こんにちは、HALです。
今日は、これから赤ちゃんが生まれる方、赤ちゃんが生まれたばかりの方、ご家族の方に「ケイツーシロップ」のお話をしたいと思います。
ケイツーシロップってなあに?
ケイツーシロップは商品名で、中身は「ビタミンK」というビタミンの一種が入ったシロップです。
ビタミンKの中でもビタミンK2が入っているので、そのままK2→ケイツーシロップ、という名前がつけられています。
ビタミンKってなあに?
ビタミンK? というと馴染みがあまりないかもしれません。
実は人間の体の中でとても大切な働きをしています。
みなさんの血管の中には血液が流れていますね。
でも、例えば鼻血を出した時、しばらくするといつの間にか血が出なくなります。
また、外に出た血はどろっと固まるのを知っているかもしれません。
実はこの血液、必要な時には固まるように、でも血管の中では固まりすぎないように、非常に絶妙なバランスをとっています。
ビタミンKは、その血が固まるのにとても重要な役割を果たしています。
しかし、その大切なビタミンK、生まれたばかりの赤ちゃんでは不足しやすいのです。
どうして赤ちゃんはビタミンKが不足しやすいの?
ビタミンKが不足しやすい理由はいくつかあります。
一つ目は胎盤移行性が悪いことです。
赤ちゃんはお母さんからいろいろな栄養を受け取って生まれてきますが、ビタミンKは胎盤から赤ちゃんにあまり受け渡すことができません。そのため、赤ちゃんは元々ビタミンKがあまり体の中にない状態で生まれてきます。
二つ目は母乳の中にビタミンKがあまり含まれないことです。
母乳には様々な栄養が入っています。しかし、お母さんが頑張ってビタミンKのある食事をたくさん食べても、全く増えないわけではありませんが、母乳の中には赤ちゃんに十分な量のビタミンKが分泌されにくく、また個人差も大きいです。
三つ目は赤ちゃんの腸が未熟であることです。
ビタミンKは食べ物から摂取できますが、実は腸の中にいる細菌も作っています。しかし、赤ちゃんの場合、この腸の細菌が未熟なため、十分なビタミンKを作ることができません。
他にもいろいろありますが、これらの理由が重なり、どうしても赤ちゃんはビタミンKが不足しがちなのです。
ビタミンKが足りないとどうなるの?
ビタミンKが足りないと、上手に血を固めることができなくなります。
血が出た時に、止めることができなくなるんですね。
そうするとどうなるか。
赤ちゃんの場合、出生後7日目までに多いのは消化管出血で、血を吐いたり、便に血が混じったりします(新生児ビタミンK欠乏性出血症と言います)
生後7日を過ぎた後(3週〜3ヶ月)に起こるのは乳児ビタミンK欠乏性出血症と言って、8割は頭の中で出血します。頭の中だからとても大変です。過半数の赤ちゃんは死亡するか、重篤な後遺症を残します。
もしビタミンKを補充しなかった場合、母乳栄養児の300人に1人が出血のリスクが高い状態であるという生後1ヶ月時点のスクリーニングテスト結果7)があります。
また、乳児ビタミンK欠乏性出血症は4000人に1人、母乳育児の方だけで言うと1700人に1人に起こるという全国調査結果4)8)があります。
ケイツーシロップでビタミンKの不足が防げるの?
ケイツーシロップは、最初に説明した通り、ビタミンKの入ったシロップです。
これまで多くの施設で行われてきたのは、哺乳開始時(生まれてすぐ)、産科退院時(1週間ごろ)、1ヶ月検診といったタイミングでケイツーシロップを飲ませる合計3回のやり方です。
この3回ケイツーシロップを使うことで、新生児ビタミンK欠乏性出血症はほぼ完全に防ぐことができ、乳児ビタミンK欠乏性出血症は5万人に1人(使わなかった時の10分の1)に起こる程度まで防ぐことができます。
最新のケイツーシロップの飲ませ方
これまでのやり方でもかなりの効果が認められていますが、それでもビタミンKが欠乏することで命を落とす赤ちゃんがいます。
この、ビタミンKを補えば防ぐことができる赤ちゃんの病気をなんとか予防するため、様々な研究が重ねられてきました。
その中で、13回法と呼ばれる、哺乳開始時、産科退院時(1週間ごろ)、そしてそれ以降乳児ビタミンK欠乏性出血症が起こりやすい生後3ヶ月まで1週間に1回、合計13回飲ませる方法を行なった場合、乳児ビタミンK欠乏性出血症は起きていないことがわかりました。
そのため、日本小児科学会をはじめとした各種学会等(日本小児科学会、日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児医学会、日本産婦人科・新生児血液学会、日本新生児成育医学会、日本小児科医会、日本小児保健協会、日本小児期外科系関連学会協議会、日本産婦人科医会、日本看護協会、日本助産師会、日本助産学会、日本外来小児科学会、日本小児外科学会、日本胆道閉鎖症研究会、日本母乳哺育学会! オールスター揃い踏みですね)が2021年11月に「新生児と乳児のビタミン K 欠乏性出血症発症予防に関する提言」1)を出し、その中で
哺乳確立時、生後1週または産科退院時のいずれか早い時期、その後は生後 3 か月まで週 1 回、ビタミン K2 を投与すること
と、これから13回法をやっていきましょう、という提言を出しました(もう一つ提言はありますが、今回は長くなるので割愛します。母子手帳便色カードを活用してね! というこちらも大変大切な内容になっていますので、一度母子手帳をご確認ください)。
ですので、この提言が出てから徐々に13回法が浸透してきています。
そのため、
「あれ? なんか今回ケイツーシロップを渡されたけど、上の子の時にはなかったような……」
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、赤ちゃんをよりしっかり守るためなんだな、と思っていただけると嬉しいです。
(赤ちゃんを粉ミルクメインで育てている人の場合、粉ミルクにビタミンKが含まれているため、1ヶ月検診以降飲ませなくていいと指導されることもあると思います。主治医の先生の指示に従っていただければ幸いです)
ケイツーシロップ、飲ませても大丈夫?
中には、「こんなに何回も母乳やミルクじゃないものを飲ませても大丈夫?」と心配される方もいるかもしれません。
ケイツーシロップは、赤ちゃんに飲ませると多く感じるかもしれませんが、1ml。とても少ない量のシロップです。
この中に含まれるビタミンK2は2mg。つまり0.002g、あまりに少ない量ですね。このままでは飲ませるのが難しいので、赤ちゃんに飲ませやすい量&飲ませやすい味のシロップにする必要があります。また、食中毒を起こしたり、保管しているうちに変性したりしないために、いくつかの添加物が加えられています。
それぞれの添加物はもちろん安全性が確かめられていますし、量も微量です。
添加物としては"安息香酸ナトリウム、クエン酸水和物、ゴ マ油、水酸化ナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステル、 D - ソルビトール液、パラオキシ安息香酸エチル、プロピ レングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、 香料"があります5)。名前だけ見ると随分仰々しいですね、それぞれの物質をもし検索すると「毒性がある!」と書かれているものもあると思いますが、大切なのは「量の概念」です。
どんなものでも、量が増えれば毒になります。例えば、塩も大量に食べれば人は死にます。しかし、少量の塩は……美味しいですね。
大切なのは、効果は得られるけど害がない「量」を使うことです。
医薬品に使う添加物は、日本薬局方3)で
用いる添加剤はその製剤の投与量において薬理作用を示さず,無害でなければならない.
とされており、安全な量を確認した上でお薬になっています。
それに、1984年に作られて以降、多くの赤ちゃんが飲んできました。これを読んでいるみなさんの中にも、「飲んだよ!」という方がたくさんいらっしゃると思います(もちろん覚えてないと思いますが……)。
みなさん、元気ですね(元気の幅はあると思いますが)。
大丈夫ですよ。
なにより、ビタミンKを補うことで救える赤ちゃんの命があります。
確認されていない、もしくは目に見えないほどのリスクと、確実とされているベネフィット(赤ちゃんの命)を比べると、私は、赤ちゃんの命を選びたいと思いますが、いかがでしょうか。
赤ちゃんのためにケイツーシロップを
赤ちゃんの命を奪う頭の中の出血の原因がビタミンKの不足とわかり、ケイツーシロップが作られたのが1984年。その後どうやって飲ませたらいいかと言う提唱が出たのが1989年。
そのため祖父母世代の方には馴染みがなく「私たちの頃にはそんなものなかったのに……飲ませて大丈夫?」と心配されるかもしれません。
しかし、ここまで読んで下さった方は胸をはって、その理由とともに「大丈夫だよ」と言えるのではないかと思います。
産後の怒涛の生活の中、手元にケイツーシロップはあるけれどこれは結局なんなんだろう……という方、少し安心していただけたでしょうか。
また、これから赤ちゃんが生まれるよと言う方は、お産の後の疲れ果てた時に「ケイツーシロップというものがあって……」というお話をされても、「あ、この前なんか見たやつだな」と思っていただけるのではないかと思います。
赤ちゃんに毎週シロップを飲ませるのは、言うは易く行うは難し。忙しい育児の中ではなかなか大変です。
それでも、あなたの大切な赤ちゃんの命を守るため。
どうかケイツーシロップを飲ませてあげてください。
よろしくお願い致します。
参考文献
1)日本小児科学会ほか.新生児と乳児のビタミンk欠乏性出血症発症予防に関する提言(2022-08-08参照)
https://www.jspnm.com/topics/data/topics20211216.pdf
2)森 美貴,和田英夫.止血薬,抗線溶薬の適応と使用法2. 凝固促進薬(ビタミン K,プロタミン).血栓止血誌.2009;20(3):281-284
3)厚生労働省.第十八改正日本薬局方
4)白幡聡.乳児ビタミン K 欠乏性出血症ゼロを目指して取り組んだ40 余年.血栓止血誌.2020;31(3):340-344
5)ケイツー®︎シロップ0.2%添付文書(2022-08-08参照)
6)エーザイ.知っていますか 赤ちゃんへのビタミンK投与(2022-08-08参照)
https://medical.eisai.jp/useful/prescribe/pdf2/000003851.pdf
7)藤島暢.乳児ビタミンK欠乏性出血症.厚生連医誌.1986;3(2):1-3
8)幼若乳児にみられるVK欠乏性出血素因に関する研究班.幼若乳児にみられるVK欠乏性出血素因に関する研究(4)の詳細が書かれていますが、どこに発表されたものか詳細がわからなかったのでURLを記載しています)
https://www.niph.go.jp/wadai/mhlw/1980/s5501019.pdf