*伊達 政宗*のブログ

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数日は何事もなく過ぎていった

井上から山南の負傷のことを聞いてから皆の様子は元気がなかった
近藤をはじめ、山南のことを心配していることはよく分かった


二度と真剣を振えないかもしれない・・・―――――――――――


その真実が深刻だからこそ誰も口に出せないのだろう・・・

―――――――――山南さん・・・いや、敬助の傷がどの程度か分からないから何も分からないが・・・


取りあえず、二人の帰りを待つのが最善か・・・


そう思いつつ、平助と新八のおかずの取り合いをしているいつもの広間の光景を見ながら飯を食べていると廊下から足音が聞こえてきた。
静かに板戸が開く。


ス・・・・―――――――


朱音「(土方さん・・・・戻ったのか)」


お茶を手に持ちながら朱音は土方が入ってくる様子を見ていた。他の幹部も同様に。千鶴は思わず箸をおいていた。
土方は旅装束も解かずに黙ってはいってきた。そして、その後には山南も姿を現した。その姿に、隊士たちは驚きを隠せなかった。
浅葱色の羽織で隠すようにしていたが、白い布で吊っている左腕が痛々しかった。何より顔色がさえなかった。


――――――あれは・・・相当の深手だったようだな。


見ただけでわかる・・・あの左腕はもう動かない


山南「ただ今戻りました。」


山南の声に、箸をおいた一が居住まいを正し、


一「総長、副長、お疲れ様でした」


と折り目正しく挨拶するが、総司は土方たちをちらりと見るだけで


総司「おかえりなさい」


食事の手を止めることはない。上座に座っている近藤が


近藤「ご苦労だったな。左腕の傷はどうだ?」


と、労いもほどほどにして山南に訊ねた。


山南「ご覧のとおりです。不覚を取りました」


山南はいつもの穏やかな口調で答えると、自分に注がれている視線を気にしてか笑顔を作った。作り笑いだ。


山南「大丈夫ですよ。見た目ほど大げさな怪我ではございませんので、ご心配なく」


平助「山南さん、飯は?」


結構です、と山南は平助に言い


山南「少し疲れたので、部屋で休ませてもらいます」


誰にともなく告げると部屋を出ていく。
その時、朱音は1枚の花びらに小さくこう告げた。


朱音「敬助の後を追え。嫌な予感がするからな・・・」


すると、花びらが1枚誰にも気づかれずに山南とともに部屋を出て行った。


――――あの様子は尋常じゃない・・・ほっておくわけにはいかねぇな


山南が出て行ったあと、周りには重苦しい空気が広間を包んだ


総司「―――で、土方さん。本当のところ山南さんの怪我の具合はどうなんですか?」


廊下から山南の足音が消えるのを待って、総司が口を開く。気のないふりをしていたが、本当は心配で仕方なかったのだろう。


近藤「・・・・まだ何とも・・・朱音「あまりよくないだろうな」・・・え?」


突然聞こえた声に全員が見る。それは朱音だった。

近藤の横に歩こうとした土方は朱音と千鶴の姿に気づき、足を止める。


土方「何でお前たちがここにいる?」


千鶴「・・・・え?」


朱音「・・・(フッ)」


千鶴がビクッと肩を震わせるが、朱音は何も動じない


土方「誰が『部屋を出て広間で食事を取っていい』と許可した?」


焦った平助が近藤に視線を向け


近藤「ああいや。トシ、これは俺が・・・―――――」


井上「いや、私が・・・――――――」


井上が胸に手を当て、身を乗り出す


]新八「俺が言ったんだよ」


左之「俺が言ったんだ」


新八と左之がほとんど同時に言うのを聞いて、平助は観念したように


平助「俺が誘ったんだ!一緒に食べようって」


半ば自棄のように怒鳴った


土方「勝手なことしやがって・・・」


土方は平助をぐっと睨みつけ、苦々しい顔で呟く


平助「いいじゃん!飯ぐらい!千鶴と朱音は逃げないって約束してるし、この半月、本当に逃げようとしなかったんだから」


土方「たかが半月だ」


言い返した平助に、土方は冷たかった


総司「なら、土方さんが付きっ切りで監視したらいいじゃないですか」


総司は薄笑いをしながら澄ました顔で味噌汁をすする


―――――総司のいうことは間違ってないな・・・


千鶴「(どうしよう、私のせいで変な空気に・・・―――――)」


千鶴はいたたまれなくなり腰を浮かしかけた。近藤は咳払いをし


近藤「トシ、どうだ。食事ぐらいはここで取るのを許可してやったら」


と、土方を見上げる


土方「近藤さん。あんたがそんなに甘くちゃ、この先、隊の統率が乱れるぜ」


近藤「ん・・・」


近藤は「全く、トシにはかなわんなぁ」という顔で、しきりに頭を掻いて見せた


千鶴「・・・あ、あの、私やっぱり自分の部屋で・・・――――――――」


朱音「なら、私もそうさせてもらおうか・・・」


千鶴と朱音が同時に膳を持ち上げかけたときだった


土方「食事だけだぞ」


千鶴「え?」


驚いて顔を上げると、土方は千鶴と朱音の視線を避けるように、どっかりと自分の席に腰をおろした。


土方「・・・・俺の飯も頼む」


井上「あぁ、今用意するよ」


井上が、勝手場から土方の膳を運ぶためにきびきび動きだす。


千鶴「(土方さん・・・・)」


朱音「・・・・フフ」


千鶴と朱音は膳を元通りに据えると、仏頂面の土方に向かって千鶴はぺこりとお辞儀した。


平助「やったじゃん、千鶴、朱音」


隣にいた平助を千鶴の肩をポンとたたく


平助「これからもみんなと飯が食えるな」


千鶴「はい!」


その様子にこっそり目を合わせた新八と左之、朱音は小さく笑いあった


土方「で・・・?朱音」


朱音「ん?」


井上から膳を受け取り、食事をしている土方が話かけた。


土方「さっき、近藤さんが山南さんの傷のことを答えようとしたとき遮ったよな?」


総司「そういやそうだね・・・あれ、何だったの?」


聞いた総司以外にも全員が気になっていた。さっきは土方が別の話に変わったが。


朱音「あぁ、あれか?あれは・・・・


山南さん、いや敬助の左腕は治る見込みはないことを言おうと思ったんだよ」


全員「!!!!??」


朱音からの衝撃の告白に全員が固まった。

しばらくして土方が口を開く


土方「朱音・・・・どういうことだ?山南さんの傷が治る見込みがねぇっていうのは」


朱音「あの傷は相当深手だ。上げることさえ儘ならないはずだ。」


土方「・・・・」


朱音「信じたくないだろうけど本当のことなんだろう?土方さん」


朱音がそういうと全員が土方を見つめる。


左之「本当なのか?土方さん」


近藤「トシ・・・」


暫く、土方は考えながらため息を吐いて口を開いた


土方「あぁ、その通りだ。山南さんの腕は治る可能性はねぇ」


新八「まじかよ・・・・」


それを聞いて全員が再び黙った。土方は朱音と千鶴に目線を向けながら


土方「ここからはお前たちが聞くべきところじゃねぇ。さっさと部屋に戻れ」


千鶴「え・・・でも」


その時、ぐっと朱音に肩を掴まれた


朱音「ここは従っておけ。・・・邪魔したな。行くぞ、千鶴」


朱音は千鶴を先に部屋を出させると後を追うように部屋を出た



廊下――――――


千鶴「朱音・・・良かったの?部屋を出て」


あの時の朱音は山南さんの腕を見て何かを感じ取ってたみたいだった


朱音「そりゃ、出たくなかったさ。あのままに私だってしたくなかった」


敬助の様子から見てどう見てもおかしかった。

元気がなかったのは確かだけど、一番気になったのは前に総司が言っていたこと


総司「薬でもなんでも使ってもらうしかないですね。山南さんも望んでるんじゃないのかな」


薬とは一体なんだ?この言葉を聞くとどうしても嫌な予感しかしない

新選組が守りたいほどの秘密・・・


千鶴「朱音?」


朱音「あぁ・・・すまない。少し考え事をしていた」


千鶴「山南さん・・・大丈夫でしょうか?」


不安そうにする千鶴に朱音はポンと頭に手を置いた


朱音「お前が心配する必要はない。きっと大丈夫だ。・・・今日はもう寝ろ」


いつの間にか部屋の前まで来ていたらしく、その場で止まる


千鶴「はい、ありがとう朱音。おやすみなさい」


千鶴は一礼をして部屋に入っていった

朱音は空に輝く星々を見上げた。


―――――敬助には落桜をつけてある。本当は予想は当たってほしくはないんだがな・・・


異変があればすぐに変化が表れるはず・・・今は様子見としかできないか・・・


そう思いながら、朱音は自分の部屋に戻るのだった




行燈の明かりが揺れるたびに、壁一面に置かれている箪笥の木目がうっすらと浮かび上がる。

大坂に行っている間に、誰かが気を利かせて油皿を満たしたのだろうか。灯芯がジジ・・・と音を立てていた
山南は自室の机の前に座り、白布に包まれている左手をじっと見下ろしていた。
指を動かそうとすると、激痛が走る。


山南「くっ・・・」


これでは鯉口を切ることすらままならないだろう。刀が満足に使えないようでは、新選組の平隊士としての


価値もない――――――――――


眉間に深い皺を寄せると、脳裏に浮かんだ思いを遠ざけるように、山南は行灯の灯袋を上げ、その火を消した。
その机の近くには月明りに照らされゆらゆらと揺らめく紅い液体の入った小瓶と蒼く淡い光を放つ落桜の花びらがあった


第9話に続く