がんすりもどき 挿絵追加 | 夕方過ぎまで また寝てた

夕方過ぎまで また寝てた

ゆっくりしていってね!

吹雪いてきたな。これじゃ暗視野光増幅装置(ノクトヴィジョン)より
赤外線熱源装置(インフラ)の方がまだましか。

なつねはゴーグルスコープのモードを切り替えたが
依然、視野は真っ暗のままだった。

ふーっとため息をついて役立たずのゴーグルを額に押し上げ、
通称クマの口、襟元の大きな三角インカムを引き上げて
口元にかぶせ、みゆうに通信を入れる。

敵は依然見えません。少しつっかけてみますか。
無理はしなくていい。現状維持を優先だ。
それにしてもどこが簡単な護衛任務ですか。公安の武装護衛だけだったはずでしょ。
文句言わない。もう私たちだけがここで何かをできる立場なんだから。


改造手術を受けた少女たちの戦闘部隊、コードネーム:ショコラは、
しょせん女・子供の集まりと組織内でも軽く見られがちなのか、
今日も公安のお伴的な任務で出動した。

麻薬取引の現場を押さえるだけと言われたはずなのに、
明らかな待ち伏せの襲撃を受け、公安は瞬時に壊滅、
罠としか思えない現場に取り残されたのは、
分隊長のみゆうと、ついこの前までは新人扱いされていた
えりおとなつねの3人だった。


増援は要請したんですか。
「店長」に「シフトを増やすように」連絡したけど「後で迎えに行くから」でしまいだよ。
無線の向こうでみゆうはため息をついた。

私たちでなんとかするしかないな、
私が狙撃ポジションとるから二人は無理のないように陽動してくれ



みゆうは無理するなと言ったがなつねはどうしてもみゆうに手柄を立てさせたかった。
ここで迎撃に成功すれば部隊ももっと認められる、みゆうの苦労に報いる事ができる


そんな焦りから、ついうかつに木陰から身を乗り出した
なつねの傍を弾丸がかすめ雪煙りが上がり、
それと同時に胴体に強い衝撃が加わりなつねは横に転がされた。

こういう時のえりおは野生的な勘を発揮する。
瞬時になつねを弾き飛ばしながら
弾着の元の方向に数発弾丸を撃ち込むと、鈍いうめき声と共に人影が倒れた。


なつね、危なかったよ。
えりおがタックルしてくれなければもろに当たっていた。
なつねはぞっとするとともに、
えりおの左腕がぐしゃぐしゃになっているのを見て
泣き叫びたい驚きにとらわれた。

えりおっ、それっ、大丈夫っ?
うん、ここ義体だから。後で修理すればどうってことないよ。

えりおは笑ってみせるが
疑似神経の通った義腕に傷を負って何ともないはずはない。

ごめん、・・・・ごめん、えりお・・・・
大丈夫だよ、それより敵はまだいるよ、気を抜かないで。

えりおは砕けてコードの見える腕の損傷部に
素早く保護テープを巻くと、
雪うさぎのように跳ねて吹雪の闇に消えていった。



もう失敗は許されない、確実に敵を仕留めなければ・・・
胸の鼓動を抑えるように唾を飲み、
深呼吸してなつねはLEDの時限発光機を向こうの木立の陰に投げた。

いかにも暗闇で機器を作動させたような電子光が
数メートル先でほのかに光った瞬間
2時の方角から弾着があり、
その元になつねは立て続けに弾丸をぶちこんだ。

一度収まったように見えて再度そちらから不正確な射撃があり、
すると横の高い木の上から1発の弾丸が放たれ、
それきり辺りは静寂に包まれた。

ピンヘッドみゆうの名は伊達ではない。
一撃で敵にとどめをさしたみゆうは
電動リールワイヤーでするすると木から降りると
木陰にうずくまるえりおを抱きかかえ、なつねの元に駆け寄った。



大丈夫か、なつね。
私は大丈夫です。それよりえりおが。
上行性神経遮断と局麻の応急処置はした。それよりお前の肩も見せてみろ。

その時初めてなつねは自分の左肩付近が損傷している事に気がついた。


あ、この辺、義体ですから。大丈夫ですよ。
でも良かった、無事で。
お前にもしもの事があったらどうしようってずっと思ってたんだ。


みゆうはなつねを抱きしめ、その長い髪がなつねの首と肩を覆った。


みゆうさん、だめ。 私の肩、金属むき出しだから触ると冷たいです。
いいんだ、黙ってろ・・・





安心したのと切ない気持でいっぱいになり、
なつねは泣きたい気持ちだった。
ただ数回目の改造手術以来、
神経が損傷したのかなつねは涙が出なくなっていた。


みゆうさん、ありがとう・・・
でも、私、こんな体になっちゃって泣く事もできない・・・

うん、お前が泣けない分は私が代わりに泣いてやる・・・だから・・・



触れる長い髪に交じって首筋に暖かいものが伝うのを感じた。
みゆうさんが泣いてくれてる・・・
ああ、私、もう、これだけで十分だ・・・



その時遠くからサーチライトとヘリの爆音が聞こえ、
雪煙りを上げて数台のスノーモービルがやってきた。

ようやく来たか、おーい、医療班(メディック)、こっちだー。

発光モードにした義手を振るみゆうの元に、
スタッフ、戦闘員、そしてようやく到着した「店長」が
コートの襟を立てながら歩み寄った。


おいーお前たちー無事かー

「店長」~、今頃来たってもう「閉店」ですよ~、それより公安の裏、取って下さいよね。
絶対これ上層部の内紛に私たち巻き込まれてるし。

いやー、すまんすまん、そっちはしっかりやっとくよー、
それはともかく、よくやった、何か飲みに行くか、そうだ、ビールでもどうだ~

そんなんじゃごまかされませんからねっ!
まあそれはともかくとりあえずビールは飲みに行きますけどっ。


無事を確認した「店長」はひらひらと手を振りながら背中を向けて歩いて行った。



さ、撤収だ。急ごう、みんな。


歩きかけたみゆうはふと足を止めると、
なつねの頭をなでながら微笑んだ。



よくやったな、ありがとう、なつね。
お前が最前線張ってくれなきゃ、
この地形で押されたらみんなが危なかった。
でもこれからも無理はするなよ。
私はそんなに何度も泣くつもりはないからな。

み、みゆうさん・・・


そのままくるっと踵を返し歩くみゆうの後ろ姿になつねは胸がいっぱいになった。





おーい、なつねー!

左腕を固定したえりおが後ろから走ってきて
がしっとなつねに抱きつき
そのまま手を引いて不器用に雪をかきわけながら走りだした。

みゆうさーん、待って下さいよ~、私もビール飲み行きますよ~

お前にはまだビールは早いよ、ホットミルクでもごちそうしてやろうかね。

もう、私だって飲めるんですからね、おこりそう!!



早くみゆうさんと飲み交わせるようになりたいなあ、
なんて思いながら、なつねはさっきまでの緊張も忘れ、
えりおに手を引かれ深い雪をざくざく踏みしめながら走るのだった。



おわり