☆*:.。. 注!腐的妄想です .。.:*☆





「はぁ〜食った食った。
美味かったよ。
料理だってやれば出来るんじゃん。
これからも作ってみろよ。
この調子だったら直ぐに何でも作れるようになるぞ?」

大げさに褒められてお世辞だと分かっていても顔がニヤける。

「そうっすか?」

「一番美味かったのは…」

うんうん。

「やっぱ鰻かな」

「えーーーっ?!」

思わず大声を上げると大野さんが大笑いをして

「あはは…ウソウソ」

「ひっでぇ…」

俺がふくれると 悪戯っ子みたいな顔から
急に優しい表情になって

「…野菜炒め…美味かったよ。
一番最初に一緒に食った野菜炒めの事…思い出した」

あ…
覚えてたんだ…

大野さんと出会った、俺にとっては特別な日…

大野さんも覚えていてくれただけで胸の奥が熱くなった。


「さて…そろそろ片付けて寝るか!」

大野さんが立ち上がりながら手前の皿をつかんだ。

「あ、俺が洗うんで…」

俺も立ち上がりながら手で制すると

「いいよいいよ。俺も手伝うから…」

「いえ…俺がやります。
片付けまでが料理って言ったのは大野さんですよ?
だから…最後までちゃんとやりたいんで…」

そう言うと大野さんが俺の顔を見て目を細めた。

「そっか…じゃぁ頼むかな」



洗い物をしている俺の後ろで
ダイニングセットの椅子に座った大野さんが

「明日は現場で荷物受けとんなきゃなんないから早目に出るわ」

「何時くらいですか?
朝飯くらいは一緒に…」

「いや…日曜だしゆっくり寝てろよ。
勝手に出てくから…
そうだ…ここン家の鍵は外の郵便受けに入れとくわ」

鍵…

あ…俺も鍵を返さなくちゃ…

大野さんから渡されたリノベの現場の鍵…
これからは大野さんの家の鍵になる。


泡だらけの手を水で濯いでタオルで拭くと
ジーンズのポケットに手を突っ込んで
まだ真新しい銀色の鍵を取り出した。

この鍵を貰った一ヶ月前は「一人っきりで現場に行くのか…」と
憂鬱な気持ちになったけど 今はこの鍵を手放す事で
大野さんとの繋がりが断ち切られる様な気がして胸が痛んだ。


手のひらの上で…
蛍光灯に照らされて銀色に輝く小さな鍵…

じっと見つめて…ギュと握りしめた。

握りしめたままの拳を大野さんに突き出すと
大野さんが俺の拳を見つめた。

大野さんの手のひらがゆっくりと俺の拳の下で止まる。


楽しかった時間も もう終わり…

でも…
今まで通りの日常が戻ってくるだけじゃないか。
やりがいのある仕事に 恵まれた上司と同僚達…
何の不満もない…今まで通りの毎日。

大きく深呼吸をして拳を開いた。


手のひらに落ちてきた鍵を大野さんが黙って見つめている。

その顔が物憂げに見えるのは俺の気のせいだろうか…


暫し沈黙して鍵を見つめていた大野さんが

「櫻井…」

不意に俺の名を呼んだ。


「……はい?」

視線を落としたまま

「……来るか?」


え…?


「お前も一緒に来るか?」


心臓が跳ね上がって…
一瞬 呼吸を忘れた…


あぁ…
それはきっと…

俺が一番欲しかった言葉…



「…いいん…っすか?」

思わず声がかすれた。


「ば〜か…ダメなら言うか」

顔を上げた大野さんが照れ臭そうに笑うと

「一人で住むには広すぎるし
これからはモデルハウスとしてお客に色々説明しないといけないからな。
連帯責任だ…お前も来い!」



「はいっ!」



☆*:.。. 終 .。.:*☆