中で、仕事をしなければと、強迫観念に駆られ苦しみ、また、自分の思いを人に伝えられないもどかしさの中でもがき、さもしいと前夫に自己を否定されたことを引きずる

そして、全てを見失ってしまった人間の様が見事なまでに描写されていますね

もう、ちょっと、背中が寒くなる思いです


『どこかではないここ』ではごくごく普通の主婦が少しずつ狂い始めた家庭での姿を描いた物語なんですが、これは結構、ヘビーですね

扱う題材的に言えば、今作がこの中ではいちばん、リアリティーのある舞台設定であるのにも関らず、その内容たるやいなや…

主婦の苦悩は計り知れないものがありますね、ホントに

皆さん、奥さんに、お母さんに優しくしましょう


『囚われ人のジレンマ』では、長年付き合ったがために、また、心理学を専攻した者同士がために、自分の思うことを自分以上に相手に理解されてしまう

以前、『サトラレ』という映画がありましたが(泣ける映画です、見て損無し!)、ホント、気持ちが伝わり過ぎる、相手の考えることが解り過ぎるって、辛いですね

もう、読むに堪えない!と、思うんですが、続きを読んでしまう辺りは山本文緒マジックか


『あいあるあしたへ』では、ここまで山本文緒作品に打ちのめされ、疲れきった心を救ってくれる一品です

こんな書き方をしてしまうと、ハッピーエンドだと思われるかもしれませんが、その通り、ハッピーエンドです(笑

そりゃ、ネタバレだと、怒られるかもしれませんが、この秀作を伝えずにはいられず、想いそのままに感想を書いてみたく、悩んだ末ということでご了承いただければ幸いです

まず、何より、山本文緒さんにしては珍しく(私の読んだ中では始めて?)主人公が男性で脱サラした居酒屋店長

そんな店長のこじんまりとした居酒屋で辻占いのようなことをする少し変わった女性との恋愛模様を描いているんです

そしてその主人公には離婚歴があって、脱サラをするきっかけになっているんですが、心身ともに苦しい仕事も堪えられるのは家族のためで、そんな家族を失った今、そんな仕事をする意味が無いと、サラリーマンを辞め居酒屋の店長へと

もちろん、今の恋人に対してのエピソードも見せ場たっぷりにあるんですが、すごく不自然な形の愛を愚直に不器用に守る

そんな男の姿が熱く熱く描かれていますね

ブルーになりそうな作品が続いた中、もうホント、救いですね



もうね、どれもこれも短編集ってこと、忘れちゃうくらいの出来ですよ

肉厚なストーリーに魅力的な登場人物

もう、これは必読でしょう

ただし、この本を読んで鬱になっても私は責任を取りませんので悪しからず(笑