本当はパイネ国立公園に一泊する予定だった。
が、パイネに泊まろうとする俺を引き止めたものがある。
生ペンギンだ。
生ペンギンというと、ちょっと生々しいので、言い換えると、野生のペンギンだ。
誤解のないように言っておきたいが、ペンギンが引き止めたのではなく、ペンギンへの飽くなき魅力が・・・って説明しなくていいか。
ここ、チリ南部のパタゴニアは南極にも近く、10月~3月の産卵シーズンに、ここらの島や草原に上がってきてはペンギンが産卵をすることでも有名な場所だ。
サンチアゴからの飛行機が発着する、プンタ・アレナスの街からも、いくつかのペンギンツアーが出ていて、それに参加しようと思って、今回パイネで一泊するのを変更したのであった。
朝。
ちょっとした事件が俺を襲う。
いつも通り6時半に起床し、コンタクトをつけようと、洗面台に向かう。
蛇口をひねると、栓と一緒に土台も回るため、なかなか水が出ない。
さすが、安宿だ。
しかし、そんなことは毛ほども気にしない。
旅を開始してから4ヶ月、もう俺はおこちゃまバックパッカーではないのだ。
土台を左手で持って、右手で水を出し、顔を洗う。
右手で栓を締めて、コンタクトをつけようとした瞬間、コンタクトがうまくはまらず、ポロッと下に落ちてしまった。
あー、落としちゃったよーと思い、探そうと下を見た瞬間、水がこっそりとひそやかに流れていた。
栓が上手く閉まっていなかったのだ。
憐れ俺の右目のコンタクトは、プエルトナタレスの安宿の排水溝に流されてしまった。
そして、とても残念なことに、代えのコンタクトは、サンチアゴに泊まった時の宿に、どうせ帰るから、という理由で別の荷物と一緒に、カギをかけて置いてきてしまっていたのだ。しかも、メガネも使わないだろう、と思い、一緒に置いてきてしまっていた。
うん、とっても残念な俺♪
・・・無くしてしまったものは仕方がない。両方はずしてもいいのだが、見えなすぎるのも怖い、と、いう理由で、片目はコンタクトを入れたまま、もう片方は裸眼、と、今日の俺はモノが2重に見える状態のまま、観光をすることに。
3泊したゲストハウスの、ひぃおじいさんが日本人かもしれない、という、確かにちょっと日本人の顔つきを持ったチリ人オーナーにお礼をいい、宿を出て、バスで3時間、マゼランペンギンツアーの出発地で、且つ、サンチアゴへ向かう空港がある街、マガジャネス州の州都プンタ・アレナスへ向かう。ちなみにマガジャネスはかの有名なマゼランのことである。
朝10時のバスに乗ったので、昼過ぎに、プンタ・アレナスの街に着く。
ヒマなので、その場をうろついていると、韓国の超有名インスタントラーメンである、辛ラーメンのポスターを貼りまくっているお店を発見。
そういえば、ラーメン食いたいな・・・と思った俺は、迷わずそのお店へ。
齢60歳も過ぎたであろう、自称貿易商の韓国人オーナーと、英語、韓国語、日本語、スペイン語の4ヶ国語を織り交ぜて話す。
同じ事をいろんな国の言葉でしゃべれるというのは、かなり面白い。もっといろいろな言葉を学びたいなぁ、と改めて思う。
腹が減っていたので、卵入り辛ラーメンを2つ平らげた。
インスタントラーメンのくせにやたら美味い。
余談だが。
旅行をしていて、何が一番、恋しいですか、と聞かれたら、俺は迷わずラーメン、と答えるだろう。
味噌汁でも、白米でも、寿司でもなく。
・・・寿司は意外と、世界のどこにいても食える。
ウィーンなんて、1ブロックごとに寿司屋があった。
そんなの日本でもなかなかお目にかかれない光景だぞ。
寿司はもちろん素晴らしいが、日本のラーメンクオリティは本当に素晴らしいと思う。もっと流行ってもおかしくない。
ギリシャの寿司屋で半分くらいのギリシャ人がやきそばを食っていたくらいだから、次なる世界的な日本食ブームは同じ麺系のラーメンが鉄板だと思う。
・・・話が完璧にそれたので、元に戻そう。
ネットが使えそうだったので、無線LANを使わせてもらう。
使ってもいい?と聞くと、いいよーと気のいい返事をするオヤジ。
気のいい人だなぁと思ったら、最後にちゃっかりネット代込みの値段を請求された。
ちっ、請求するのかよ。
まぁいいけど。
その後、ペンギンツアーのオフィスに行き、とうとう夢のペンギンツアーが始まった。
プンタアレナスから約60Km、時間にして約1時間の道のりだ。
市街を走りぬけ、郊外のパンパエリアをかけぬけるミニバス。
連日続く光景に、新鮮味はなくなってきてはいたものの、本当にパンパが多いエリアなんだなぁと思う。
そのうち、遠くに海が見えるエリアにたどり着いた。
車を降りると相変わらずの物凄い風。
氷河の近くではないが、海が近いため、けっこう冷える。
あまりにも冷たい風が吹き抜けるため、ウインドブレーカーのフードを被り、サングラスをしていざ出陣!
しばし強風の中を歩く。
遠くで小さく、黒い影が、確かにうごめている。
ん・・・あの遠くでヨチヨチうごめく感じは・・・??
ペンギン、キーター!!!
なぜか、猛ダッシュで海へ向かうマゼランペンギン。
すぐにその姿が見えなくなるが、初めて見る野生のペンギンに興奮する俺。
そして、見晴台に移動し、上から草原のペンギンたちを見下ろすと、いるわいるわ・・・その後、ビーチに移動し、大量にいるペンギンたちの観察をしばし堪能する。
水辺に入って、チャプチャプ進んでいくペンギンなどに1人で萌える。
やはり、小動物はかわいい。
よくよく観察していると、ペンギンカップルの中にも色々な種類のカップルがいることに気付く。
尽くす型(よく見ると相方のグルーミングをしている)
独立型(自分のことは自分で)
いや、鳥類も、人類も似たようなもんだなぁ、と思いながら、ペンギンツアーを他の誰より満喫する俺。
約1時間、ペンギン観察を楽しんだ後、帰る道すがら、囲いがある遊歩道のすぐ側に、一匹だけ、群れからはぐれたペンギンを発見。
あまりの距離の近さに、俺、大興奮!
寒さで風邪を引いたのか、たまにはっくしゅん、というくしゃみをするペンギン。
これはマジだ。
俺もあまりの寒さと風に、涙が出たり、鼻水が出そうになったが、こいつはモロに鼻水を垂らしている。
マンガかっ!!
鳥類も人類も同じ、動物なんだなぁ、、、とヘンなところで感心する。
と、ふと我に返り、人生に又とないチャンスだ、と思い、ペンギンを激写、激写、激写!!
やつもこっちに気付いたのか、ちょっと愛想を振りまいてくる。
きゃわいいなぁ~こっちおいで~!!萌えまくる俺。
ポーズをとるマゼランペンギン。
どうやらカメラに興味を示したらしい。
なんだろなー。
・・・と、みせかけて、
シャーーーーーーッ!!!
ギャーーーーーーー!!(俺)
ビビってあやうくカメラを落としそうになる俺。
かわいい、かわいいと思っていたペンギンだが、やつも鳥類の一種だという事を忘れていた。
あの、愛らしくて、かわいくて、みんなのアイドルであるあのペンギンが、一瞬、凶悪なカラスの顔に見えた。
まさか、ペンギンに恐怖を覚えるとは・・・さすが、野生のペンギンは一味もニ味も違うぜ・・・!
その後は、何事もなかったかのようにしらばっくれるマゼランペンギン。
挙句の果てには不貞寝の様相。
さすが、飼いならされて人間のしもべとなった動物園のペンギンとは違う・・・。
いやはや、それにしても、ペンギン観察にいって、まさかペンギンに襲われるとは・・・
レアな出来事だった。
少なくとも、俺は今までペンギンに襲われた人の話を聞いたことがない。
ペンギン=時には人を襲う、という方程式として、この出来事は俺の脳裏にインプットされた。
時間もあまりなかったので、数枚を写真に収めた後、車へと戻る。
車に戻った後、ドライバーがみんなのために、ピスコサワー(ブドウの蒸留酒)を用意してくれていた。
寒い体にピスコサワーを飲んで、ちょっと体があったまる。
そして、サンチアゴに向かうため、そのまま空港に立ち寄ってもらい、ツアーで知り合ったみんなとはお別れ。
・・・今日のペンギンの顔は一生忘れない(忘れられない)。夢に出ない事を心から祈るばかりだ。
そんな事を思いながら、パタゴニア最後の夜は更け、サンチアゴ行きの飛行機は飛び立っていくのであった・・・。














