『ぼっちゃん』
2012年(日) 大森立嗣監督作品
秋葉原無差別通り魔殺人事件をモチーフにした人間ドラマで、
夏目漱石の小説とは関係ない。
この作品の主人公には人間的に全く共感でいないが、
作品としては観るべきところが多いし、
すぐ隣で起きているかもしれないという恐怖を感じる。
長野県の工場に派遣社員として雇われた梶(水澤紳吾)。
自らの容姿や性格に劣等感を抱き友達もいない彼は、
携帯の掲示板に鬱屈した思いを吐き出す生活。
孤独だった彼に、
あるきっかけで、
田中(宇野祥平)と仲良くなり、
二人は友達になる。
二人の関係は恋愛に近いもので、
お互いの知り合いに対して嫉妬に近い感情を持ったりする。
二人の共通の敵が、
イケメソ(梶がイケメンに対して使う蔑称)の黒岩だった。
二人は、
梶が二人にはないものをすべて持っていると感じた。
そんな黒岩の元から逃げてきた女ユリ(田村愛)を、
二人で匿うことになってから、
二人の関係は壊れ始め・・・
これだけ自虐の凄い主人公はめったにない。
表情が乏しいため、
なにを考えているのかわからない狂気が潜む。
秋葉原事件の犯人からモチーフを得たということだが、
彼も孤独だったのだろうか。
(もちろん同情するつもりはないが)
孤独は狂気を呼び起こす。
『タクシードライバー』(1976)の主人公トラビスがそうだったように。
このシーンは、
当然『タクシードライバー』を意識したものだろう。
オマージュか?
場面転換の時のジャズの音楽が効果的で、
時に飛躍しすぎる展開も、
力技で見せてしまう。
水澤紳吾の無表情な熱演が光る佳品。
誰もが叫びたがっている声を代弁している作品ともいえようか。