今の時期、麓がかすみ、富士山は宙に浮いているように見える。
眼を上へ向けて、白雪の山頂が見える。
かつて、明治の初めに日本を訪れ奥地へと旅したイギリスの女性探検家・イザベラ・バードが
初めて富士山を見た時の様子を次のように記述している。
彼女の乗った船が東京湾へ入ってきたときのこと。
甲板では、しきりに富士山を賛美する声がするので、
富士山はどこかと長い間さがしてみたが、どこにも見えなかった。
地上ではなく、ふと天上を見上げると、
思いもかけぬ遠くの空高く、巨大な円錐形の山を見た。
(中略)しらゆきを頂き、素晴らしい曲線を描いて聳えていた。
その青白い姿は、うっすらと青い空の中に浮かび、
その麓や周囲の丘は、薄ねずみ色の霞につつまれていた。
それはすばらしい眺めであったが、まもなく幻のように消えた。
(中略)これほど荘厳で孤高の山を見たことがない。
近くにも遠くにも、その高さと雄大さを滅殺するものがないのである。
平凡社『日本奥地紀行』より。